番外 バゼル


 風に乗った翼は空気を割って進む。

 眼下に広がる景色は雲を跨ぐごとに景色を変える。


 最高に気持ちが良い。


 空の支配者、飛竜種。

 今となっては個体数は減り、人間の大陸でも神格化されているのが俺たちの種だ。


 しかしそんなの興味はない。

 崇められたって、畏れられたって、何も面白くはない。

 飛竜種である俺や父である王の前には敵も、ライバルもいなかった。

 かろうじて反勢力として残っていた自治区は興味がない故放っておいた。


 そこが人間と揉め事を起こしても、見ないふり。

 人間が攻めてくれば力でもってその差を示した。

 

 そんな生活を繰り返してきた王家は、いつしかどんよりと沈んでいた。

 王があれこれせずとも勝手に自治区で好きにやっている。

 これ以上何をすれば良い?


 俺も父も、国というものに興味を失くしていた。

 強さ故その座にいたのだ。周りは勝手に崇めているだけ。


 それが、どうだ。


「貴殿の騎士団は一市民に手を挙げるのかッ!?」


 強大な力を持つ自身を一市民と呼び、その脳内は数多の魔物の幸福のためにと数々の政策を父に進言。

 どうなっても一興とその通り行えば、国は潤い治安も良くなった。

 次第に活気づく国を見て、父と母の目が変わるのが分かった。


「私たちは…今まで何を見ていたのだろうな。」


 重々しく父が呟いた言葉。

 その胸の内を痛い程感じた俺は初めて他人を思いやって涙を流した。


 感謝してもしきれない。そして懺悔したい。

 ただの古く力のある種族だからと王座に胡坐をかき、何もせずただ日々を消化していった日々を。


 父と母はバカンスだと言っていたが、国を自分の足で見てみたいから城を出たのだ。

 俺もそれを見たいとは思ったが、既に心は決まっていた。


 黒い瞳に映すのは何なのか。他者を慮る熱い心は何のためにあるのか。


 この世で最も敬愛する魔王様。

 どうか、あなたの黒き眼に映す世界を俺にも見せてください。


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