3-8 失踪と決行

 

 九月一日──作戦当日。

 生徒会の息の根を止める最後の一手を、実行に移す予定の日である。

 昨日、連上と島崎は情報処理部の面々と部外の協力者を交えて綿密な打ち合わせを行い、作戦を淀みなく行えるよう準備を重ねた。

 しかし。

 この土壇場で、雲行きが怪しくなってきている。

 昼下がりの情報処理部部室──始業式のため授業はなく、夏休み気分を引っ張っている面もあっていくらか弛緩した空気が学園全体に立ち込めていたが、この部室だけに限ればそんな暢気さとは無縁の異様な空気が立ち込めていた。緊張と不安──そして動揺を同比率で混ぜ合わせた空気である。

 この場にいる全員──島崎と他三人の部員はたった今、心中を共有していた。

 

「どうしよう、島崎君」

 

 口火を切ったのは安藤という一年生の男子だ。肥満体を揺らしながら部室の中をせかせかと歩き回り、焦った表情で腕時計に何度も目を落とす。

 

「も、もう予定の時間だよね?」

 

 島崎は黙って頷く──安藤の言う通り、時計の針は作戦開始を告げている。

 しかし、連上が来ない。

 普段ならばあらかじめ決定した筋書きをそっくりそのまま正確に実現していく連上が──今日に限って、予定と食い違う行動を見せている。

 明らかに異常事態だ。もしかすると、非常事態ですらあるのかもしれない。

 安藤はおろおろとして言った。

 

「これって、何か問題が起きたってことじゃないのかな? ねえ島崎君、僕らはどうすればいいのかなあ?」

 

 安藤の焦りもわかる。いや、表面にこそ出さないものの、島崎は安藤以上に不安を感じているかもしれない。

 安藤を含む三人は、情報処理部という表の顔に乗っかっているだけの一般生徒でしかない。あけすけな言い方をするなら、連上の闘争においては部外者なのである。

 しかし島崎は違う──連上のパートナーとして、彼女の精緻な策略を見てきた。それゆえに、一つの歯車が狂えばすべてが崩壊する可能性が生じることを知っている。それが今現実になろうとしているのかもしれない──そう考えると身も凍る思いだった。

 しかし、と島崎は連上の言葉を思い出す。

 打ち合わせの最後、連上は念を押すように言った。

 

 ──本番では、何か予想外の事態が起きるかもしれない。勿論、可能な限りそうならないように考えてはいるけど、すべてがあたしの目測通りに転がるとは言い切れないからね──避けようのない事故は、いつだって可能性がある。

 でも、作戦の中止だけは絶対にしちゃ駄目だよ。中途半端に戻ろうとすることが一番危険なんだ。途中で違和感を覚えても、とにかく自分の仕事をこなすことだけを考えて。

 後は全部、あたしがなんとかするから。

 

「──いや、問題ない」

 

 島崎はゆっくりとかぶりを振り、立ち上がった。

 もう戻る道はない。

 島崎達にできることは、各々に課せられた仕事をすることだけだ。あとは信じるしかない──連上がなんとかしてくれるのを。

 

「作戦決行だ」

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