クロスチャイルド 第1章 ミラク編 2 [3/4]
世界は何度も歴史を繰り返してきた。
独裁から民主化を経て、異なった考えが飽和状態になると混沌とカオスを呼び、再び独裁や共産主義へと舵を切る。
そんな歴史の中、今もまさに王政復古、そして独裁政治が世界のスタンダードとなっていった。
フェイ国は共産体制の国で、その国家は代々ウェン一族が統率している。
一度は革命を起こし、民主化をした国ではあるが、王政の独裁政治を取り戻して今なお歴史をつないでいる。
ウェン一族を国家戦略として神格化し、崇める事で発展してきた。
基本的に宗教国家としての色が強いが、それは表向きで、富はウェン一族に吸い上げられ、一部の民を除いて国の経営は逼迫し国民の5人に1人は餓死しているという悲惨な状況だ。
主に経済は鎖国状態にあるため、農業などが盛んだが、国家の一番の収入源はサイバー攻撃によるサイレントテロ。
特に得意とするのは金融関係で、他人の口座を土足で踏み散らし、株価や紙幣価値への影響は、一部でこの国が関わっていると言う者もいるのだが、彼らは現金を根こそぎ奪っていき証拠を残さない。
大国タットルとの冷戦状態が続いている、謎に包まれた国だ。
「でも、フェイ国がなぜでしょう?」
ずっと押し黙っていたレグルスが言った。
「実はもう一つ国が関わっている。それがアイソンだ。」
「アイソンも?二つの国を相手にするというのかい?」
アーサーは両手で自身の頭を掴んだ。レグルスは険しい表情のままだ。
世界には大国と呼ばれる国が二つある。そのひとつが今宵向かう南国タットル。そしてもうひとつがアイソンだ。
この世界は負の遺産をそのままに受け継いで、なんとか生きながらえている。
度重なる気候変動と温暖化により、陸地の約60パーセントは砂漠化し人が住めなくなった。
そこで人々は水と食糧を奪い合う戦争が巻き起こった。
その戦争は悲惨そのもので、約2/3の人類が戦死、飢饉、水と食糧、土地不足により亡くなった。
それが返ってよかったという人もいる。
そもそも今までいた人々が全員住めるような場所はこの星のどこを探しても、もう見つからなかった。
400年前の地図と比べるとその差は一目瞭然で、緑豊かで美しい星は、今や大陸は砂漠化し枯れ果てている。それでも海の青さだけは変わりなく輝いているのだから、宇宙から見たこの星はいつだって紺碧の美しさを保っていた。
経済大国であるアイソンの特徴といえば、右を向いたら国民全てが右を向くという統率された国家体制による今一番経済成長が著しい国だ。
王政ではないが、国民の父と呼ばれる男、「ライオン・シン」の政策により、莫大な富を産んでいる。
特に工業が盛んで、富と知の象徴である、アイソン超高層ビル群は観光名所としても有名だ。
世界政府機関での発言権も得て、これからますますその存在を世界に向けて発信していくであろう国。
「アイソンは補助的な役割だね。メインはフェイ国だ。」
実は、レーガン社が長年開発していた新プログラムがつい最近完成したようで、そのプログラム『MY BRO』は、世界シェアナンバーワンのレーガン社のMY FAMが日々吸い上げている莫大な個人情報を共有し、管理・統括する事ができる、MY FAMを利用したさらに画期的な代物だ。
つまり、吸い上げたビッグデータをフルに使い、裏から個人や企業・国の未来予測をする事が出来ることになる。この世界では、より精度の高い未来予測が何よりも次の時代の鍵を担う。
人はコンピューターを使う時代から、コンピューターが先回りして人を管理・支配される時代になる。人工知能が人工知能を作り出し、人の中にロボットが混じり合っていく。
まるで神が労働力として人間を作り出したどこかの神話のようだ。いつの間にか世界を支配していく。
そんな事が民間の一会社が出来てしまうとなると、国からすれば脅威に近い。
ある程度国民からインターネットやテレビなどを閲覧する権利を奪っていて、情報操作をしているこの二つの国からしたら、この会社がネット上でこれ以上参入されると困るのだ。未来予測は国のみが管理しなくてはならない。
しかしながら、MY FAMそれほどまでに普及していて、代替商品のほとんどを駆逐している。
出る杭は打たれるというが、レーガン社も例外ではない。
大国アイソンは特に、最近の急速な経済発展は目を見張るものがある。
先の戦争で負けた犠牲は大きく、世界の中で遅れを取ったがそれをものともしないV字回復の経済成長は凄まじかった。
それ故に、最新式のインフラの整理が間に合わず、外国資本が参入している状況は国家の意としていない。
そんな中に新ブログラムが広がったら瞬く間に外資系企業に国の繁栄による富の恩恵を持っていかれることだろう。
アイソンは、世界的に見ても人口が膨大な分、そこを狙う国はごまんとある。
それを危惧してとのことだった。
「夫妻の護衛ではなく、少女の護衛が僕の仕事?」
ユキは顔色も声色も変えずに聞いた。
「そうだよ。夫妻の護衛はハダルに頼んである。…新システムの護衛が最優先だけどね。」
「ハダルもいくんだね。それなら安心だ」
アーサーは胸をなでおろした。
ハダルはこの施設のもう一人のクロスチャイルドだ。
お互いに認識はあるが、基本的に個人的な交流はない。とは言っても一緒に任務してきたことは今までに何度もある。
人見知りでシャイで、人との交流がほとんど無いユキとは対照的に、ハダルは社交的なクロスチャイルドだった。
「うん。他の国や様々な機関に見つかれば、彼女はすぐに殺されてしまうかもしれない。または捕まるか。捕まったら何をされるかわかったもんじゃない。そうなる前に彼女を救ってほしい。クロスチャイルドといえど、彼女は下位種だ。ミラクは自分がクロスチャイルドだということを知らないから、力の暴走もあるかもしれない。それを避けたいんだ」
ジェフリーは真っ直ぐに二人を見た。
ユキは頷き、アーサーは、少し考えた後、
「…オーケー。かわい子ちゃんは無条件で救わなければならない。僕でよければ力になろう。」
アーサーはくちびるを引き締めた。瞳には正義感の光が宿り、まっすぐに見据えていた。
ユキに至ってはジェフリーが是といえば全てが是になるので、決定権は最初からなかった。
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