第12話 イチゴ狩り 1

 さて、あれからルーチェは学校に通うようになった。「城で勉強すればいいじゃないか!」という魔王に、宰相が「姫様に友人も作らせないおつもりですか!」と突っ込んでそうなった。同年代との交流は、子供にとって大事な成長の糧である。


 というわけでご学友の影響もあって、ちょっとおませさんになった勇者は言った。


「えっとね、陛下にチョコをあげたいの」


 折しも世間は魔族領、人間領問わず恋人たちの日バレンタインデーの話題で持ち切りだった。


 過去に召喚勇者が持ち込んだこの風習は、民衆の支持を受け今ではこの世界でもすっかり馴染んでいる。


 もちろんルーチェの通う学校でも、Xデーが近づくにつれ男子も女子もそわそわし始めた。魔王の婚約者であるルーチェには、皆「あげるよね? あげるよね?」と期待満載の目を向けている。


「勇者が始めた風習だもの。もちろんやるに決まってるわ!」


 相談されたのは彼女の四人の侍女たち……エフェミラ、イリーナ、ネヴィスとウィニスである。


「でもチョコといってもいろいろあるでしょ? 陛下は大人だし、その、どういうのが喜んでもらえるかなって」


 もじもじと手を握って目を泳がす乙女な勇者。思わず生暖かい目になる元王妃候補一同。なんだかんだ家庭教師と生徒になって久しい。赤ん坊の彼女に嫉妬して襲い掛かろうとしたのが嘘のように、すっかり情が移ってしまっている。


「姫様のプレゼントなら、何でも陛下はお喜びになると思うわぁ」

「同意するわ。ね、姉」

「ええ、妹。同意するわ」

「そうね。それは間違いないわね」


 何せピクニックに行った時ルーチェが編んだ花冠を、時間停止の魔法まで使って宝物庫に飾っているのだ。


「ただ、チョコを渡しても、もったいなくて食べられない可能性が……」


 イリーナがその懸念を口にすると、ルーチェはつんと唇を尖らせた。


「陛下駄目すぎなの!」


 まさに城の全員が思っている。


「食べてもらおうと思って渡すのに、食べてくれなかったら悲しい……」

「「なら、隙を見て口に突っ込めるポ〇キータイプ」」


 天使な双子が脳筋なアイデアを出した。


「暗殺するんじゃないんだから!」


 思わずイリーナが突っ込む。ロマンのかけらもない。せめて「あ~ん」にしろ。


「トリュフなら押し倒して口うつ……」

「年齢制限考えなさい!」


 反射的にイリーナはエフェミラの頭をはたく。いくら何でも早い。しかもサキュバス流すぎる。未成年のルーチェに何を吹き込むつもりか。


 宰相ザハルといい、魔王城のツッコミ担当はヴァンパイアが一手に担っているようだ。


「ええと、一緒に召しあがればよろしいのでは?」

「え?」


 一人ぐらいまともな意見を出さないと、とイリーナは言った。


「お茶の時間に、チョコレートフォンデュなどいかがでしょうか? フォンデュなら確実にその場で召しあがっていただけますわ」


 ぱあっとルーチェが笑顔を見せる。が、すぐに目を伏せて考え込んだ。


「で、でもわたしが準備したいの」


 巷では手作りチョコなるものも流行り。だがちゃんとしたチョコフォンデュには機材や技術が必要。まだルーチェには難しい。城のシェフに任せることになってしまうだろう。


「なら狩りに行けばいいわ。ね、姉?」

「姫が具材を用意すれば完璧。ね、妹?」


 ネヴィスとウィニスが顔を見合わせて頷き合った。


「「森でジュエルベリーを探しましょう」」

「ジュエルベリーって、あのハート型の!? 森にあるの!?」

「丁度旬の季節なの」

「きっと美味しいの」

「行く!!」


 双子の提案に、ルーチェが即答した。

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