#4

 ぼくたちは、さっそく秘密基地の準備をはじめた。


 裏山を駆け降りると、家の近い順にコータの家、ケンゴの家、そしてぼくの家を回って、荷物を集めて回る。


「机とかイスはいるだろ」

「そんなの手に入る?」

「婆ちゃんちの倉庫にあるかもしれないから訊いてみよう」

「食べ物は?」

「それより懐中電灯でしょ、洞窟の奥真っ暗じゃん」


言いながら、手に入るものは片っ端からリュックサックに詰め込む。


「水はどうする? 婆ちゃん、生水は飲むなって言ってたじゃん」

「学校で使ってる水筒でいいだろ」

「ランプは?」

「俺んちの懐中電灯、ランプ代わりに使えるやつだ」

「じゃ、ランプはケンゴが準備して、そうだ、危なくないようにロープ……なんてないから、紐! 紐持っていくよ」

「紐?何に使うの? コータ」

「洞窟で、道に迷わないように入り口から紐を垂らしながら歩けばいいかなって」

「さすがコータ、よくそんなこと思いつくな!」

「とりあえず、イスとかは婆ちゃんに借りるとして、食べ物は?」

「釣り道具持っていく?」

「魚釣って食おうぜ」


 それぞれの家を回りながら、思いつく限りの荷物を集めると、結構な大荷物になってしまった。


「婆ちゃんにだけはちゃんと報告しよう」

「だな」

「ちゃんと許可もらおう」


 走って婆ちゃんちに向かう途中、クラスメイトたちとすれ違う。


「何お前ら、その荷物」

「なんでもねぇよ!」


 大荷物で走っているぼくたちを、みんな不思議そうに見ている。


「おい、どこ行くんだよ」

「ひ、み、つー!」


 そしてぼくたちは、共有している秘密の大きさを思い出してゲラゲラと笑った。


 * * *


「婆ちゃん!」


 縁側から声をかけたら、奥から「ほぅい」と声が帰ってきた。


「来たね」


 そう言って、婆ちゃんが顔をだす。


「サイダーでいいかい」

「サイダーはいいから、婆ちゃん、お願いがあります!」


 そう言って、ケンゴは靴を脱いで、サッと正座する。

 いつもはコータに叱られるくらい乱暴な口調なのに、こういう時に一番礼儀正しいのがケンゴだ。

 普段から礼儀正しいコータも靴を脱いで正座をしたので、ぼくも慌てて正座する。

 婆ちゃんは驚いた顔をして


「どうしたね?」


 と正面に座ってぼくたちを見回す。

 説明を始めたのは、コータだ。


「お婆ちゃん、裏山に洞窟を見つけました」

「ほぅ」


 お婆ちゃんが目を見開く。


「見つけたかい」

「はい。祠があるって言ってたのは、そこのことですよね」

「婆ちゃんが作ったまんじゅうが置いてあった」


 言うと、


「そうさね。この山は、子供らが遊ぶ場所だからね。神さんに無事をお願いしてるよ」


 そう言って婆ちゃんは笑った。


「婆ちゃん!」


 ケンゴが真面目な顔で頭を下げた。


「あの洞窟、ぼくらの秘密基地にさせてくれ!」

「あっ、あのあの」


 コータが慌てて遮る。


「洞窟、締め縄がありました。入っても大丈夫でしょうか?」

「もう入っちゃったけど……」


 ぼくが小さな声で言うと、婆ちゃんはあははと笑った。


「そうさね、入るのは別にかまわないよ」

「バチとか当たりませんか」

「そんな器の小さい神様なんかいやしないよ! 子供の守り神だって言ったろ?」


 婆ちゃんは笑って、立ち上がる。


「いいものあげるから、ちょっと待ってな」


 ぼくたちは顔を見合わせて「はい」と答える。


 ちょっと待たされて足がしびれてきた頃、婆ちゃんは何かを持って戻ってきた。


「ほれ、これ持って行きな」


 そう言って、ぼくたちに一つずつ何かを渡してくれた。


「お守りさね」


 婆ちゃんが言った。

 紺色で、縦長の六角形のお守りだった。


「洞窟を使うのは構わない」


 婆ちゃんが言うと、ケンゴが「本当か!?」と嬉しそうに声を上げた。


「本当さね。でもお守りだけはちゃんと持っておきな。守ってくれるはずさ」


 そういって婆ちゃんは笑う。


 ……秘密基地に、お守りはいまいちキマらない気がする。

 そう思っていたら、ケンゴがガバッと頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 そしてぼくらに嬉しそうに宣言する。


「これさ、秘密基地に入るための合言葉代わりにしようぜ!」

「合言葉?」

「ほら、えーと、入るのに必要なやつで……なんて言ったっけ?」

「パスワードみたいな?」

「そう、なんかそんなやつ!」


 おお、なるほど、それならけっこう秘密基地っぽい……か?


「わかった、じゃあお守りを忘れたら、秘密基地には入れないってことで」

「大事にする」


 僕達がワイワイやっているのを見て、婆ちゃんは言った。


「雨の日や、その次の日は水が多いから行かないこと。山に入るときはかならずアタシに声をかけておくれ。あと」


 婆ちゃんはニッと悪戯な顔で笑って、


「アタシも祠のお世話でちょくちょく顔をだすから、その時は秘密基地とやらを見せておくれ」


 ぼくらは満面の笑顔で


「わかった!!」


 と大きな声で返事した。


 この日は、そろそろ門限が近いので、もう一度秘密基地に行くのは諦めて、その代わりに婆ちゃんに、いらなくなったイスや机をもらう約束を取り付け、持ち寄った荷物を婆ちゃんに預けて解散となった。


 こうして、秘密基地の初日は幕を閉じた。

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