第28話 へなちょこ亭主の恋人
私の友人に、自分をへなちょこ亭主と呼んでいる男がいる。
給料は安く、勤勉さに欠け、大学も三流出身だからだそうだ。
この自称へなちょこ亭主の話が時々面白い。
たとえば女性に関してである。
へなちょこ亭主には2人の忘れられない女性がいるという。1人は19歳くらいの時付き合った女の子で、もう1人は23、24の頃付き合った女性だそうだ。
どちらも付き合ったと言っても、ベッドを共にしたことはなく、ただ一緒にどこかへ遊びに行ったり、映画を観に行ったりといったことが付き合いの中心で、結局最後まではいかないままだったそうだ。
勿論この2人の女性以外にも、付き合って、ベッドを共にした女性がいる。
しかし不思議なことに、60歳近くなり、いよいよへなちょこも板に付いてくると、眠られぬ夜などにしみじみと思い出すのは、このベッドインしなかった2人の女性なのだそうだ。まるで、大切に育てた金魚を池に放すように別れ、そしてその後は自然に相手の幸せを祈るようになったという。
もう何十年も前に付き合ったこの女性たちが、今どうしているのか、結婚したのか、子供はいるのか、幸せになっているのか、時々とても深い感傷と共に思い出すのだそうだ。
だが連絡をとるすべはないし、もしとれる方法があっても、たぶんとらないと思う。
その時、へなちょこ亭主はそう言って話を結んだ。
なるほど、私にはへなちょこ亭主の言うことが分かるような気がする。だから私は、
「うん、分かるよ」
と言うと、へなちょこ亭主は嬉しそうに微笑んだ。
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