第1章 プロローグ
少年が空を見上げたとき、視界の先は暗闇に包まれていた。
夜とは違う、
真昼の陽光さえも遮る黒煙が遥か頭上を覆い尽くし、世界に影を落としているのだ。
その原因となっている炎は、この街にある何もかもを灰と化すかのように、煉獄のごとく燃えている。
辺りに漂うのは、死肉が焼ける臭い。
逃げ惑う人たちの叫び声が鼓膜を貫き、魂さえも揺さぶる。
襲いかかる者たちは女子供にも容赦なく刃を向けて、死体の山を憎悪と共に積み重ねていく。
醜い本能が剥き出しとなった戦禍の中で、少年はどうして自分がこんな場所にいるのかがわからなかった。
気がつけば自分はこの場所にいて、無数の叫び声や爆音、そして鮮血に飲み込まれていた。
逃げる、という本能的で簡単な選択肢でさえ、少年の頭には思い浮かばなかった。
それも致し方ない。
なぜなら、彼がこの世界で目を覚ましたのは随分と久しぶりのことだったからだ。
わけがわからず恐怖に慄くことしかできないまま、耳を塞いでその場にしゃがみ込んでしまった少年。
泣き叫ぼうにも、誰に助けを求めればいいのかもわからない。
このまま自分もすぐそばで横たわっている子供のように、二度と動かぬただの肉塊となってしまうのだろうか。
そんな未曾有の不安と恐怖に飲み込まれそうになった時、少年の足元に小さな鉱石が転がってきた。
それはこの空を覆う暗闇よりも、さらに濃い闇を閉じ込めたような漆黒の石。
ふと奇妙な感覚を感じた少年は、視線の先にあるその小さな鉱石をそっと右手で拾い上げた。
その間も、周囲の叫び声や爆発音は激しさを増していき、ついには少年のもとまで剣を握る男たちがやってきた。
老若男女、無数の人間の血を浴びて鈍く光るその刀身を見た時、少年は恐怖のあまり思わずその場で息を止めて固まってしまう。
そんな彼の頭上に、真紅に染められた刃が振りかざされた時だった。
極限にまで追い詰められた少年の意識が、そして精神が、心の奥底よりもさらに深い部分で誰かの声が聞こえていることに気付く。
まるでその声に導かれるかのように、少年はそっと唇を開いた。
【コンカクセイセイ……】
少年が無意識に呟いた言葉に反応するかのように、暗闇を閉じ込めていた鉱石の内部に僅かな青い光が宿り始めた。
そして次の瞬間、突如頭上から溢れんばかりの輝きが降り注ぎ、周囲に広がっている地獄のような光景を強烈な光が飲み込んでいく。
驚いた彼が空を見上げた時、太陽よりも明るく輝きを放つ一筋の光が、自分に向かって落ちてくるのが見えた。
それは少年の瞳には、まるで光の矢のようにも映ったのだった。
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