3-14 断罪と完遂

 

 緊急連絡。

 訳あって、私は南岳と敵対することにした。

 その関係でこの学園からはしばらく姿を消すことにする。突然で申し訳ないけれど、時期が来れば私は必ずまた皆の前に出てくるわ。

 それまでは、連上に指示を仰いで欲しい。

 今まで潰す算段をしていた相手を頼りにするのもおかしな話だけれど、敵の敵は味方。私達は利害が一致したの。連上には私が戻ってくるまでの準備を任せておいたから、皆にも手伝って欲しい。代わりに皆の安全は保証させたから心配しないで。

 それじゃ、また。  ──朱河原舞台

 

 連上はメールの文面を打ち終え、送信ボタンを押した。送信先は、アドレス帳の中の「演劇部」というカテゴリーに入っていた者全員である。

 連上は──朱河原から掏り取った携帯を閉じ、ポケットに入れた。

 朱河原は消えた。機を見るに敏な彼女は、すでに動かしがたい敗勢の空気を悟ったのだろう──おそらくもう二度と戻っては来るまい。

 すでに消えた者の言葉など、どのようにでも色づけることができる。連上は過去のやり取りを見て朱河原の文体を身につけ、一通のメールを作成した。他でもない朱河原舞台のメールアドレスで送られてくるこの文章の真偽を、一体誰が疑えるだろうか。

 ここに至り、連上は南岳政権を支える双璧──武のテコンドー部と知の演劇部の二つの組織を、南岳から強奪することに成功した。生徒会長は今や丸裸──武器もなく防具もなく、ただ戦場に突っ立って殺されるのを待つだけの存在だ。

 

「いよいよ裁かれる時が来たようだよ──暴君」

 

 誰もいない部屋で、連上は低い声で呟いた。

 

「楽しかっただろうねえ。欲しいものは何でも手に入り、誰もが平伏し足下に跪く──生徒会長として表の学園を仕切り、帝王として裏の学園を牛耳る生活はさぞかし心地良かったんだろうねえ。しかし、あんたは致命的な間違いを犯した。王であり続けることを不可能にする最悪の過誤を」

 

 連上は眉根を寄せる。

 快感と苦痛という背中合わせの感覚が、今の連上の中には同居している。

 

「保身が極まって硬介を殺してしまった時から、すべての幸せは毒に転化した。持つ物すべてが未練の対象になり、従う者すべてが疑念の対象となる──転げ落ちないためだけに頂点にしがみつく、その意識を持った瞬間からあんたの滅びは始まっていたんだ」

 

 連上の瞳の奥では、暗い炎が燃えている。それは復讐心を燃料にしてちりちりと目の裏側を焦がし、脳髄を焼く。

 

「栄華の時は終わった。ここからは散華の一途だ」

 

 じきに警察の手が回る。すべての情報は明るみに引きずり出され、南岳率いる生徒会は破滅するだろう。

 復讐は、遂行された。

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