第27話 書くに事欠いて
最近書こうとしても頭に浮かんでくるのは暗い話ばかりでどうもいけない。
何かまともな、いい話はないかと思って考えているうち、ふと、志賀直哉の作品が頭に浮かんだ。
今更志賀直哉について書くのもなあ、古すぎるもんなあ、そう思いながら、今はそれしか書くことが浮かばず、読者諸兄姉にはお恥ずかしいが、こんな文章を書いてみた。
言うに事欠いてというが、書くに事欠いて、気まぐれにちょっと珍しい、昔の文学作品について書いてみようと思います。
というのは、古くても、決して古いとは言いきれない作品があると思うのです。
たとえばですね、この「城の崎にて」。
古典の中の古典で、もう随分と昔の、志賀直哉の作品。
内容は、主人公が山手線の電車に跳ね飛ばされ、怪我をした、そのあと養生に訪れた城の崎温泉で、いくつかの小さな生き物たちを通して生と死を見つめた作品と言っていいと思います。
文体は、「静か」「淋しい」などを多用しながら、淡々とした、しかし清澄なもので、私は初めてこの作品を読んだ時、何とも言えない、それこそ静かな、清らかな読後感に包まれたものでした。
初めは蜂の生と死の話で、次に川に投げ込まれたネズミの話、最後にいもりをうっかり殺してしまう話の3つが大きな柱になっています。それらの生き物たちの描写は、何でもないようでいて実に巧みでリアルで、やっぱりすごいなあと唸ってしまいます。
自分以外には殆ど他人は登場せず、この小さな生き物たちのリアルな描写から、作者は生と死を考察しているのです。
「城の崎にて」はこういう作品で、今の人たちにも受け入れられてるのかどうか分かりませんが、短編なので、読んでいない方には是非ご一読をお勧めしたい名作です。
白黒の画面を見るように感じるかもしれませんが、描写は古いようでいて、いつまでも読者の心を捉える魅力があります。
その魅力を、是非味わってみてください。
「城の崎にて」についてでした。
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