第14話 ゲーム後の宴

 フィールド内にブザー音が鳴り響く。


 智佐がセーフティに戻って来ると、そこには麗奈と紅刃達の姿があった。


 「あそこで一気に飛び込むなんて・・・初心者の割に勘が良いわね」


 紅刃は智佐に向かって微笑みながら言う。


 「うちの部員ですもん。当然でしょ」


 麗奈が誇らしげに胸を張る。そんな彼女を紅刃がジト目で見る。


 「バカね。あんたは役に立って無かったでしょ?」


 「そ、そんな事ないわよ!」


 「肝心な時に変な場所に居て、智佐さんの支援が出来なかったなんて・・・まだ、初心者の御厨さんの方が上手って事よ」


 「あんたがこっちの動きを邪魔したせいでしょ?」


 紅刃の言葉に麗奈が怒鳴る。


 「しかし、ミクリンはあのタイミングでよく飛び出れたね?」


 御厨が話題に上がったので周防が御厨に尋ねる。その時、御厨は少し恥ずかしそうに電動ガンを身体の前で握り締めていた。


 「いえ、銃声が鳴っていたから、多分、こっちで戦闘が起きているなぁと思って・・・」


 「マジっすか。そんだけであそこで飛び出せたんですか?」


 郁子が驚く。それに周防が笑う。


 「あんたは初っ端の撃ち合いで撃沈したじゃない?」


 「あれはタマタマだよぉ」


 「まぁ、タマタマなのかどうかはこの後のゲームで決まるわね」


 周防はニヤニヤと郁子を見た。


 「ふっ・・・次は活躍するからね」


 郁子は自信満々に電動ガンを構える。


 その時、弓香が腕時計を見て、全員に声を掛ける。


 「じゃあ、休憩は終了、第2ゲームの準備を始めます。第2ゲームは通常のフラッグ戦です。陣地を入れ替えて行います」


 「フラッグ戦?」


 智佐は周防に尋ねる。


 「フラッグ戦はサバゲでは一般的に行われる形式だよ。互いの陣地にフラッグ・・・旗やブザーなどを用意して、相手のそれを先に奪取した方が勝ちってゲーム。ただし、これにも行くつかバリエーションがあって、単純にそれを触れる。またはブザーなどを鳴らすだけか。それを自陣地まで運ぶ。またはフラッグの代わりをプレイヤーが務めるとかね。こうして、ゲームの種類を増やして、楽しむんだよ」


 「へぇ・・・面白そうですね」


 「あぁ、サバゲは同じフィールドで何ゲームもするからね。こうやって工夫しないとマンネリになってしまうから・・・サバゲは工夫次第でいっぱい楽しめるの」


 その後、智佐は元のチームに戻り、全部で10ゲーム程が行われた。


 さすがに10ゲームは互いの体力が限界だったのか、麗奈も紅刃も息を切らせながら、互いに睨み合う。


 「6対4・・・今日はうちの勝ちね」


 麗奈はニヤリと笑う。


 「ふん・・・数の差でしか無いわ。それにトータルの勝率ではまだ、うちの方が上よ」


 「ふん、この期待の新人が入った事で我がクレイモアは更に強力となっている!今年こそはあなたに勝つわ!」


 麗奈は高らかと宣言した。それに対して、紅刃は余裕の笑みを浮かべる。


 「あなた・・・新入部員が入ったのがそっちだけだと勘違いしてないかしら?」


 「えっ?」


 紅刃の言葉に麗奈は軽く驚く。


 「うちは名門、射撃部よ・・・毎年、優秀な射手が入って来る。今年も・・・。待ってなさい。戦力を揃えて来るから」


 紅刃はそう告げると仲間と共に帰って行く。それを見送った麗奈は握り拳を突き上げる。


 「よっしゃああああああ!今日は宴じゃ、宴じゃあああああ!」


 腹の底から声を張り上げ、麗奈がそう叫ぶと、他のメンバーも同じように叫ぶ。そのノリに送れた智佐と御厨は唖然とする。


 「サバゲが終わったら、打ち上げよ。これが楽しんだから」


 周防はそんな二人にそう告げた。




 CQBランドを後にした一行は近くの中華料理屋『蒼龍』へと移動した。


 すでに予約がされていたようで、中国人の店主は麗奈を見るなり、奥の座敷へと案内する。


 「ここはベトコンラーメンも美味しいのよ」


 「ベトコンですか・・・ニンニクが苦手です」


 「まずはビールからああああ!」


 「未成年居ますよっ!」


 「ウーロン茶もぉおおおお!」


 「料理はコレとコレと・・・」


 席に着くなり、各々が一斉にそれぞれの事をやり出す。


 周防の隣には智佐と御厨が両サイドに座る。その様子を見た麗奈は薄い目をして、尋ねる。


 「なぜ・・・スーちゃんばかりが・・・新人に好かれているの?」


 「何故って言われても・・・」


 そう言われて、周防も困る。


 「そりゃ・・・一番、まともそうだし、僕ッ娘で女子受けが良いからじゃ?」


 郁子が冷静に答える。


 「僕ッ娘・・・そうか。今年の新人はゆる百合指向か?」


 麗奈はサクッと告げる。


 「ち、違いますよ!」「わ、私だってぇ」


 智佐と御厨が同時に否定する。それを見て、麗奈は大笑いをする。


 「まぁ、代表はああいう人だから」


 周防は必死に否定している二人を落ち着かせる。


 「何にしても、今日は二人の初サバゲーの日だから、まずはその話をしないとねー」


 郁子はビールの入ったコップを片手に陽気に言う。それを聞いた今井がチクリと呟く。


 「最初のゲームで速攻でヒットされた人が何の話をするのかなぁ」


 「なぁにいいいい!先輩!あれは相手の鼻っぱしを折るための速攻じゃないですか!私の犠牲があったからこそ、奴らの侵攻が止まったわけですし」


 「いやいや、止めるなら、バカみたいに突っ込まずに膠着状態を作るだけで良いんじゃないかと・・・」


 「ムキー!筋肉先輩はすぐにそうやって、真面目な事を言うから脳筋って言われるんですよぉおおお!」


 「なにおおおお!」


 突然、ヒートアップする二人。それを他所に麗奈はエアガンを片手に話始める。


 「まぁ、最初のゲームは相変わらず郁子の特攻が相手に見透かされた結果だけど、相手の装備も良くなってたわねぇ」


 「そうですね。紅刃さんも新しい銃になってましたし」


 「うん。まさかタナカのM700を選んでくるとわね。最近だと東京マルイのVS-10なんだけど・・・」


 麗奈の言葉に呼応するように口を挟むのは今井だった。


 「昔はボルトアクションライフルって言うと、マルゼンのステアーかマルコシのスーパー9とかだったらしいけどね」


 「クラウンの奴もあるわよ。価格は安くてそこそこの性能って奴ね。でもやっぱり、高級な奴が欲しいわよねぇ」


 麗奈がうっとりとしながら答える。それに郁子がツッこむ。


 「いや、高級って言っても、所詮はボルトアクションだろ。あれ使う奴は余程じゃないと。ましてやうちらみたいに屋内がメインだとほぼ、使え無いじゃ」


 「つ、使える・・・もん」


 麗奈は拗ねたように答える。その仕草に智佐は少し可愛らしいと思った。


 「しかし・・・私のトレポン・・・流石・・・トレポン・・・素晴らしい」


 麗奈は取り出したセンチュリオンを頬擦りする。


 「トレポンってそんなに凄いんですか?」


 御厨が不思議そうに尋ねる。それに麗奈が即座に答える。


 「そうね。やはりトリガーの切れが半端ないわ。無論、普通の電動ガンもカスタムすれば切れが良くなるけど、トレポンのシステムには勝らないわね。それにグリップが握り易い。バランスも良いから構えていても左程、疲れないしねぇ」


 麗奈は見せびらかすようにセンチュリオンを振り回す。


 「あ、あの。店の中でエアガンを出して良いんですか?」


 智佐は店内を見渡して恐る恐る尋ねる。


 「大丈夫よ!ここは店主もサバゲーマーな。サバゲと自転車好きの店だから!」


 「サバゲと自転車好き?」


 智佐は驚いたように声を上げる。


 「あぁ、わたし、銃も自転車も好きよ。祖国、台湾じゃ、今はどちらも流行ってるしね」


 店主が料理を運びながらにこやかに言う。


 「そ、そうなんですか」


 「自転車の事から陳さんに尋ねると良いわよ。ロードでもMTBでも何でも解るから」


 麗奈が自信たっぷりに言う。それを横目に御厨が周防に小声で尋ねる。


 「ここ・・・中華料理屋なんですよね?」


 「あぁ・・・一応ね。でも、店の隣でサイクルショップもやってるから」


 周防は苦笑いをしながら答えた。


 その晩は郁子の特攻や新しい装備、智佐の活躍をネタに盛り上がった。


 2時間程度の宴が終わり、解散となる。


 「よし、乗りな!」


 郁子が運転席に座る。


 「ちょ、ちょっと!飲酒運転になりますよ!」


 慌て得て、智佐が郁子を止める。


 「酔っ払ってないわよ!ちゃんとノンアルコールしか頼んで無いから!」


 郁子がそう言うので智佐は郁子の臭いを嗅ぐと、確かにアルコール臭はしない。


 「でも、テンションが・・・」


 宴会中の郁子の様子を見れば、酔っ払っていると思っても不思議では無い。


 「郁子は飲んで無くてもハイテンションよ。特にサバゲの後はハイになっているから」


 麗奈が笑う。智佐は郁子の事が益々、不安になった。

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