モニカとして私は生きる【1】

 御國は真っ暗な場所に座っていた。

「ここは……?」

 正座を崩すような形で座っていた御國がふと上を向くと、1頭の光で出来た白い蝶が上へと飛んでいった。

 その蝶は、御國の中から飛び立ったような気がした。

 御國が蝶に向かって手を伸ばすと、蝶から声が聞こえてきた。


 ーーみんなを、幸せにしてね。


 その声は、御國がこの世界で目覚めてから、ずっと自分の中で聞こえていた声だった。


 ーーみんなを、よろしくね。


「あなたは、もしかして、モニカさん?」

 御國が問いかけるが、蝶は飛んで行ったのだった。

「待って!」

 御國は立ち上がると追いかけた。

 走って追いかけていると、指先に触れるか触れないかという距離まで蝶に近づけた。


 そうして、御國が蝶を捕まえようとした途端、蝶は弾けて光の粒となった。

 その光の粒を受けた御國の頭の中では、走馬灯のように「モニカ」の映像が流れていったのだった。

「これは、モニカさんの記憶?」

「モニカ」が出会った人、印象的な出来事、マキウスとの出会い、ニコラの出産。そして、階段からの転落と、映像はずっと続いた。


 そうして、光の粒が全て御國の中に消えた時、御國の頭の中はグルグルと回った。

 まるで、ミキサーにかけられているみたいに、御國の記憶と「モニカ」の記憶が混ざり合っていったのだった。

「あ、あ……っ!」

 御國は頭を抱えると、その場に蹲った。


 御國が、モニカになっていく。


 頭から爪先、指先へと、モニカが溶けて、御國の中に流れていったような気がした。


 御國とモニカはひとつになったのだった。


「モニカ!」

 誰かが名前を呼んでいた。

 胸が温かくなる声だった。涙が一筋、頬の上を流れていった。


 今までは、呼ばれる度に違和感のあった名前。

 けれども、これからはそんな事はなくなる。


 なぜなら、モニカ御國になったのだからーー。


 声が聞こえてくる方に、御國はーーモニカは、一心に手を伸ばしたのだった。


 これからはモニカとして、この世界で生きていく為に。

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