#23
臨時メンバーとしてガラハドが参入したことで、メンバーの配置を変更することとなった。
前衛はガラハドとクルツ。
目的地へのルートを知る者がガラハドしかいなかったため、今回に限っては指示もガラハドに出してもらうこととした。
中衛はユーフェンとマーガレット。
ユーフェンは一つ下がった形になるが、囲まれた時の精密射撃に適した陣営だ。
360度索敵が必要なため、マーガレットは定位置のまま。
後衛はアイリスとグレアム。
後ろからの接敵を想定した形だ。ガラハドたちが抑え切ったとはいえ、モンスター・スタンピードが起きる寸前だったのだ。アイリスの索敵に期待している。
残念ながら、今回はカルロスには残ってもらった。
「私も向かいます」とカルロスは言ったが、カルロスは冒険者ではないし家族もいる。
今回死地へと向かうのは、いわば冒険者の意地のようなものだ。
そこは筋を通させてもらった。
なお、噂を聞きつけたオリヴィアも付いて来たがったが、オリヴィアは自分の実力をよく理解している。
悔しそうに「私では邪魔になるからな……」と言って自ら辞退した。
故に、メンバーはたった6人――それでもこの街の冒険者ギルド、最大戦力である。
▽
向かうのは七十二階層。
つい最近
ポータルを通り、七十階層からの潜行となる。
次々と襲い来るモンスターを駆除しながら、情報交換にも余念がない。
「
昆虫系のモンスターが複数種混合で襲ってくるが、クルツが三匹同時に切り捨てる。
「いや、魔力炉は確認済みである。問題はなかった――ぬぅんっ!!」
ガラハドが土魔法で固めた拳でぶん殴ったのは、以前『ウィンスター教会』が苦労させられたダークホーネット・クイーンだ。
あっという間に魔石に変わるクイーン。土魔法にこんな使い方があるとは……とマーガレットは目を見張った。
確かに敵の数が多い……これでもかなり間引かれた後だというから、「
「そもそも
ユーフェンの風魔法でドバッと吹き飛ばされる昆虫群――とはいえ飛ばされるのは軽量級のものばかりだ。
大きいから強いとも、小さいから弱いとも限らないのがモンスターだ。
いわば選別。これにより前衛組は大物だけに集中できる。
「そこっ!
「『Aqua(水よッ!)』『Flamma(炎よッ!)』――よしッ! アイリスっ!」
「あいあいッ――『Stilla Stella(スタードロップッ!)』
あえて無視した他の細かい敵はアイリスの範囲攻撃により駆逐――「Stilla Stella(スタードロップ)」はアイリスにしか使えない広範囲殲滅魔術だ。一発一発の威力は大したことはないが、
ほんの一分程度の攻防。
数百匹以上も居た昆虫軍をこの短時間で一匹残らず駆除して見せた「ウィンスター教会」の練度に、ガラハドは驚きを隠せない。
自分を入れて12人も居た「
しかし「ウィンスター教会」はどうだ。
一人一人の技能も大したものだが、それだけならむしろ「
たった5人のパーティだが、一人が二人になれば4倍に、3人になれば8倍に、4人になれば16倍に、そして範囲攻撃魔術の使い手であるアイリスが入ることで、32倍どころか100倍の力を発揮する。
新時代が来たのだろうな。
ガラハドはそう感じた。
▽
「おでましか」
ここまで危なげなく潜行を続けた「ウィンスター教会」とガラハドは、ようやくオルトロスの群れに遭遇した。
まさに「
十字路の中心が広間になっており、面したすべての通路からオルトロスが唸り声を上げながら現れる。
その数、ざっと見積もっても五十匹は下回るまい――さらに奥には一際大きい個体……オルトロスのボス個体、おそらくは変異種だ。
「う、ぐぬ……」
ガラハドが脂汗を流す。
先日あれほど倒したというのに、この数は想定外だ。
戦える人数は「
勝てるだろうか。
仮に勝てても、無事に帰れるかどうか。
「おい」
剣を肩に担ぎ、腰に手を当てたクルツが、余裕たっぷりの態度で敵を見渡す。
「これだけいりゃ十分だな」
その言葉にガラハドはハッとする。
「予想以上に多い敵」が、その一言で「期待以上に多い敵」に変化したような気がした。
「おい、お前ら。ボス個体だけはガラハドにとっとけよ」
「?!」
隠しきれない高揚感を噛み潰すようにして笑うクルツに、メンバーたちは気負わない様子で返答する。
「そだね」
「わかったわ」
「ちょっと惜しいけどな」
「ちょっとだけ弱らすのもダメかなっ?!」
「ダメだ。あれはガラハドの獲物だ。そのかわりボス以外は好きにしていいぞ」
「あいあいー」
バッ、と陣形が変わる。
マーガレットを中心に、放射状にそれぞれが外向きの姿勢を取る。
「んじゃま……好きに暴れろ!」
「「「「ヤー!」」」」
戦闘が始まった。
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