#2
「ちょっと先にクモが三匹。コウモリもいるね」
「了解……でも今日はモンスターが少ないね」
「っていうか、この階層が異様に少ねぇんだよな。他の「はぐれ階層」ならもうちょっと敵がいるのに」
「別に敵がいなくても良くない? バトル目的でもなし」
「それだと魔石が手に入らねぇじゃん」
ぼくたちはサクサクと前に進む。
すでに迷うような心配はないので、カナちゃんとコータの指示に従ってルートを決めている。
最初にモンスターを見つけるのはだいたいコータだ。
コータはすでに複数の曲がり角の先のモンスターまで索敵できるようになっている。
ぼんやりと目が光るのを気にしているけど。
「ここは曲がらず直進かな」
「了解ー」
カナちゃんのラックに頼った進行にはものすごい安心感がある。
ダンジョンではラックほど重要なステータスはない。
カナちゃん自身も「なんとなくこっちかな」といった感覚が、ただの勘ではなくてステータスに底上げされた天啓に近いものだと理解できているという。
「んめぇーーーーーーーん!!」
「ホォーーーームランッ!」
ぱぱぱんっ、と危なげなく倒されるモンスターたち。
それでもわざと何匹かのコウモリを後ろに回す――索敵や戦闘補助がメインとはいえ、中衛や後衛もレベル上げが必要だからだ。
「えいっ!『Stiria(氷の槍よ!)』」
「『Thorn(穿てっ!)』」
カナちゃんとコータもコウモリを斃した。
前はモンスターが消えるたびにどこか悲しそうな顔をしていたカナちゃんだけれど、どうやら踏ん切りがついたようだ。
「すごいね。ぼくの出る幕がない」
魔石を拾いながら、ぼくはほとんど後ろをついて回っているだけだ。
「そういや、ダンジョン内でただのダイチの状態って久しぶりじゃね?」
「ただのダイチって……」
「や、悪い意味じゃなくて。最近はだいたい大人ダイチだったろ」
「まーね、そういえばそうかも」
「悪かったね、役に立てなくて」
ぼくがちょっと膨れると、皆は少し笑って「どちらもダイチだろ」と言ってくれた。
まぁ、
「気にすることないよ」
「カナちゃん……」
「あたしよりは戦えるんだし、それにいざって時の安心感が違うもん。ダイチくんがいるからダンジョンが楽しいんだと思うなぁ」
「うっ……天使……」
カナちゃんの優しい言葉に思わず涙ぐむが、ケンゴが空気を読まずに話に入ってくる。
邪魔だなぁ……。
「そうだぜ。ていうかダイチがずっと大人ダイチのままだと、俺ら引率されてるみてぇじゃん」
「ケンゴ、引率なんて言葉よく知ってたね」
「うっせー、馬鹿にすんな!」
「だってケンゴ、バカじゃん」
「なにをー!?」
ぼくらの言い合いを見てカナちゃんがクスクス笑う。
それを呆れたように眺めるアリサ。
「へへへっ」
思わず笑うと、アリサが怪訝そうにぼくを見た。
「なに? ダイチ、変な声出して」
「いや、なんかいいなぁって思って」
「まぁ、ね」
ただの小学生な僕たちだけど、異世界を体験したことで少しだけ成長できたような気がする。
それに、ただのごっこ遊びだった秘密基地も、今ではギルドが認める正式なパーティだ。
全員、前よりもずっとずっと距離が近くなって、なんというか……
「本当の仲間になった、って思ってさ」
ぼくは嬉しくなってそう呟いた。
▽
「この辺りで休憩でいいんじゃない?」
「出た。ダンジョン七不思議『枯れた噴水』」
「てか、ここカインさんと会った場所じゃない?」
言いながら、ガシャガシャと荷物を下ろす。
モンスターが出る心配もなし、ここはゆっくり休むべきだろう。
カセットコンロや肉を取り出し、並べていく。
「肉っ!」
「うおー、めっちゃいっぱいある!」
ケンゴとコータが早速肉に手を出そうとするが、アリサが「コラ」といってそれを止める。
「まだ準備できてないっての」
「ジュースとかねぇの?」
「ぼく、肉食べる時にはお米欲しい派なんだけど」
「それなら、おむすび持ってきてるよ!」
カナちゃんがごろっと大きなおむすびをリュックから取り出す。
なんでもアリサの家の洋食屋で集まって握ってきてくれたらしい。
「カナちゃんが握ったの?!」
「そだよー。手が小さいから三角にできなかったけど」
「十分です!」
ひゃっほう!
カナちゃんのおむすび!
なんかドキドキするぅ!
「んじゃ、着火するで」
ボッと音がしてカセットコンロに火が灯る。
上にぼこぼこに凹んだフライパンを置いて、焼肉のスタートだ。
ジュー、と音がしていい匂いが広がる。
「ねぇ、もしかしてこれって」
コータがフライパンを指差して恐る恐る聞くと、カナちゃんは当たり前のように
「うん、前にに使ってた防具だよ」
「マジで……?」
そういえば、初めのうちはカナちゃん、包丁を武器に、フライパンを防具にしてたっけ。
何度かきゃーきゃー言いながらフライパンでコウモリを叩くところを見た気が……。
「大丈夫だよ、ちゃんと洗ったもん」
「そ、そだね……」
コータがビクビクしているが、周りのみんなは気にならないようだ。
ぼくはといえば、カナちゃんの握ったおむすびと、カナちゃんがひっくり返してくれたお肉をありがたくいただいた。
世界一美味しかった。
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