第31話 ゴブリン退治の依頼【後編】
「っていうか、この国の王侯貴族は【
「お前そんなにヤバい称号持ちだったのか」
「そうだよ? 特に第三王子はボクのことマジで“生意気なただのガキ”だと思ってるよね。お前ボクがその気になればこの国いつでも滅ぼせるからなっつーの」
ホーホゥの一件以来、地味ーーーーな嫌がらせが勇者特科に増えた。
学園側からの勇者特科への予算が全面カットされたり——それはエリザベート、マルレーネ、ロベルトの両親が寄付金を増やしてフォローしてくれたけれど。
学園側からの規則が増えたり——管理人権限で規則指示が来た瞬間撤回するけれど。
学園側から草むしりなどの雑務指示が来たり——リズが[サイクロン]の魔法で竜巻を起こして草を吹き飛ばして以降、草むしり指示は来なくなったけれど。
学園側から謎の視察が突然訪れるようになったり——リズとエリザベートが毒舌でフルボッコにするけれど。
「ま、なんにしてもゴブリンの群れは狩るのは手伝うよ。そんなに数が多いなら、ゴブリンの『邪泉』が生まれているかもしれない。そのあたりの調査も行った方がいいだろう」
「ワン!」
「ん? へぇ? スノウたちが『邪泉』を探してきてくれるの?」
「ワン!」
肩の上から頰に擦りついてくるスノウの首を撫でる。
子犬特有のふわふわ毛並みが気持ちいい。
そしてフェンリルの統率力と感知能力ならば、リズが見つけていない『邪泉』を探し出すことは可能だろう。
むしろ、他の群れと連絡が取れ合うようになれば——。
(世界の『邪泉』を回収できるようにもなるかもしれないけど……まあ、それは今でなくてもいいかな)
すりすりともふもふの体を擦りつけるスノウ。
これが成体になると三メートル近くなるのだから、魔物とは不思議な生き物だ。
抱っこして肩から下ろし、胸に抱える。
「じゃあこの子は一度群に戻してゴブリン狩りの手伝いをさせるよ。いつ狩るの」
「そういうことなら明後日だな」
「了解。あの子たちにも話しておくよ」
「ああ、頼む」
「っ、ま、待て!」
面倒くさいなー、と思いながら振り返った。
その声はドルトンだ。
リズに蹴り飛ばされて、まだ諦めがつかないのか。
[威圧]を受けた時点で、レベルがリズよりも低いと理解したはずにも関わらず……。
「なに」
「俺は認めないぞ! こんなガキが【賢者】だなんて! そもそも【賢者】なんて伝説上の称号だろう!? そんなすごいんなら証明して——」
みろ、と言おうとしたのだろう。
ドルトンは唐突に泡を噴いて意識を失った。
「【賢者】称号スキル、[魔力操作・極]。一瞬だけキミの中の魔力を逆流させた。ダメだなぁ、冒険者ならある程度魔力操作はできるようになっておかないと。この程度で倒れるようじゃ[身体強化・八段]も使えないんじゃないの」
「[身体強化・八段]……? なんだ、それ」
「ええ、嘘でしょ、ストルス。[身体強化]には十段階、その他個々に向いた[個体強化]が覚えられるよ」
「ど、どうやって覚えるんだ? 俺も[身体強化]しか……」
「四六時中[身体強化]使ってりゃ覚えるよ。ちなみにボクは[身体強化・十段]と[身体強化・天]と[身体強化・地]と[身体強化・魔力操作]と……まあ、いっぱい覚えてるから」
なんならお前ら全員と肉弾戦もできるから、とつけ加えるとすごい顔をされる。解せぬ。
「……兵器か」
「そうだよ。だからボクはこの国から出られないし、国王はボクをもっと厳重に管理すべきだし、もっと優遇すべきだと思わない? せっかく騎士団に入ってあげるって言ったのに! 年齢が幼いからって小馬鹿にしてくれちゃってさ! 実家と家族がこの国になかったら滅してるわ」
「やれやれ、家族想いな賢者様には感謝だな」
「ぶっちゃけこの国の王族より魔王の方が嫌いってだけだからね、ボクがこの国の味方してるのは。だから——」
ドッ、と目に見えない圧が場を重くする。
[威圧]のスキルだ。
今度は中堅の数人も膝をつく。
その場に立っていられたのはストルスと、
なんと情けのない。
「そいつにあまり舐めた口利くなって言っておいてね」
殺気までは入れない。
殺す気はないので。
ドルトンがどのクランのどの程度の立場の者かは知らないが、【賢者】は【勇者】並に世界の命運に携わる存在。
現時点で世界中にいる【勇者候補】とは比較にならないほど稀有だ。
なにしろ世界に一人だけしかいない。
もし、この国の外で【勇者候補】から【勇者】になった者が現れたら……それはこのリズと同等か、それ以上の実力を持つ者。
古に魔王を封じたのは、そんな【勇者】が七人。
「じゃあ明後日ね」
「ああ」
手を振って冒険者協会をあとにする。
世界はまったくもって、今日も“平和”だ。
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