#25
「
その攻防により、パーティメンバー12人中9人が死亡、二人が再起不能、リーダーのガラハドも怪我により引退することとなったが、その名誉は民衆の感謝と共に永遠に歴史に刻まれることとなった。
ガラハドはこの勝利に「ウィンスター教会」という新進気鋭の若手パーティが参加していたこと――むしろ主体であったことを主張したが、それはクルツらメンバーたち自身によって止められた。
自分達が戦ったのは「
いわば雑魚狩りをしただけであり、それだけでこの栄誉の一部でも受け取れば冒険者としての名誉に傷がつく。
もしパーティ名を出すならば
もちろん、ギルドは事実を知っている。
その上で「
この一件によりギルドも、騎士院と教会に引き続き「ウィンスター教会」に対して絶大な信頼を抱くこととなる。
なお、非公式とはいえそれなりの報奨金が出た。
それにより、ウィンスター村の教会の雨漏りを修理し、向こう10年は持つであろう窓ガラス(悪ガキどもが頻繁に割るのだ)と修理のための資材を購入した。
これで自分達に何かあったとしても、孤児院の運営は当面問題ないはずだ。
「ウィンスター教会」の連中にとってもホクホクの結末である。
▽
「冒険者パーティ『ウィンスター教会』! 条件を満たし、またその功績を認め、貴殿らに『エレメンタル・マスター』の称号を与える! これからの貴殿らの活躍に期待するっ!」
「「「「はっ!!」」」」
「いぇーい!」
パチパチとギルド中から拍手が送られる。
一番うるさい音でパンパンやっているのは、滂沱の涙を流すガラハドだ。
称号を与えられるというのは非常に名誉なことだ。
しかし冒険者ギルドなど所詮は荒くれ者の集まりであり、そこまで鯱張った授与式があるわけでもなく、かなりフランクな雰囲気である。
「ウィンスター教会」の面々も「ども、ども」といった感じで周りに愛想を振り撒いたり手を降ったりしている。
アイリスに至っては飛び回っているが、それを不敬だなどと思うものはここにはいない。
――エレメンタル・マスター。
歴史上7組目の「全属性の魔術師が揃った冒険者パーティ」の誕生だ。
そのどれもが歴史に残るような偉大な功績を残している。
現役パーティで言うと、現在世界に3組しか存在しない稀有な存在。
さらに「ウィンスター教会」は「史上最年少称号保持パーティ」となる。
称号にはパーティの特徴や功績など色々な要素から多種多様なものがある。
その全ての称号も、全員が十代のパーティに贈られたことは、ただの一度もない。
「ウィンスター教会」の平均年齢はまだ17歳。
まだ3歳のアイリスを含めずに、である。
もうこれから数百年は、この記録は破られることはないだろうと、誰もが頷いた。
▽
さらに「罰当たり」のグレンにはポータルの取扱免許が与えられた。
ポータルの設置は簡単だが、そこに「安全に」という条件が付与されると一気に難易度が上がる。
いくつもの魔石を使ってモンスター避けや
それらがあらかじめセットされた簡易ポータルもなくはないが、ほとんどは環境に合わせてやる必要があり、高価な割に役に立たない。
言わばポータルとは、極小のダンジョンのようなものなのだ。
そうした中、魔石の扱いに長けたグレアムにならポータルを任せても良いのではないかという話になった。
もちろんグレアムは一も二もなく歓迎した。
ポータルを自身で設置できるということは、つまりそれだけダンジョン内を自由に移動できるということだ。
届出やらなにやら面倒くさい部分はあるが、パーティにとってこれほど有用な資格はないだろう。
▽
既に崩壊した「
「不死の英雄隊」。命を賭してモンスター・スタンピードを防いだ英雄たちに送られる称号だ。
不死というのは、つまり既に死んでいるので「これ以上死なない」と言う意味だ。
まだ命を繋いでいるガラハドは苦笑したが、このギルドの慣例の意義はよく理解できるので、大人しくそれを受け取った。
――不死の称号をもらったなら、まだまだ働かなければな。
こうしてガラハドはギルド内で新人教育の教官として次の人生を見出した。
つまり「罰当たり」のグレンとは同僚ということである。
▽
「打ち上げしようぜ、打ち上げ!」
「「「「いいねー!」」」」
クルツの一声に、全員が賛同する。
たしかに、ようやく冒険を始める準備が整ったのだ。
教会については向こう10年問題なし。
称号と一緒に受け取った報奨金で、武器や防具も少し良いものと交換できた。
ガラハドは復活して「ガハハ」とやっているし、アイリスの存在も三代派閥に認められた。
そうなると、もううずうずして止まらないのが冒険者が冒険者たる所以だ。
いつもの酒場で馬鹿騒ぎしたものの、皆の心は迷宮に向いている。
ぶっちゃけた話、金は割とどうにでもなるのだ――何せ、低層に潜って雑魚狩りするだけで最低限の衣食住は賄える。
贅沢をしたいわけでなし、安定を求めて貯蓄するようなタイプでもない。
ならば、金や名誉のためではなく、冒険のための冒険がしたいではないか。
迷宮に潜る者として、もっと、もっと、もっと深層に辿り着きたい。
心躍るような冒険が俺たちを待っている!
「じゃあ、いっそ迷宮内で打ち上げするってのはどう?」
グレアムがまた頓珍漢なことを言い出す。
「いや、危ねぇよ!」
「落ち着かないのはちょっとね」
不評もあるが、グレアムが自慢げにチチチと人差し指を立てて言った。
「それがそうでもないんだな」
「……あ、もしかして」
「先日新しい『はぐれ階層』が見つかったって聞いたけど……」
「そう、それ!」
ピシ、とマーガレットを指さすグレアム。
『はぐれ階層』――つまり、モンスターが出現できないほど魔力が薄い、何のために存在するのかわからない「無駄な階層」、迷宮の
確かに、このメンバーであればピクニック気分でも問題はないだろう。
出来立ての階層であるところが気になるところではあるが、モンスター・スタンピードを阻止したばかりであれば、迷宮全体の総魔力量も落ち着いているだろう。
「『ウィンスター教会』らしくていいんじゃない?」
「そうかも? どの程度の階層かわかんないけど」
「アタシも賛成さっ!」
「『噴水』があればテーブル代わりになるね」
「飯と酒も持って行けばいいんじゃないか?」
「「「「「いいねぇ!」」」」」
というわけで、ウィンスター教会の打ち上げを迷宮内で行うことが決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます