六章 「記憶」
#1
「今日はどうするの?」
放課後。
ランドセルを背負いながらケンゴとコータとワイワイやっていると、アリサがやってきた。
「行くに決まってんじゃん!」
「もう三日も行ってないしね」
異世界から日本へ戻って、今日で4日経つ。
ぼくたちはそれぞれ酷いホームシックの後遺症で、なんとなく秘密基地へ向かうことなく家族で過ごしたりしていたんだけど……。
「そろそろ家族が変に思い始めてるしね……」
しばらく日本に戻れなかった僕たちはともかく、家族にとっては一日も経っていないわけで。
おかげでお母さんからは「甘えん坊ね」とか言われるし、お父さんには「何か悩みでもあるのか?」と心配されるし、
そろそろ日常に戻りたい。
みんなも秘密基地に戻りたくなってくる頃だろう。
「それもあるんだけど、パパが注文を間違えてさ……」
「お?! 肉か!?」
「やりぃ、焼肉っ!」
「親父さん最高じゃね?!」
そうなのだ。
アリサの親父さんは洋食屋をやってるんだけど、ちょくちょく注文を間違えて、アリサが証拠隠滅に手を貸している。
おかげで僕たちは秘密基地で肉を焼いて食えるってわけ。
「何? どうしたのー?」
「うおっ!? まぶしっ!?」
ヒョコ、とカナちゃんが顔を出したので、ぼくは思わず目を覆った。
な、なんて可愛いんだ。
眩しくて目が潰れそう。
前から世界一可愛いと思っていたけど、もう直視するのも畏れ畏れ多いくらいに可愛い。
カナちゃんのことは幼稚園の頃からよく知っているけれど、知れば知るほど可愛いんだよ。
「何やってんの、ダイチくん」
「いや、先生が太陽は直視しちゃダメだって言ってたから」
「???」
カナちゃんが可愛く首を傾げたが、ケンゴが腰に手を当てて言った。
「そんなことより、今日からダンジョン探索を再開するからな!」
「賛成。
「「イェーイ」」
「じゃああたしはお野菜持って行こうかな」
「えー、野菜ー?」
「えっ、ナスとか美味しいじゃん」
「俺ナス無理ー」
そういうことで、久しぶりのダンジョン探索が決まった。
しかも焼肉付き――楽しみだ!
▽
日本に戻ってきて、前と変わったことはカナちゃんの可愛さの他にもいくつかある。
一つはアリサが「秘密基地」の仲間しかいないところでは無理な標準語を使うのをやめたことだ。
聞けば、昔からカナちゃんと二人の時は大阪弁混じりで話したりしていたようだけど、秘密基地のみんなの前で無理をするのが嫌になったそうだ。
多分、本当はケンゴに本当の自分を見てもらいたいだけなんだろうけど、当のケンゴは何も気づいていないので、黙っておこう……アリサ頑張れ。
もう一つは、ケンゴがちょっと大人っぽくなった。
いつも全力の大声で喋っていたのに、最近は普通の声で喋るようになった。
それでもちょっと声量が大きいけど。
本人曰く、リーダーたるものメリハリが大事なんだそうだ。
コータはあまり変わらないけれど、前よりも女子たちと距離が近くなったような気がする。
前はちょっとだけ女子を怖がっていたというか、少し壁があったんだけれど、流石にあれだけの長い間一緒にいればそうなるのも無理はない。
あと、迷宮に順応したおかげで少し目が良くなったそうで、メガネの度が合わなくなって困っているらしい。
え、ぼく?
ぼくは何にも変わらないよ、だって異世界じゃほとんどの時間を「罰当たりのグレン」が混じった状態で過ごしていたんだから――。
▽
「ばあちゃーーん!! 今日もーー!! お山をーー! お借りしまーーす!!」
「ほぅーい」
おばあちゃんの返事を遠くに聞いて、裏手に回る。
苔の生えた石段をゆっくり登り、しばらく降ると石がゴロゴロしている河原が見えてくる。
足場が悪い川沿いを進むと、赤みを帯びた目立つ巨石がある。
そこを右へ行くと草に隠れて石段が上に続いている。
石段を登り、何やら小さな祠やら割れた瓦が散らばっているのを横目に進めば、目的地に到着。
僕たちの秘密基地――巨大な洞窟が口を開けている。
しめ縄を潜る前に、祠に手を合わせる。
今日もばあちゃんが先に来ていたらしく、燃え尽きた線香の束の横にタッパーに入った手作りの大福がお供えされている。
あとで大福わけてもらおう。
「それじゃ、会員証を出せ!」
ケンゴの指示に、全員がニッと笑って首からお守りを出して見せる。
「よし。秘密基地への入場を許可する。それじゃ、準備開始!」
「「「「おー!」」」」
ぼくたちは
まさか家に持って帰るわけにもいかないしね。
いそいそと防具をつけ、腰に剣やらワンドを装着するメンバーたち。
こうしてみると、すっかり冒険者らしくなったと思う。
「「じゃーーん」」
女子二人がポーズをつける。
ここに来ることを見越して動きやすい格好を選んでいたのだろう。
普段着に防具と武器を下げた二人は、ものすごくかっこいい。
カナちゃんがワンドをくるくるパ、と動かして、ニコッと笑った。
可愛すぎてぼくは、もう死ぬかもしれない。
「ぼくも、ちょっと久しぶりだけど」
コータがどこか照れ臭そうにポーズをつけた。
そういえば、コータはお小遣いでワンド用のケースを買っていたんだっけ。
コータはいかにも魔法使いっぽい雰囲気があるっていうか、某魔法使いの映画のキャラクターっぽいんだよな。
「男ならやっぱ剣だろ!」
腰から剣を抜いて勇者っぽく掲げるケンゴ。
確かになかなか決まっているが、「男なら」と言われてもぼくとコータは何と答えたら良いのだろうか。
「で、ダイチに至っては剣もワンドもなし、と」
アリサに指摘されるが、確かにぼくは特に武器を持っていない。
普段なら一応小刀や短剣を身につけるところだけれど、はぐれ階層にそんなものは必要ない。
一応魔石もいくつかポケットに入っているし、何よりも頼もしい仲間がいるからね。
「それじゃ、いくか!」
「「「「おーっ!」」」」
こうしてこの日、ぼくたちは久しぶりの探検をしにダンジョンへと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます