第3話 春園
アナウンスが流れ、チャペル内のゲストたちが静まりかえった。
聖歌とともに、新郎の立花健司が入場した。
長身の筋肉質な身体に、白のスーツがよく映えている。
ゲストの女性たちからため息がこぼれた。
以前、樹から婚約者として、健司を紹介されたことがある。
照れくさそうに颯爽とやって来た彼に、ぎこちなく挨拶した。
樹に申し分のない相手だな、と思った。
分かっていたのだ。
いつかこんな日が来るであろうことは。
いつも一緒にいた学生時代とは違い、別々の会社に就職して、それぞれ違う生活に染まっていく。
経験も価値観も、少しずつ違っていく。
そこで出会う相手も。
樹を優しく見つめる健司の眼差しに、何も言えなくなっていた。
お茶をして別れ際、菜穂は満面の笑顔で言った。
おめでとう、式には呼んでね。
音楽が変わり、再び静まり返った中を今度は新婦の樹が、父親とともに入場してきた。
薄いベールの奥の彼女は、まるで少女のような表情で頬を赤らめている。
まったく初めての、見知らぬ女性を見るような気がした。
今回招待されているゲストのほとんどが、彼女が社会人になってからの知人友人たちということもあって、式の前の控室にはあえて行かなかった。
樹が新郎の前に立ち、微笑んで夫となる男性を見上げる。
指輪を交換し、健司が樹のベールをそっと上げる。
そしてキス。
周囲で感動の溜息と、すすり泣くような吐息が聞こえた。
「——ではここで、お二人のご成長の記録をご覧ください」
披露宴も半ばを過ぎていた。
新郎たちがお色直しのため席を外すと、広間がざわつき始め、司会の女性がすかさずアナウンスした。
大画面に映し出された二人のそれぞれの幼少期から現代までの写真が、音楽とともに映し出された。
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