クロスチャイルド 第1章 ミラク編 5 [1/4]
あれは、17年前こと。
私はいつものように研究に没頭していた。
途方もない生き物を生産し、出荷するための研究で、ルーティン化した毎日に、焦燥感の波が押し寄せては引いていく。そんな日々だった。
そんなある日、突然珍しいお客からクロスチャイルド研究施設に一本の連絡が入った。
その懐かしさにどこか高揚していたのを覚えている。
「久しぶりだなジェフリー。元気にしていたか?お前は出会った頃から全く変わらないな。」
恐ろしいよ。と言いながら、にこやかな笑顔を私に向けているのは、友人であるアルバート・レーガンだ。
その横には妻のミアがいた。
アルバートとは不思議な縁で、彼がセカンダリースクール7年生の時、私は自らのゲノム編集技術確立に向けて、研究に没頭している最中に出会った。
お互いにマメな性格ではないが、不思議と縁は切れることがなく今日に至り、今も交流が続いていた。
幼い頃から飛び抜けて優秀だったアルバートは、大学在学中に仲間と作ったMY FAMを発表し、それは瞬く間に全世界に広がりを見せた。
今や世界中どの媒体にも普及しており、日々の生活の概念を変えた。
何もかもとつながるオープンな世界を構築したアルバートは、その世界の王となった。
アメーバ状にそれぞれが勝手に繋がりを持ち、情報を網羅する。つながるものの根底を覆し、今やMY FAMといえばコンピュータの代名詞だ。
それぞれに特化したものは今までもあったが、それらを総合して集めたものは無く、当時においては画期的な代物だった。
これひとつあれば良い。この世界で生きていけばいい。という手軽さは、家庭用からビジネスシーン、公共交通網を席巻するまでに時間は要らなかった。
また、世界中で発売されている様々なハードウェアとの互換性も良かったのも、広がりを加速させた理由の一つだった。
ニンゲンの全てを網羅し、趣味趣向から性癖、貯蓄や資産、そして傾向など、様々な情報を吸い上げる代物は、物議を醸しながらその便利さゆえに拡大していった。
世界を作り出したレーガン社は、さらに精度をあげてコンピュータに感情をもたらした。
人間の理不尽さや危うさや強さや馬力が、コンピュータに備わったのだ。それが世界のあらゆるものを世界線で結んでいる。
そんな世界で最も有名で、最も資産の時価総額が高い男が何故、手間と時間をかけてこんな辺鄙な研究施設に来ているのか。
それでも、私は久しぶりに会える友のとの再会に顔が綻んだ。
「どうしたんだい?ここに来るのには時間がかかったろうに。電話で済む内容ではなかったのかな?」
「そうだな…。実は、折り入って頼みがあってきたんだ。」
真剣な顔をして話し始める古来からの友人に、只ならぬ雰囲気を感じた私は、奥へ座るように手招きした。
「で、どうしたんだい?」
「ジェフリー、私にもクロスチャイルドを一体作ってくれないか?先日、ジャングルでで出会ったんだ。」
そう言って、アルバートは3D映像を出した。
そこには亜熱帯地方に生息する、火の鳥のモデルにもなった美しい鳥が、優雅に飛翔していた。
「ケツァール…だね。よく見つけたね。」
私は少し難しそうな顔をして、目の前にいるレーガン夫妻に対して理解ができないといった表情を見せた。
「さすがだな。遺伝子工学の権威は、絶滅危惧種も精通しているのか?」
「この鳥は有名だからね。絶滅していたかと思っていたけど」
「私も初めて彼を見た時は、あまりの美しさに目を奪われたよ。そして目を疑った。こんな美しい生き物が今もこの世界で生きているなんて!と。」
と、感嘆のため息を漏らした。
「うーん、作るのは構わないけれど…。まぁ、実際のところ産まれる確率はかなり低いのが現状だよ。ただ…ケツァール…。確かに美しい鳥だけど、特に何かが優れている点はなく、戦闘能力も低い。飛翔も早いわけでは無いし…あ、愛玩用かな?」
いつもの調子でアルバートの質問に答えた。
私には、どうしても治らない癖があった。それは、話をし始めると、相手が相槌を入れる隙間も作れないほどに話が止まらないという癖だった。
それを見たアルバートは、子供のおいたをしょうがないなぁと笑うようにして微笑んだ。
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