第50話 勇者たる者
しかし——。
「助けます! 泣いてる人、困ってる人を放っておくなんてできない!」
「っ!」
フリードリヒ。
元々、六人の中ではもっとも【勇者】適性が高いとは、思っていた。
己の身を省みずに人を救おうとする姿勢。
当たり前のことが当たり前にできる、しかし、その当たり前のことを当たり前にする究極が勇者だ。
だが今のフリードリヒたちでは、秒速で強くなる魔力竜巻の壁を破ることはできない。
やはりリズが御さなければ。
(でも、こんな魔力どうやって消費したら……)
拡散させるのは無理だ。
拡散させた途端にまた集められる。
ならば魔法として消費するのがもっとも適切。
だが、ここまで集まった魔力を消費するほどの魔法となると、攻撃魔法か結界魔法、空間魔法……現在進行形で増える魔力量も考えると、その都度魔法陣の情報を再構築し続けねばならない。
不可能ではないが、そこまでして使う魔法となると限られる。
王都の真上に空飛ぶ城でも作ってやろうかと思ったところに、ヘルベルトたちの声が響いた。
「管理人殿! この会場と周辺にいた者は全員避難させた!」
「なにが起きてるんですの!?」
「ワタシたちにできることはありますか!?」
「なんでも言ってください! 僕たちだって、なにかできる!」
「フリードリヒがんばるんよ! 怪我したらその瞬間から、うちが治すから! 突っ込めーーー!」
「おう!」
「キ、キミたち……」
気がつけば会場の中には『勇者特科』の生徒とリズたち以外誰もいない。
彼らは迅速にダンスホールを含めた、建物内のすべての人や、その周辺の人々まで遠くへ避難させていたのだ。
リズが指示したのではなく、おそらく指示を出したのはエリザベートとヘルベルトだろう。
ロベルトの[思念]の魔法で近くにいない者にも伝え、マルレーネが四大侯爵家の名でごねる者も動かしたのだと彼らの魔力残滓から読み取れた。
(この子たち……自分で……)
かつて、お金の使い方も自分がなすべきこともわかっていなかった彼らが……。
リズと生活し、冒険者として実戦を積み重ね、緊急事態であっても冷静な対処ができるようになっている。
「うっわ!」
「フリードリヒ!」
だが、それでもフリードリヒの腕が魔力竜巻に弾かれ、吹き飛ぶ。
これは急がねば。
魔力収集範囲は広がり続け、学園の魔道具による灯りはすべて消えた。
他の魔道具も魔力切れで効果を失っていることだろう。
「管理人さん! おれたちにできることを、教えてくれ!」
「っ」
フリードリヒが叫ぶ。
その後ろのヘルベルトも、ロベルトも、エリザベートも、マルレーネも、モナも。
(……立派な勇者の顔になってる)
ずっと昔。
アーファリーズがアーファリーズに生まれる前の人生で、関わったあの男と同じ眼差し。
(勇者……)
彼らは【勇者】になりえる才能がある。
でもリズはだからこそ彼らには青春を謳歌してほしい。
こんな狭い場所ではなく、もっと広い世界を見るべきだ。
それなのに、彼らは彼らなりに世界の広さを感じ取り、その上で守るべきものを見出し、そのために戦おうとする。
これだから【勇者】は、と腹が立ってきた。
「…………」
目を閉じる。
そうして一拍の間、[演算]にてこの状況を打破する策を算出。
やはり最適解は一つ。
「アリア、この国にいられなくなっても、キミと父さん母さんはボクが守るからね」
「アーファ……」
「ロベルト、モナはボクの魔力制御を補助! エリザベートは[鑑定]でボクの[演算]を補助して! マルレーネは[演算]で導き出された距離を[超長距離狙撃]のスキルで微調整! ヘルベルトは会場周辺に集まる騎士団と冒険者協会の冒険者全員を王都住民の避難にあてて! その辺りの指揮能力はキミが一番高い! フリードリヒはボクとアリアの手を握れ!」
「はい! …………え?」
え?
みんなが首を傾げるなり、目を見開くなりした。
でも、きっとこの役目は
「いくよ、アリア」
「な、なにをするの、アーファ……」
「空の黒点を封印し直す。大丈夫、封印が解け切れてないあの状態の黒点なら、ボクとキミと【勇者】が一人いれば成せるよ。ってわけで【勇者】フリードリヒ、手を貸してもらう! 【勇者】固有の称号スキル[聖浄化]で黒点から溢れる瘴気を浄化するんだ。今のキミになら間違いなくできる!」
「よ、よくわかりませんけど、やってみます!」
「それでいい! では行くよ! 魔法陣生成でこの魔力竜巻を消す! 全員で魔王復活を完全に潰えさせるから、その瞬間補助に回って! 外の露払いは頼んだよヘルベルト!」
「了解した! 王子たちに邪魔はさせない! 心置きなく世界を救ってください!」
頼もしい。
そしてさすが、わかってらっしゃる。
そうなのだ、それなのだ。
本当に、あのアホ王子やその婚約者の横槍が一番困る。
四侯爵家の子息であり、最近は冒険者からも信頼厚いヘルベルトなら心置きなくこちらに集中させてくれるだろう。
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