26日

しら玉白二

第1話


26日


時々こんな日がある

桜が、弱い風にのって散るみたいに、雪がゆっくり降っている



朝、キッチンで昨日のクリスマスケーキを姉ちゃんが切っている

2年前に、子供を産んだのきっかけに旦那と3人でこの家に同居だ

カウンター越しに覗くその双子の兄

こっちは同じ26歳で独身

「わぁケーキ切ってんの…あれ、何食べてんの、何食べたの」

兄ちゃんが身を乗り出す

「飾りのチョコレート」

口を動かしながら、姉ちゃんがケーキを切り分け答える

「それ毎年楽しみにしてるやつ、どれ食べようかなぁってみんな楽しみにしてるやつ」

「誰が?」

居間に散らばってる家族に目をやる我が家の指令等

父は、横で先に切り分けてもらったケーキを食べている

僕は、受験生で朝から講習なので、1人だけ身支度を整えケーキを待ってる

我が家は、クリスマスの翌朝はケーキが朝飯なのだ

思春期の弟は、

「クリームの蓋!顔洗ったらなんで閉めておかないのよ」と母に絡まれ、

「あ、忘れてた」

とぼけた顔で言われた事を認めるのは、彼にとって謝罪してるに等しい

「1800円!」

父が、テレビに向かって高そうな焼肉弁当の値段を、スタジオの人たちと一緒に予測している

お兄さん(姉ちゃんの旦那)が、1歳半の娘を連れて皮膚科から帰って来た

ほっぺたを、クリームパンみたいな手でいつも触ってるうち、かぶれて真っ赤になってしまった

「めちゃめちゃ混んでる病院、受付の前でうるせーオヤジいてさ、後ろから頭叩いてやろうかと思ったよ」

お兄さんを置き去りにし「ケーキ切っておいたよ、食べて」

姉ちゃんの呼びかけに、みんなそれぞれ頷く

ケーキは、等分に切られ皿に盛られてはいるが、刺さってあったであろうホワイトチョコのプレートや、中がスカスカのチョコの家も、柊の飾り物やサンタクロースのマジパンも、すべて無い

イチゴを、別のケーキに移して生クリームが剥げたまんまの皿もある


母が、洗濯室で笑いながら洗濯物を干している、気味悪いがいつもの事

「ちょっと、笑ってるところ悪いんだけど」

大きめに声をかけると、母がイヤホンを外した

「今日の講習4時間目までだから、12時20分終わりね、帰ってから昼食べる」

「わかった、もう出るの?」

そう言って、返事も聞かないうちにまたイヤホンでラジオを聴きだす

「行ってきます」

いってらっしゃいと2、3人が返してくれる

チビが、玄関まで送りに来てくれた

ほっぺたが軟膏でてかてかしてる

バイバイと手を振ると舌をペロペロ出して

戻っていった



来年の春大学に受かれば僕は家を出る

大学に入る不安より、家を出ることが、なんだか嫌だなぁって

いやほんと一瞬だけど

今更考えたって遅いんだよな

鼻の頭につきそうな雪をフッと追い払って、バス停に急いだ

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26日 しら玉白二 @pinkakapappo

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