#19

 幼い少年少女に過ぎなかった「ウィンスター教会」のメンバーたちも、経験を積むことで少しずつ成長していた。

 まだまだ青年というには早いが、もはや幼さは形を潜め、その名はじわじわと国中の冒険者たちに轟き始めている。

 

 ▽

 

 クルツはリーダーという責任ある立場がそうさせたのか、物事に動じない冷静さともの静けさを身につけた。

 今では、正確無比な判断と、教科書には載っていない戦い方をするトリックスターとしてその名を馳せている。

 クールな見た目に仲間思いな熱い性格――おかげで妙に女性にモテたが、本人はどこ吹く風。

 彼の率いるパーティは、伝説ともなった前身パーティ「ウィンスター村青年会」にも迫る勢いで迷宮を踏破しており、この調子で行けばレコードホルダーになるのは間違いないと目されている。

 最近はユーフェンと絡むことが増えたが、今のところ恋愛よりも冒険が楽しいと感じている。



グレアム――通称「罰当たりのグレン」も、随分と落ち着いた雰囲気となった。

 今では迷宮に潜るだけでなく、空いている時間には新人冒険者にさまざまな知恵や技術を教える新人教育官も兼任している。

 グレアムは教え方が上手く、担当した冒険者の死亡率は著しく低くなった。

 その人柄も相まって評判は上々――特に、冒険者になりたがる孤児たちにとっては憧れの存在でもある。

 今ではグレアムの考えたチュートリアルが、冒険者ギルドの教科書のように扱われるまでになっている。

 アイリスが絡むと花びらが舞うのは相変わらずだが、前のようにキャーキャー騒ぐようなことはなくなり、今では「まるで熟年夫婦のようだ」などと言われている。



 ユーフェンはハーフエルフであることもあり、かなり注目を集める存在である。

 まず冒険者となるハーフエルフが珍しい。

 次に、魔術に頼りきりになる傾向の強いハーフエルフが多い中、魔術を冒険者にとって必要な技能の一つに過ぎないと捉えている点も珍しい。

 そのため、魔法に頼らないタフで人間臭い戦い方が特徴で、特に見た目からは想像もつかない臨機応変なサバイバル能力に定評がある。

 男勝りの性格と優雅な身のこなしから女性冒険者の憧れの的となっているが、最近ではクルツのことが気になっているようで、なのに生来の性格のせいでついきつい態度をとってしまい、パーティメンバーをヤキモキさせている。


 

 マーガレットは落ち着いたというよりは擬態が巧みになった。

 クルツが判断に迷った時に真っ先に相談するのがマーガレットであり、故にパーティの副リーダー的存在とされている。

 冒険者としての実力は確かで、母親譲りの斥候としての性能はピカイチ。さらには魔術から剣までそつなつこなすオールラウンダーとして有名だ。

 その余裕からか、いつも聖母のように慈悲に溢れた微笑みを湛えており、新人少年冒険者たち憧れのおねえさんになっている。

 その実、少年好きに拍車がかかり、今では立派な変態と化していたが、昔と違ってそれを噯にも出さず、訓練所に足繁く通っては少年たちが訓練する様を美味しく眺めている。

 

 

 アイリスだけは何も変わっていない。

 人工精霊は元々完成された存在であるため、成長などしないのだ。

 それでも契約者(本人たち曰く「恋人」)が落ち着いてきたので、それに合わせて落ち着いた態度で接するようになっている――少しでもグレアムから離れると、元の悪戯好きの性格に戻ってしまうようだが。

 それでも気まぐれに、求められるまま妖精の国の図書館ライブラリからさまざまな知識を提供してくれたりして、今では冒険者ギルドでは最重要人物として扱われている。

 おかげでこれまで口伝によって杜撰に管理されていた魔術が体系づけられ、世界初の魔術大全が編纂中である。

 

 ▽


 シェルパのカルロスは、ウィンスター教会と迷宮に潜る数が激減した。

 もはや自分がいてもいなくてもあまり関係ないほどパーティが完成されているからというのがその理由だが、そのかわりたまに飲みに付き合うようになった。

 なんでも愛娘が反抗期らしく、その可愛らしい反抗を皆に自慢したいらしい。

 また、グレアムの依頼で新人冒険者の潜行のサポートに精を出しており、たまにウィンスター教会と組むのは仕事というより楽しみのためとなった。

 今ではシェルパとしてではなく、良き友人としての付き合いとなっている。



 カインは出世し、今では小隊長となった。

 普段は熱心に街の治安を守ることに尽力しており、おかげで街の雰囲気は明るくなったと評判だ。

 それでもたまに迷宮に潜り、魔力爆発やスタンピードに備えており、騎士としてはめずらしく冒険者ギルドとも良好な関係を築いている。

 なお、どうやら恋人がいるらしく、近々結婚の予定だが、理由があって今は秘匿されている。

 やたらと女性に人気のあるカインの妻となる女性――おそらく嫉妬の視線に晒されることだろう。無事を祈るばかりである。

 

 

 ハーフドワーフのオリヴィアは背が伸びた。

 人族ヒュームとの混血にはよくある話で、思春期が終わる頃に一気に背が伸びるのだ。

 背は伸びたが、本人はあまり見た目に頓着するタイプではなく、相変わらずのおかっぱ頭だ。

 初対面ではちょっととっつきにくい性格をしていることと、あまり女性らしくない――はっきりいうとオッサンくさい性格のせいで男性にモテないが、なぜか女性冒険者にはモテるようだ。

 とはいえ、酔うと故郷の古い歌ナツメロを玄人はだしの歌声で披露してくれるので、酒場のおっちゃんたちには大人気である。


 ▽ 


 さらに数年後、ウィンスター教会の面々は短期間に二桁の高難易度の深階層を踏破し、レコード・ホルダーとなった。

 

 さらにはいくつかの魔力炉の発見、新種のモンスターとの遭遇・打破、その弱点などを発表。未発見のルートの開拓、新しい戦略の発明などさまざまな功績を残したことで、ギルド本部から称号が与えられるかを検討されている。

 

 当然ながら、もし実現すれば最年少称号保持パーティということになる。

 

 聞けば、あまりに歳が若すぎる点から反対意見も出たらしいが、「ウィンスター教会」というパーティ名を聞くと、上層部全員が手のひらを返した。

 これが噂に聞く「ウィンスター村青年会」の後継パーティか、と。

 

 それでも、称号保持パーティともなるとそれなりの権力が与えられる。

 まだ幼いといってもいいほどに若い冒険者が、それで調子に乗れば、ギルドの威信に関わる場合もある。

 

 だからこそ、調査は慎重に慎重を重ねて行われた。

 

 特に「ウィンスター教会」には、アイリスという埒外の存在が混じっている。

 リーダーは人族だというが、その実態はあしき精霊の操り人形なのではないか。

 

 あまり知られていないことだが、中には悪意を持つ精霊も存在する。

 珍しい存在ではあるが、もしそうだとすればギルドだけでなく騎士院も巻き込んで駆除する必要がある――それはもはや「災害」と呼んでも差し支えない脅威だ。

 

 それを確かめるために、一人の女性が指名された。

 その女性、名をソフィーリアといった。

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