第14話 勇者ハーレム
男は無遠慮にルーチェをジロジロと見回した。
「可愛いーじゃん! 連れて帰ろう!」
「えっ!?」
唖然とするルーチェ。男のそばにいた露出高めの少女たちが眉を吊り上げてその腕をつかんだ。
「ちょっとロイ!?」
「連れて帰るって!」
「いいじゃん、こんな可愛い子滅多にいないって」
「待ってよ! ここは魔族領なのよ!?」
ロイというらしい男の腕に抱き着いて、白いローブの娘がルーチェをにらんだ。
「可愛くても魔族に決まってるわ! 汚らわしい!」
「固いこ言うなって」
そこへ四人組が追いついてきた。すぐさまルーチェをかばい、警戒態勢を取る。
「姫様!」
「ご無事ですか!?」
ルーチェが頷く。ロイが感心したように目を丸くした。
「へえ、姫様ねえ」
前衛を担うネヴィスとウィニスが前に出る。
「お前たち、何者だ?」
「明らかな不法侵入だ。魔族領に何をしに来た?」
軍人モードの低い声で問う双子。ロイが発したのは全く答えになっていないセリフだった。
「ええー? 天使と堕天使! しかも双子! それにバインバインのサキュバスのねーちゃん! もう一人も美人だし、ちょっと経験値にするのはもったいないな!」
ロイにまとわりつく娘たちが口々に非難の声を上げる。
「何言ってんの! 魔物じゃない!」
「すぐ鼻の下伸ばして!」
「ここにはレベル上げに来たのよ! 何女なんかに気を取られているのよ!」
「だいたいあたしたちがいるのに……」
「えー、魔物娘イイじゃん。奴隷にすりゃ安全だろ?」
イリーナの目が赤みを帯びた。
「奴隷、だと」
双子が剣を抜いた。
「「姫様に何たる無礼!」」
エフェミラが髪をかき上げた。
「女の口説き方を知らないみたいねぇ?」
ピンクの靄が風のようにロイとその一行へ押し寄せる。
「これはっ……」
「足が……」
ばたばたと少女たちが草原に膝をつく。エフェミラの弱体化魔法にかかったのだ。
「サキュバスの魔法は、女には効かないはずじゃ……」
「あら、それは勘違いだわぁ」
効きにくいだけだ。エフェミラと娘たちにそれだけ力の差があったということ。それよりも。
「どうしてアナタは平気なのかしら?」
エフェミラの目はただ一人平然とした様子のロイに向けられる。男にはサキュバスの魔法が効きやすい。本当なら真っ先に足腰立たなくなっているはずなのだ。エフェミラは探るようにロイを見た。
「まさか……玉ナシなの?」
「違うわッ!!」
「ええ……? それならアタシに骨抜きにならないはずないのだけど……?」
「そんなに疑うならこれを見ろッ!!」
ベルトに手をかけたロイに少女たちが叫んだ。
「「「「恥ずかしいからやめろ――――ッ!!!!」」」」
その隙に双子が襲い掛かった。ネヴィスが天から、ウィニスが地から。とっさに剣を抜いたロイが、その二段攻撃を受け流す。
「「何っ!?」」
飛び退った双子が驚きの声を上げた。本当なら首と胴で三分割されていたはずなのだ。馬鹿っぽいが強い。その上に。
「まさかあれは聖剣?」
戦況を見ていたイリーナが厳しい表情で言う。双子が頷いた。
「威力を削がれた」
「力が入らなかった」
イリーナの手から魔力で生成した黒い槍が飛ぶ。ロイはそれを切り払った。
「おー、怖い怖い。でもクールなのがイカスぜ、姉ちゃん」
「どうやら本物……何故そんなものを持っているの? あの男」
ロイは一歩前に出て自慢げにニヤリと笑った。
「だってオレ、勇者じゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます