#22
パーティ全滅。
よくある話ではあるが、当事者たちにとってはそれで済むような話ではない。
通常、メンバーの三分の一が倒れれば「全滅」と見做される。
12人パーティだった「
ガラハドも、かなりボロボロな状態だ。
治癒魔術が間に合わなければどうなっていたかわからない程度には。
▽
しかし、ガラハドの傷は体よりもむしろ心の方にあった。
憔悴っぷりは側から見ても酷いものだ。
「ウィンスター教会」の面々にとっても、先輩パーティの全滅は他人事ではない。
なにしろ、ウィンスター教会が一人前になるまで面倒を見てくれたのがガラハドだ。
それに、今では実力が拮抗しているとはいえ「
迷宮潜行を共にしたことはなかったものの、死んだパーティメンバーたちの顔もよく見知っている。
クルツが代表としてガラハドに声をかける。
「……ガラハド……その、なんだ……えーと……」
しかし何と声をかけて良いのかわからず口籠る。
クルツは有能なリーダーではあるが、あまり気遣いの上手い男ではなかった。
「……あまり気を使わんでくれ。我輩の実力が足りていなかっただけだ」
「んなこたねぇだろ。おっさんのことはよく知ってるけど、オレらにとっちゃ数少ない目標なんだ。その……だからあんまり落ち込まれても困るっていうか……えーと……」
その様子を見たユーフェンが堪りかねてマーガレットに軽く肘打ちする。
どう考えてもクルツには向いていない役回りだ。
かといってユーフェンやグレアムはもっと向いていないし、アイリスは論外だ。
マーガレットはちょっと泣きそうな顔をしながら、クルツとバトンタッチした。
「ガラハドさん、元気出して。リーダーがしょぼくれてたら、死んだメンバーたちが悲しむよ」
「……そう、であるな」
「ガラハドさんて豪快そうに見えて意外と繊細っていうか……優しいって言うか……その、だからみんなついて来たんだと思うの」
ああ、あたし何言ってんだろ、とマーガレットはパニクりながらも言葉を紡ぐ。
「だからさ、だれもガラハドさんのせいだなんて思ってないよ」
「だが、我輩に付いて来てくれた仲間たちを守れなんだ……我輩は……どうすれば良いのだろうなぁ」
ポロリと涙をこぼすガラハド――ゴツすぎる見た目のガラハドが泣く姿は心にくる。
皆はどう励まして良いのか迷った。
本当なら、むしろ放っておくほうが良いのかもしれないが、ウィンスター教会の面々は自分自身の気持ちとして、ガラハドから離れ難かった。
なお、こいつらの行動はあくまで自分達のためであり、親愛なる先輩ガラハドを慰めたいという
そして空気が読めない男が一人。
「ところで、オッサンの仲間たちを殺したモンスターってどんなやつだったんだ?」
「グレン?!」
「ちょ、おま」
さすがは「罰当たり」、その場にいる誰もが口にできないことをあっさりと口にしてくれる。
そこに誰も痺れも憧れもしないが、この無神経さはむしろ正解だったらしい。
ガラハドの目にギラリと光が灯る。
「オルトロス(双頭で尾が蛇になっている犬)の群れだ」
「オルトロス? 群れつったってそんなのおっちゃんたちの敵じゃ……」
「我輩もそう思っていたが、ボス級のものが出てな。さらには複数種のモンスターの群れが同時に襲って来たのだ」
「複数種?」
「全部は把握できておらんが、ダークホーネット、ポイズンラット、スタンディングセンチピード……それぞれ上位種混じりだ」
「?!」
聞けば只事ではない。
むしろ、ガラハドはよく戻ってこれたものだ。
「……それ、スタンピードの前兆じゃねぇの?」
モンスター・スタンピード――迷宮氾濫とも呼ばれる現象だ。
長らく放置され魔力が溜まり過ぎた階層、あるいは魔力炉の暴走などが原因でモンスターが無尽蔵に生み出され、迷宮の外にまで溢れ出ることを言う。
冒険者たちが迷宮に潜る理由の大きな一つである。
一度これが起きれば、街の安全は脅かされ、無辜の民の命が多く奪われただろう。
「おそらくそうであろうな」
「……やばいんじゃないの?」
「いや、群れの大半は我輩らで駆除できた。氾濫まではせぬだろうな」
「そっか……」
つまり「
まさに英雄的行為といって間違いないだろう。
しかし、それが広く讃えられることはない。
それでも、同じ冒険者たちにとって、ガラハドたちの英雄的行動とその結果は心から賞賛できるものだった。
「で、オッサンはこれからどうすんの?」
「……相変わらず遠慮がないな、「罰当たり」よ」
「まぁ、俺らだっていつ全滅するかわかんねぇしさ。だから同情よりも、今はガラハドがどうしたいかだろ」
「アタシがいる限りグレンたちが全滅するなんてありえないねっ!」
アイリスが腰に手を当てて胸を張るが、間違いなく今言うことではない。
「どうしたいか、だと?」
ずっと俯いて涙を流していたガラハドが、顔を上げる。
そこには、それぞれの思いを表情に浮かべた後輩パーティの面々がいた。
クルツ、「罰当たり」のグレン、マーガレット、ユーフェン、アイリス、さらにはシェルパのカルロスもそこにいて、何も言葉を発さずにただそこで静かに佇んでいる。
ガラハドは思った。
頼もしい連中であるな。
これなら我輩がいなくなった後も、ギルドは安泰であろうよ。
フッ、とガラハドは笑い、
「冒険者としては、我輩はもうやっていけぬだろうな」
「オッサン……」
「だが、「罰当たり」がやっている新人訓練。あれの教官くらいなら役に立てそうだ。どうだろうか?」
「そりゃ大歓迎。……でもオッサン、心残りはないのか?」
「あるにはある……オルトロスのボスを倒し損ねた。間違いなくスタンピード・
モンスター・スタンピードには、スタンピード・
一匹のリーダーを軸に、モンスターが次々に集まってくるのだ。
「しかし、もうパーティの連中は……」
「オレらがいるぜ」
再びうつむきそうになるガラハドに、クルツが言った。
「そうだよ、私たちがいる」
「ガラハドさんの仲間には及ばないかもだけど、そこそこいけるよ、あたしたち」
続けて他のメンバーたちも声を上げる――その気持ちは皆同じであるようだ。
「貴殿ら……」
「オッサンが嫌ならいいけどよ……そのオルトロス・ボス? とやらをやっつけて
相変わらず気遣いの足りない「罰当たり」の言葉に、ガラハドはニヤリと笑って見せた。
それは明らかに無理をして作った笑顔だったが、それを指摘するようなものはここにはいない。
「ならば、我輩の引退への
「そう来なくちゃな!」
「そういうことなら私も協力しましょう」
クルツと、カルロスまでもが深く頷く。
「じゃあ、『
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