03

 流れ星。願い事も何もなく、なんとなく眺めて。そして、前に目を戻したら、誰かと目が合った。一瞬だけで、顔も分からないし、誰と目が合ったかも判別できなかった。

 でも、たぶん、恋だった。


「はあ」


 ため息。

 今の一瞬で。顔も分からない誰かに一目惚れして、そしてすれ違った。恋が始まって終わった。


「こんなのばっかり」


 人を覚えるのが下手な体質だった。何回も何回も会っている人でも、名前を忘れたり顔を忘れたりする。だから、一目惚れしたところで、何の意味もない。

 エスカレーターが下に着いた。立ち止まる。見知らぬひとばかりの、人混みの中で。ちょっとだけ、さっきの一目惚れのひとを待ってみて。

 そしてまた、歩き出す。

 顔も名前も覚えられないのに、恋なんて。できるはずがない。

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