第19話 肉と酒の宴
智佐の活躍など知らない麗奈達は敵陣地へと突っ込んでいた。
「ひっとおおおお!」
先頭を駆けていた今井が狙撃される。麗奈が叫んだ。
「ちっ!スナイパーよ!」
麗奈達は即座に茂みに飛び込む。
それを眺めていたのは東京マルイのVSR-10を構えるマイケルだった。
「こいつは面白い。とても狙撃銃で狙う距離じゃないが・・・意外とやれるもんだな・・・はははっ」
狙いを他の二人に向ける。茂みに潜んでいる為にその動きを確認している。少しでも姿を晒せば、即座に仕留めるつもりだ。
「実銃と違って、ブッシュ程度でブロックされるのが厳しいな」
茂みの中に潜んでいるのは解る。実銃なら、それでも撃っただろうと彼は思った。
「しかし・・・情報は大事だと言うが・・・無線機一つ使えないのは確かに辛いな。状況が解らないのは待っている身としては辛い」
マイケルは笑いながら呟く。
正直、軍人と素人で戦争ゴッコをすれば、負けるはずが無い。それぐらいの余裕は彼らの共通認識だった。
カサカサ
違う方角から茂みを掻き分ける音が聞こえた。
「んっ?味方が戻ってきたのか?」
マイケルはスコープから目を離し、そちらを見た。
「げっ!?」
彼は驚いた。当然だろう。そこには茂みを掻き分けながら迫る智佐の姿があった。
「智佐ぽん!狙撃手が居るわ!狙撃手!」
茂みを掻き分けてやって来た智佐に気付いた麗奈が叫ぶ。
「えっ?だ、代表?」
智佐は麗奈の声に反応して、一瞬立ち止まる。
それを見過ごすマイケルじゃない。即座に銃を構え、立ち止まる智佐に狙いを定める。その動きは僅か数秒だろう。
「棒立ちか・・・」
マイケルが引き金に指を掛けようとした瞬間。
パパパン
彼の頭上をBB弾が次々と飛び去って行く。それに一瞬、焦って、撃つのを躊躇い、身を低くした。
「くそっ・・・向こうの奴らか・・・」
身体の多くをバリケードに隠しているとは言え、頭の上を飛び去るBB弾が気にならないわけが無かった。
「くそっ、本当の戦争なら、こんな撃ち合いなんて・・・」
マイケルは撃つのを諦めた。スナイパーにとって、相手に位置を悟られるのは最も危険な事だった。
「突撃!突撃!相手は一人よ!」
麗奈はその動きで相手が一人だと悟った。数で突っ込めば、勝てる。そう踏んだ。
その声はマイケルにも届く。
「マジかよ。日本人お得意の万歳突撃って奴か?くそっ」
マイケルは慌てて、銃を構え直す。だが、目の前に広がる光景は絶望だった。別々の方角から迫る3人。しかも手にした自動小銃をフルオートで撃ちながら。
BB弾がマイケルの頭を掠めそうになる。それでもマイケルは一発を撃った。
「ひっとおおおお!」
郁子が倒れる。それでも麗奈は土嚢を飛び越え、そこに居たマイケルを見下ろす。その銃口はマイケルの眉間を見据える。
「ひゅー。すげぇ。・・・負けたよ」
マイケルは銃を置いて、負けを認めた。そして、麗奈は木に吊るされたブザーを鳴らせた。それを見て、マイケルは悔しそうに呟く。
「ちっ、素人に負けてしまったよ」
ゲームが終わり、休憩スペースに集まった。軍人チームのリーダーであるサムが苦笑いをしながら悔しがる。
「実銃とはまったく違う。だが、とても面白いな。子どもの頃の戦争ゴッコを思い出したよ」
「スポーツとしては最高ね」
軍人チームは概ね楽しかったと騒いでいる。それから3ゲームをすると、コツを掴んだ軍人チームは体力にも勝っている為に2ゲームを取り、結果的に引き分けになった。
用意されたBBQとビールにウィスキー、ワイン。肉も酒も一流品だけあって、とても美味しかった。
「へい、そこのちびっこ」
そう言われて振り返る智佐。呼び掛けたのはノーマだった。
「あんたの戦い方はとても刺激的だった。あんなに恐れずに飛び込んで来るなんて、思わなかったよ」
「そ、そうですか?」
「ははは。実戦で出会っていたら、ヤバい奴だよ。相当に危険人物だ」
軍人達は大笑いしながら智佐を褒める。否、褒めているか怪しい感じだが、それでも智佐は満足気だった。
「智佐と御厨は未成年だから、酒を飲むなよ。ほれ、お茶とコーラだ」
今井が気を利かして、ソフトドリンクを持って来る。
「愉快。愉快。孫の遊びに付き合ってみたら、見世物としても面白いもんだ」
久美子の祖父も満足したように大きなスペアリブを焼きながら、ウィスキーを飲んでいる。
大きなスクリーンにはプロジェクターで動画が映し出されている。それは久美子が彼方此方に仕掛けたカメラなどの映像を編集したものだ。
「いい!良い感じよ!コスプレが利いてる!」
久美子はとても満足したように動画に見入っている。元々、これが目的のゲームだった事を誰もが思い出した。智佐はミニスカート姿で走り回る自分の姿に少し恥ずかしそうにしている。そrは他の女子メンバーも同じだった。
「智佐ぽん!この調子でコスプレイベントへ行くわよ!」
久美子の呼びかけに智佐は顔を真っ赤にしながら「いやですぅ!」と答えた。
そんな智佐を見て、更に皆が大喜びして、その晩は肉とビールと炭酸で盛り上がった。
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