第15話 コスプレ de サバゲ
智佐の初サバゲを終えてから三日が経った。
智佐は講義で出された課題リポートを学生食堂の机でやっていた。
「智佐ぽん。おっ、キリスト教概論のレポートねぇ」
声を掛けて来たのは久美子だった。相変わらず、ゆるふわ系な感じの可愛らしい感じだなと智佐は思った。
「感想文みたいになってますけど、これで良いんですかねぇ?」
智佐は恥ずかしそうにレポート用紙を久美子に見せる。
「えー。キリスト教概論なんて、とりあえず、文字が書いてあれば、良いんじゃない?」
久美子はかなり適当に答えた。
「そんなもんですか?」
「だって、あの講義を落とした人って、誰も居ないもん。出欠は厳しく取るけどね。ちゃんと出席していれば大丈夫じゃない?」
「へぇ・・・そうなんですか」
智佐は何となく納得した。
「それより、今日はサークルの日だけど、出る?」
毎週水曜日はサークルの日として、参加が推奨される日だった。
「はい。行きます。トールマン先輩も?」
「久美子で良いって。私も行くわ。イベントも暫く、無いから、ゲームにも出たいしね」
「イベント?」
智佐は不思議そうに尋ねる。
「コスプレイベントだよ。この間、大須であったからぁ」
あっけらかんと言う久美子に智佐はよく分からないという顔をするしかなかった。
「智佐ぽんもコスプレしたくなったら言ってね!」
そう言い残して久美子が去って行く。
「コスプレ・・・どんな恰好するんだろう」
智佐は久美子の後ろ姿を見ながら、頭を捻る。
全ての講義が終わった午後。
サークルの部室を訪れた智佐。偶然、扉の前で御厨と出会う。
「御厨さんはさっきの講義は中国語だったの?」
智佐の問い掛けに御厨は頷く。
「智佐ぽんは?」
「私は空き時間に図書室でレポートをやっていたよ」
「キリスト教概論?」
「ううん。法律一般」
「そうなんだ」
二人は扉を開く。
「いらっしゃーい」
中では麗奈と郁子が居た。
「おはようございます」
二人は彼女達に挨拶をする。
「朝じゃないからこんにちわっしょ?」
郁子は当然のような事を言う。
「先輩達は何をしているんですか?」
御厨が尋ねると麗奈が読み掛けの本を見せる。
「月刊アームズマガジン。伝統あるエアガン専門誌よ」
それはかなり大きめの本だった。
「女の子がコスプレしてる」
御厨はグラビアのようなページを見ている。
「コンバットやアームズは昔っから、そういうの好きだからぁ」
郁子は呆れたように言う。それを見た智佐は郁子の手にある本を見る。
「郁子先輩は何を読んでいるいるんですか?」
「私はGUNプロフェショナルよ。かつてのGUN誌の流れを組む紙面作りが素晴らしいわ」
郁子は黒を基調とした本を見せる。
「何か違うんですか?」
「そうね。GUNは本物の鉄砲をメインにしているけど、アームズとかはエアガンや装備品などに力が入っているのよ」
「まぁ、方向性が違うって事。だから、どれを見ても役に立つわよ」
麗奈が笑いながら答える。
「じゃじゃじゃじゃーん」
突然、扉が開き、誰かが入ってきた。
それはどこかの女子高生のような制服を着た久美子だった。
「新しいコスだよぉおおおお!」
久美子は全身が見えるようにクルクルと回る。彼女が着ている制服はスカートが迷彩柄であった。
「あら、リトアモじゃない。珍しくアニメコスじゃないのね?」
麗奈がすぐに気付いた。
「さっすが代表!すぐに気付いた。今回はミリタリー関係で評判が高いトリアモのコスにしてみたよぉおお!これならサバゲもし易そうだし」
麗奈は久美子の姿を上から下まで見て
「確かに装備品は軍装品だから、良いわよね。でも、私、プラモデルをやらないから、あまり詳しくないのよね」
麗奈の言葉に郁子も頷く。
「リトアモが何かすら、解らない」
郁子の言葉に御厨も智佐も頷いた。
「えぇええええ。いつも思うけど、アニメとか見て無いんですか?リトアモだって、東京マルイとコラボったりして、人気上昇中ですよ?」
「東京マルイがコラボるのはいつもの事よ。あそこはフットワークだけは軽いんだから・・・まぁ、他のメーカーも大概、コラボってるけど」
麗奈が冷たく言い放つ。それを聞いた智佐が不思議そうに尋ねる。
「そうなんですか?」
「最近は減ったけど、アニメコラボは結構、盛んにやられていた時代があったわ。ウェスタンアームズでもKSCでも」
麗奈の説明を受けても智佐には何の事かさっぱりわからなかった。
「とにかく、アニメとはコラボしやすいのよ」
麗奈は智佐の理解度を顔色で判断して、話を切り上げた。
「とにかく、私はこのリトアモコスを部全員にさせて、次のゲームをやりたいです!」
久美子がそう告げると麗奈がジト目で彼女を見る。
「代表、明らかに嫌そうですけど」
久美子がそれに気付く。
「いや、私だけじゃなく・・・こっちもよ」
麗奈は郁子を指さす。郁子は完全拒絶の構えだった。
「こんなにカワイイコスの何がダメなんですか?」
久美子が麗奈に迫る。
「近い近い。だって、脚が女子高生並に出てるじゃない・・・弾が当たると痛そうじゃない」
「痛いのは我慢です。寒い、暑い、痛いは我慢です」
久美子があっさりと言い放つ。それに動揺する郁子。
「そのコスって別にドイツ軍関係無いし・・・」
「スカートをドイツ軍の迷彩で作っても良いですよ」
「いや、それ・・・」
郁子は完全に虚を突かれて、茫然としている。
「なんなら、上はちょっとSSとかのジャケット風にしても良いです!大盤振る舞いです!」
久美子のテンションはマックスだった。
「まぁ・・・この調子なら・・・止まらないわね。どうせ、コスも作り始めてるんでしょ?」
「イエス!」
久美子はとびっきりの笑顔でサムアップした。
「わ、私たちもですか?」
智佐と御厨は怯えながら麗奈に尋ねる。
「諦めなさい」
麗奈は最後通告と言わんばかりに答えた。
その日のサークル活動は久美子による採寸とリトアモの世界観などの説明であった。
リトアモ
正式名称はリトルアーモリー。
トミーテック社の商品シリーズである。
1/12サイズで再現された銃器のプラモデルとなっている。
商品自体は実際にある銃器をメインにしてシリーズが繋がっているが、パッケージには武装した女子高生が彩られている。
その女子高生にもバックグランドが設定され、小説になったりしている。
久美子がコスを決めたのもその女子高生達のコスである。
女子高生達はモデルアップされた銃器毎に設定されており、様々なイラストレーターや漫画家が魅力ある女子高生と銃を描いている。
制服なども違う事から、一人でコスをするよりも何人も居た方が絵になるわけだ。
久美子がこれでゲームをしたいと言い出したのも実際はコスプレイベントなどでは武器になる物の持ち込み禁止な所も多く、エアガンとは言え、これの持ち込みも出来ない場合も多い。それで彼女はサバゲでコスをして、ゲームも楽しみつつ、写真撮影も楽しむつもりなのだ。それが久美子のサバゲの楽しみ方であった。
「まぁ・・・久美子の場合はそれが出来るからこのサークルに居るみたいなもんだからねぇ」
サークルが終わり、麗奈と共に智佐と御厨はキャンパスを出ている時にそんな話をした。
そもそも、コスプレという趣味もなかなか仲間を見付けにくいのである。久美子もこの大学でコスプレ仲間を探したが、見つからなかった。演劇部などもあるが、演劇とコスプレは基本的に違う。それに彼女は演じるというより、なりきるのが楽しいわけで、肌が合わなかった。そうしている時に迷彩服を着て、キャンパスをウロウロしている郁子を見付けた。
このキリスト系大学の中で平然とミリタリールックで居られる人がコスプレ好きじゃないわけがない。久美子の勘が働き、郁子に接近した事が、彼女がサークルに加入する切っ掛けだった。
「まぁ、今度はフリー参加可能なゲームだけど、コスプレして行くと喜ばれる事は多いから、良いんじゃない」
麗奈は笑いながら二人に別れてを告げて、去って行った。
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