決着

 最初、百合子はそれを優しい光だと思った。

 決して眩しくない、青と緑と紫の色が混ざり合った輝き。とても美しい輝きだったが……その光は空から降りてきている。

 百合子は殆ど無意識に空を見上げ、そして驚愕で目を見開いた。

 空で、光の帯が揺らめいている。

 それは小さな揺らめきではなく、辺り一帯を覆い尽くすのではないかと思うほど巨大なもの。揺れる姿はまるで竜が泳いでいるかのようであり、雄大な光景に百合子の思考は驚きと感動に塗り潰されてしまう。本能的な衝動に突き動かされ、ただただ呆然と眺めるばかり。

 百合子の人生で、これほど美しい景色は見た事がない。されどそれがなんであるかを、百合子は知識としては知っていた。


「オーロラ……」


 無意識状態に陥っていた百合子は、その現象の名をぽつりと口に出す。

 オーロラ。それは本来、南極などの極地で見られる自然現象だ。日本の北海道でも観測された事はあるらしいが、此処は真綾達曰く東京である。オーロラが自然発生するものだろうか。

 或いは、オーロラを発生させているものが近くにいるのか?


「……………ひっ」


 唐突に、百合子の顔は青ざめる。

 不意に猛烈な悪寒が全身を駆け巡った。身体の奥底から恐怖心が込み上がり、全身が

ぶるぶると震え出す。

 そして百合子は空に向けていた顔を、無意識に下げた。本当に、なんの意識もしていなかったのに――――何故か地上の一点を見つめる。

 そこに佇む、大怪獣ヤタガラスの姿を。


【クアァァァァァ……】


 ヤタガラスはその身体を淡く光らせ、二本の足で大地に立っている。輝きの強さは光分解の力を纏っていた時よりも遥かに弱々しく、その光に包まれている身体もボロボロだ。多くの羽根が傷付き、口から漏れ出る吐息も荒い。足の鱗は剥げていて、全身の至るところから血が流れている。

 これだけの傷を受けたとなれば、もう立っているのがやっとではないか。百合子が勝手に抱いたイメージを肯定するように、ヤタガラスの身体はふらふらと左右に揺れている。正直、人類が総力を結集させて挑めば、結構あっさり勝てるのではないかとも思ってしまう。

 だが、本能的に察する。見た目に騙されて襲い掛かれば……こちらが瞬く間に滅ぼされてしまうだろう、と。

 何故なら、ヤタガラスの瞳は力を失っていなかったから。

 今まで以上に激しい、破滅的な感情をその目に滾らせているのだ。近付く事はおろか、こちらを視認する事すら許さないと言わんばかりに。


【ピ、ル……?】


 その異様な眼光は、これまで優勢を誇っていたマレビドスの足さえも止める。或いは強いからこそ、ヤタガラスが放つ力の異様さを感じたのだろうか。

 マレビドスは身構え、ヤタガラスの行動に備えるような素振りを見せた。体力面では圧倒的な優勢に立っているのだから、慌てず騒がず、落ち着いて防御を優先した方が良いという判断か。実際ヤタガラスの身体はボロボロで、大した攻撃は出来そうにない。仮にマレビドスに大ダメージを与えるような一撃となれば、身体への負担も相当大きい筈だ。無事に耐え抜けば問題ないし、ダメージを受けたところでヤタガラスも無傷では済まない。下手に攻撃するよりも守りを固めるというのは、極めて合理的な判断と言えよう。

 そう、常識的に考えれば。

 それが全ての間違いだというのに。


【……クアアアァァァァァァァァ……!】


 ヤタガラスが唸る。唸るだけで、身動ぎ一つ取っていない。

 だが段々とヤタガラスの身体を包む光が、少しずつ、けれども着実に強くなっていた。最初は淡かった輝きが、今では少し眩く感じるほど。

 そして強くなる光は、ヤタガラスが身体に纏うものだけではない。

 も同じだ。

 最初は優しさを感じるほど淡かった光は、今ではかなりハッキリと見える。ゆらゆらと湯気のように揺らめきながらも、ヤタガラスの方へと流れ込んでいるようだった。

 空のオーロラと言い、ヤタガラスへと流れ込む光と言い、どれも派手な現象ではない。しかし異様な出来事ではある。何が起きているのか、どうすればこんな事が起きるのか、百合子にはさっぱり分からない。

 分からないなら訊くのが一番。そしてこんな謎現象の正体が分かるとすれば、科学者である真綾だけか。


「真綾さん、アレは一体――――」


「嘘」


 なので尋ねようとしたところ、真綾からの返答は嘘吐き呼ばわり。

 だがその言葉は、百合子に向けたものではないだろう。真綾の視線はずっと正面を、ヤタガラスの方を見ているのだから。

 困惑する百合子。茜も戸惑いを見せる中、真綾は頭を抱えながら叫ぶ。


「嘘……嘘、嘘よ!? 流石にそれはあり得ない!」


 現状を否定する言葉を。

 真綾は常に冷静沈着、という訳ではない。予想外を前にするとしょっちゅう固まり、思考停止している。それでも現実を否定した事は一度もない。予想外は予想外として受け入れ、恐れる事なく自分の考えを変えるのが真綾という人間だ。

 そんな真綾が取り乱している。それだけで百合子、それと茜は、今起きている事態が異常と呼ぶのも生温い状況なのだと理解した。理解はしたが……何が起きているのかさっぱり分からない。


「真綾ちゃん、落ち着いて。何が起きてんの?」


 茜が宥めるように声を掛け、真綾の感情を鎮めようとする。真綾は茜の方を見ると、唇を噛み……大きく息を吐いて頷く。


「……恐らくヤタガラスは今、光を集めているんだわ」


 やがて真綾は、呟くような小声でそう告げた。

 しかし分からない。ヤタガラスは光を自在に操り、様々な力を見せてきた怪獣だ。今更光を集めるぐらい、造作もないのではないかと百合子は思う。


「……それが何か? 光を集めるなんて、ヤタガラスになら簡単なんじゃ」


「いいえ、簡単どころか不可能よ。少なくとも人類が知る限りの方法では」


 その考えを言葉に出せば、真綾は間髪入れずに否定した。しかも人類の知る限り……つまり理論的に無理だと。


「光っていうのはね、空間を直進するの。あらゆる力を無視して。光を波ではなく光子、つまり素粒子と考えても、質量も電荷もないから引き寄せる事は無理なのよ」


「え? でもブラックホールは光を吸い込むって聞いた事あるんだけど」


「あれはブラックホールの重力が、周りの空間を曲げて、その曲がった空間に沿って光が進むからよ。光自体はなんの影響も受けていない」


 だが、ヤタガラスは明らかに光を自分の方に集めていると真綾は語る。

 そう確信する根拠はオーロラらしい。オーロラは太陽風などに含まれるプラズマが地球の大気にぶつかり、大気分子がそのエネルギーを発光放出して起きる現象だ。通常このプラズマは地磁気の影響で逸れていき、最終的に南極や北極などの極地に落ちていく。これがオーロラが基本的に極地で発生する理由である。

 そしてプラズマは、レーザーなどの照射で大気分子に大量のエネルギーを与えれば、人為的に発生させる事が可能だ。

 ヤタガラスは宇宙空間を飛び交う、あらゆる光を自分の下に集めているのだろう。その収束した光エネルギーが上空の大気をプラズマ化させ、プラズマが周りの大気分子にエネルギーを渡し、大気分子がエネルギーを放出して光る……それが今、この地でオーロラが生じている理屈だと真綾は語った。

 無論これはあくまでも予想だ。目の前の現象から推論し、その推論から推論した、あまりにも脆弱な理論。だが、それでも現実の説明は出来ている……光の引き寄せ方が全く分からない事以外は。


「(今までの非常識さとは、違う……)」


 生物がレーザー光線を撃つ事も、核兵器に耐える事も、一応の説明は出来た。されど此度のヤタガラスが起こしている現象は、根本的な部分で『理屈』に沿わない。今までの「技術が足りない」から出来ないのとは違う、理解すら及ばない力。

 正に人智を超える力だ。

 その力は、力の持ち主であるマレビドスの目にはどう映ったのか。


【ピ、ピル……ピルルルルルルルル……】


 マレビドスが後退る。なんらかの危機を覚えたように。

 果たしてヤタガラスはその動きをどう感じたのか。警戒と見たのか、はたまた逃げるための動きと受け取ったのか。

 いずれにせよ、ヤタガラスはそれを許さない。


【グガアアアアゴオオオオオオオオオッ!】


 ヤタガラスが激しい咆哮と共に、大きく広げた翼を振るう。

 それと共に放たれたのは、虹色に輝く帯のような光だった。

 ヤタガラスの翼から放たれた光の帯、いや、七色の『オーロラ』はマレビドスの身体を撫でるように通り過ぎた。直後、キラキラとした煌めきがマレビドスの体表面で煌めく。マレビドスもこの輝きが何か分からないのか、戸惑うように巨大な目を見開いた

 次の瞬間、煌めきが炸裂した。

 煌めきがその強さを、範囲を爆発的に増した様子はそうとしか表現が出来ない。一体どんな物理現象が起きたのか、全く理解出来ない。

 炸裂した閃光は、物理的な衝撃を引き起こしてマレビドスに襲い掛かる。成長してからはビクともしなかったマレビドスの身体が、この閃光には耐えきれず吹き飛ぶ!


【ビルギアァッ!? ピ、ルルルルル……!?】


 突然の、成長して強化された電磁フィールドですら受け止められない攻撃に、マレビドスは明らかな動揺を見せる。体表面を覆う緑の煌めきはゆらゆらと揺れ動き、不安定さを表していた。

 ただ一撃でマレビドスの防御が揺らぐ。凄まじい破壊力の攻撃に、マレビドスは思ったのだろう。「このままでは不味い」と。


【ピ、ピルルルルルルルッ!】


 故にマレビドスはヤタガラスに背を向けて、一目散に逃げ出した!

 たった一発で不利を悟り、おめおめと逃げ出す……人間からすれば情けなく思える姿だが、極めて有効な戦術だ。生きて体勢を立て直せばまた勝負を挑める。無数の怪獣を引き連れた大群団で挑むのも良いし、或いはもっと大きく成長すれば先の攻撃も平然と耐えられるかも知れない。生き延びればマレビドスの勝機はまだある。そしてその判断は、早ければ早いほど良い。

 逃げるマレビドスの背中を、ヤタガラスは鋭い眼差しで睨む。マレビドスが成長して強くなるところを見たのだから、逃せば不味いと本能的に理解しているのだろう。とはいえボロボロの翼で飛んでも大したスピードは出せまい。ましてや先手を取って逃げ出したマレビドスに追い付くのは恐らく不可能だ。

 だからヤタガラスは、別の方法でマレビドスを捕まえようとする。

 例えば前に翼を前に伸ばすや――――空から稲妻のように光を落とす事で。


【ピッギィイイイイイイイイッ!?】


 空から落ちてきた虹色の光がマレビドスの全身を包む。

 宇宙空間を飛んでいる光を集め、攻撃に転じたのか。今まで繰り出したどんなレーザーよりも強烈な一撃を受けたマレビドスは悲鳴を上げ、それと共にガリガリと削り取るような音が鳴り響く。電磁フィールドを削り取る音なのか。空から降り注ぐ虹色の輝きを受けたマレビドスの身体から、段々と湯気が立ち昇り始める。

 光の柱は凡そ数秒で消えたが、痕跡は大地にハッキリと刻まれていた。直径百メートルはありそうな大穴が、ぽっかりと開いていたのだ。穴の底は見えず、一体何千メートルと続いているか想像も出来ない。穴の縁は赤熱しており、どうやら穴は、土が蒸発して出来たのだと窺い知れた。

 果たして人類が核を投じても、こんな真似が出来るだろうか? 百合子にはとてもそうは思えない。いや、火山の噴火や隕石の衝突があってもこうはならないだろう。人智どころか自然すら及ばない、破滅的な力だ。

 どうにかマレビドスはこれに耐えた、が、全身が焼け爛れていた。じわじわと傷は再生していたが、完全な再生を遂げるには時間が掛かるだろう。それに傷を負ったという事は、電磁フィールドはボロボロで使い物にならない状態の筈。先の光をもう一度受けたなら、恐らくただでは済まない。

 ならば、生き残る術は逃げる事だけ。


【ピ、ピィルリルルルルルルッ!】


 マレビドスはがむしゃらな動きで逃げ出そうとする。本気で動き出したマレビドスのスピードは圧倒的。今まで以上の速さで、瞬く間にヤタガラスから離れていく。

 ここで背中からレーザーを撃ち込もうと、上から虹色の輝きで押し潰そうと、マレビドスは自身のパワーで強引に抜け出して逃げるだろう。

 遠目で見ている百合子達人間にも伝わる必死さ。ここまで必死だと最早情けないとは思えない。いや、人間からすれば恐怖すら感じるぐらいだ。流石にこれはどうやっても止められない――――

 そう思ったのは、人間だけかも知れない。いや、人間以外も同じように思うと考えるのは傲慢だろう。ましてや超常の力を宿したヤタガラスが、人間と同じ考えをする筈がないのだ。


【グガアアアアアアアアアアッ!】


 それを証明するように、ヤタガラスは新たな技を繰り出した。

 大きく両翼を広げ、咆哮と共に無数のレーザーが光り輝く全身から放たれる。威力は凄まじそうなものだが、しかしレーザーで背中を射抜こうが、傘を焼き切ろうが、マレビドスはきっと逃げてしまうだろう。いくら数多く撃とうと、レーザーでは止められない。

 普通のレーザーであれば、だが。

 ヤタガラスの放った無数のレーザーが、と曲がる。


【ビッ!? ピルリギィイイッ!?】


 曲がったレーザー達はマレビドスをぐるりと包囲。いきなり目の前に『攻撃』が現れたマレビドスは流石に止まり、曲がるレーザー達はその範囲を狭めてマレビドスに襲い掛かる。全盛期の電磁フィールドならば恐らく問題なく耐えたのだろうが、先の光の柱で身体にダメージが入るほど電磁フィールドは削られていた。レーザーを受けたマレビドスは悲鳴を上げ、その場に墜落する。

 今の攻撃は、物理学に詳しくない百合子にもおかしさが分かる。光は直進……真綾曰く空間に沿って進むものだ。その光がまるで生きているかのように曲がるなんて、一体どんな方法を使えば成し遂げられるのか。


【ガアアアァァァァァ……!】


 墜落したマレビドスを見たヤタガラスは、翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。動きは決して速くない。これまでの戦いで受けた傷が、その動きを鈍らせているのだろう。

 だが空から降り注ぐ光を浴び、纏う輝きの強さはどんどん増している。

 今や太陽よりも眩しいぐらいに。


【ピ、ピル、ビギッ!?】


 這いずりながら逃げようとしていたマレビドスだが、空から降りてきたヤタガラスに踏まれて呻く。更に踏まれた場所はじゅうじゅうと音を鳴らし、身体が焼けていた。

 このまま焼き殺すつもりか。されどマレビドスも無抵抗に終わるつもりはないらしい。


【ピルルルルルルルルルッ!】


 素早く六本の触手を伸ばし、ヤタガラスを取り囲むように配置。すかさず電撃を放ち、ヤタガラスに浴びせかける!

 全方位至近距離からの電撃。これまでに幾度となくヤタガラスを吹き飛ばしてきた攻撃を受け、此度のヤタガラスも僅かに身体を仰け反らせた。

 しかし、本当に僅かだけ。

 一瞬仰け反った後、ヤタガラスはすぐに体勢を立て直し、一層強くマレビドスを踏み付ける! マレビドスの攻撃が効いていないのか? 人間だけでなく恐らくマレビドスにもそう思わせる動きだが、そうではないとすぐにこの場にいる全員が気付かされた。

 ヤタガラスの身体から、僅かに湯気と放電が放たれているのだ。感電し、身体にダメージを負っているのは間違いない。しかし攻撃を受けても、感電しようとも、その目の闘志と怒りは燃え盛るばかり。

 痛みを感じていないだけなのだ。異常な興奮状態故か、或いは……


【グガアァァァァァァァ……!】


 マレビドスの攻撃を微動だにせずに耐えたヤタガラスは、そのマレビドスの頭を足で掴む。鋭い爪を突き立てるだけで飽き足らず、全身から放つ光の帯がマレビドスの身体をがりがりと削るように回り続ける。


【ピ、ピルルルルル!? ピルルルゥ!】


 ついにマレビドスは悲鳴を上げながら、触手をヤタガラスから離れるように広げた。さながら無抵抗を示すように。

 人間的な視点で見れば、命乞いのポーズ。

 或いは本当にそのつもりかも知れないと、遠くから眺めている百合子は思う。マレビドスには怪獣を操るだけの知能があるのだ。言葉がないだけで、強いモノに平伏するだけの頭があってもおかしくない。

 しかしその平伏は形だけだろう。大きくなって力を付ければ、コイツは間違いなく『主君』を裏切る。百合子は本能的にそれを直感した。

 コイツの話を聞いてはならない。

 ――――尤も、怒り狂っているヤタガラスには、本心からの言葉すらも通じないだろうが。


【グガアアアアアアアアアアッ!】


【ピ、ピキ、ギ……!?】


 助けを求めるマレビドスの頭を、ヤタガラスは更に強く掴む。マレビドスがどれだけ請おうとも、瞳に宿る怒りは消えない。

 ヤタガラスは最初から許すつもりなどないのだ。例え相手が自分の奴隷になろうとも。


【ピ、ピルリィイイイギギギギギギッ!】


 マレビドスも自分の行為が無駄であると悟ったのか。雄叫びを上げながら、マレビドスは三本ずつ束ねた触手を振り上げた

 直後、ヤタガラスはマレビドスを蹴り上げる!

 突然蹴られたマレビドスはそのまま空高く、数百メートルと上がっていく。マレビドスも驚いていたようだが、しかしヤタガラスから離れられた事に気付いたのだろう。空中でくるりと身を翻し、真っ直ぐ空に向かって飛んでいく。

 このまま宇宙まで逃げるつもりか。

 マレビドスならそれが出来る。磁気浮上で飛行する宇宙怪獣ならば、空気を押し出して進むヤタガラスと違い、宇宙空間まで跳び出していける筈だ。というより宇宙怪獣なのだから自力で星の外に行けない筈がない。

 ヤタガラスは逃げ出すマレビドスをじっと見つめるばかりで、追おうとはしない。マレビドスは成長した上で、命懸けの全速力を出している。傷だらけの身体では追い付けないと考えているのか。

 だが、未だ逃すつもりはないらしい。


【……………】


 翼を広げながら、ヤタガラスはマレビドスの背中を見つめる。

 それと共にヤタガラスの発光が、一層強さを増していく。太陽よりも眩かった光は、最早直視どころか目を逸らしても沁みるほどに強い。

 逃げようとしていたマレビドスも思わず振り返る。そして嫌な予感を覚えたのか、そのまま更に加速して逃げていき――――


【グガアアゴオオオオオオオオオオオッ!】


 ヤタガラスが叫んだ。

 瞬間、ヤタガラスの全身から光が放たれる!

 全方位に向けてではない。一直線に伸びる、巨大な光線のように放たれた! その光線はマレビドスの動きよりも遥かに速い!


【ピルギ……!?】


 光の直撃を受けて、マレビドスが呻く。その姿は瞬く間に光の中に飲まれた。

 マレビドスは藻掻く。光から逃れようと必死に。されどヤタガラスの放つ光はそれを許さない。意思を持つように、ぐにゃりとその向きを変えていく。

 ついに光線は綺麗な曲線を描き、大地へと叩き付ける!

 マレビドスの足掻きも虚しく、その身体は極大の光線と共に地上へ。星の外どころか内に向かって落ちていく!

 最早マレビドスの姿は地上にいる誰にも確認出来ない。


【ピ、ピギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?】


 けれども世界中に響き渡るような、マレビドスの断末魔がその身に起きた惨事を教えてくれて。

 放たれる光の消失と共に地下より溢れ出す、天に届かんばかりに巨大な七色の爆炎が、ヤタガラスの勝利を伝えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る