第8話 買い物にいこう!
御厨を連れて、智佐はクラブ棟へとやって来た。すでに新人を獲得した部活やサークルは活動を開始しているようで彼方此方、騒がしい。
大学の部活やサークルは高校の時と違って、特にこの時間から行うという決めは無い。そもそも、個人単位で受ける講義も違うわけだから、集団でやる部活以外だと、概ね、このクラブ棟に誰か居るという事がある。
「ここがうちのサークルの部屋」
智佐は御厨にそう告げながら、ドアをノックする。
「開いているわよ」
中から声が聞こえたので扉を開く。そこには海外ブランドのスーツを身に纏った麗奈が居た。元々、ファッションセンスが高いとは思ったが、今日はいつにも増して、決まっている感じだ。
「先輩、凄い」
智佐より先に声を上げたのは御厨だった。
「これ、最近、流行の海外ブランドじゃないですか?」
御厨は智佐に紹介されるよりも先に麗奈に近付いて行った。
「あら?解るかしら・・・今日はちょっと、本気モードだから!」
「デートですか?」
「デート・・・まぁ、みたいなもんね」
「おおお!」
何故か、初対面同士の二人が勝手に盛り上がっている。智佐は気後れしながら、麗奈に声を掛ける。
「あの・・・代表はこれからお出かけですか?」
「何を言っているの?あなたを待っていたのよ?」
麗奈は智佐を見て、そう答える。
「わたしですか?」
予想外の答えに智佐は驚く。
「これから、エアガンを買いに行くのよ!」
麗奈は仁王立ちで言い放つ。
「エアガンをですか・・・今から?」
「無論よ。サバゲをやるとなったら、最低限、エアガンを買わないとっ」
その言葉に智佐と御厨は茫然とする。おずおずと御厨が手を挙げる。
「あの、エアガンって高いんですか?」
「ふむ。良い質問ねって、あなた誰?」
麗奈はようやく御厨が初対面だと気付く。
「あ、私、一年生の御厨です」
「ミクリンね。私はサバゲサークルの代表の麗奈。これからよろしく!」
「あの、まだ、入るとは決めてないので」
御厨はあっさりと入会希望ではないことを告げる。それに麗奈はショックを受ける。
「むー。なかなかやるわね。まぁ、エアガンもピンキリだし、中古もあるわ。ネットオークションって手もあるけど、現物が見れないのはかなりリスクが高い世界でもあるから、やっぱり、お店に行った方が良いわね」
麗奈はそう言い放つ。智佐は呆れ顔で答える。
「いや、高いかどうかなんですけど」
「まぁ、電動ガンなら2万から5万の間ぐらい。ハンドガンなら5千円から3万円の間かしらね」
その言葉に智佐は一瞬、気が遠くなる。
「私・・・そんなにお金ありませんよ」
「安心しなさい。そう思って、今日、買いに行くのはサークルの備品よ」
「はぁ・・・備品ですか?」
智佐は自分が買うんじゃないと解り、安心する。
「自分で買うのはじっくりと考えた上で買いなさい。それまでの繋ぎとしての備品でもあるわ。未経験者が多く入って来ると大抵、銃の問題が出て来るから、そろそろ備品として用意しても良いかと思ってね」
「そうですか・・・解りました。お供します」
智佐は麗奈の言いたいことを理解した。
「私も行った方が良いですか?」
御厨がおずおずと尋ねる。
「当然よ。今日で銃のすばらしさを皆に理解して貰うわ」
麗奈に引っ張られるように二人は部室を後にした。
三人がキャンパスから出るとそこに一台の車がやって来た。それはとても頑丈そうな外見のオープンカーであった。
「代表!待ってたよ!」
運転をしているのは相変わらず迷彩柄のジャケットを羽織った郁子だった。そんな彼女はプリッツタイプの迷彩カバーの装着されたヘルメットまで被っている。
「この車、扉がありませんよ」
御厨が車に扉が無い事に気付く。
「そうよ。フォルクスワーゲンイルティスには扉が無いのよ。何せ。軍用だから」
「軍用・・・えっ?これ、戦車なんですか?」
智佐は驚きながら車をマジマジと見る。確かに自衛隊とかと同じような緑色をしている。
「戦車じゃないよ。四輪駆動車。古い車だけど、実用車だけあって、どんな所でも行けるよ」
郁子は笑いながら言う。
「まぁ、目立つから早く乗って、乗って」
麗奈が何故か周囲の白い目を気にしながら、二人を後部座席に詰め込む。自分は助手席に乗り込み、車が走り出した。
「新しい子だね。私は内田郁美。よろしく」
「あっ、私は御厨です」
「ミクリンね。あなたもサバゲ初心者?」
「えっ・・あっ、はい」
御厨はここでも勝手にあだ名で呼ばれて驚いたようだ。智佐は自分だけじゃないんだと思って共感する。
「まぁ、せっかく、ガンショップに行くんだから、今日でエアガンの事を全て教えてあげよう」
郁子はフフフと不敵な笑みを浮かべながらハンドルを切る。
車はそのまま、幹線道路を突っ走って行く。暫く、走った通り沿いに目当ての店はあった。
「ここが我々がよく来るガンショップ。トムよ」
麗奈が紹介するその店は青い外壁の店だった。中に入ると、模型が積まれた棚がいっぱい、並んでいる。
「いっぱい・・・模型が並んでいますね。エアガンって、自分で作るですか?」
「昔はそんなのもあったみたいだけど、今は完成品しか無いわ。ここは模型店がメインだから、エアガン関係は一番奥の方にあるわ」
麗奈はそう言って、模型の棚の間をズンズンと進んでいく。
智佐と御厨は初めて見る模型の山に驚きながら、興味深げに視線をフワフワと左右に揺らしていた。
模型の山の先にはまた違った感じの売り場が現れる。壁にはガラスのショーケースが並び、棚以外に衣服が掛かった場所もある。
「ここがガンショップよ!」
麗奈が誇らしげに言う。
「あっ、いらっしゃーい」
店員さんが麗奈に気付いて、挨拶をする。
「あぁ、今日はサークルの共有装備を買いに来たの。お得な電動ガンってある?」
麗奈は店員に軽々と尋ねる。
「麗奈さんには参っちゃうな。サービスはするよ。そちらの二人は新人さん?」
店員は智佐と御厨を見て、そう尋ねる。
「そうよ。二人ともド素人だから、彼女達にエアガンを教えようかと思って」
「あっ・・・ありがとうございます」
店員は深々と頭を下げる。どうやら、客認定されたようだと智佐は思った。
「まずはサークルの奴を買うわよ。二人はしばらく、これを使う事になるから、しっかりと見て、選ばないとね」
「ふっ、代表、そんなの考えるまでも無いのでは?」
麗奈の言葉に郁美が返す。
「なによ?」
麗奈は冷たい視線を投げかける。
「長物ならば、使い易い、H&KのMP5系かG3系、またはG36じゃないかな?」
何故か、郁美は右手を額に当て、決めた感じにポーズを取って、言う。
「少佐、面白い事を言うわね。確かにMC51とかはそんな風に言われているわね」
「だったら、決まったようなもんですね」
郁子は勝ち誇ったように言う。
「私、あのスタイルが嫌いなのよ。そもそも7.62ミリNATO弾を使うのに、あんなに銃身長短くしたら、パワーは大幅ダウンだし、集弾率も下がるし、そもそも、マズルフラッシュが派手過ぎる。結果、公的機関には採用されなかった奴じゃない」
麗奈はつまらなそうに言う。
「うぅ・・・さすが代表。。。しかし、それは実銃の話であって、反動もパワーもましてやマズルフラッシュも関係が無いエアガンではむしろ、最良のサイズ感として、定番となりつつありますよ」
郁子は少し泣きそうになりながら、答える。
「嫌よ。だったら、次世代のM4買った方がマシだもん」
「次世代ですか。良いですよね。電動でもしっかりと反動があって」
店員も麗奈に加勢するように話を合わせる。
「次世代は良いけど、初心者が使うにはリボバッテリーとか面倒じゃないですか?」
「確かに・・・でも、これからはリボもどんどん増えていくし」
「ガスブロとか・・・どうですか?」
郁子がそう告げると、麗奈の目が輝く。
「良いわね。ガスの長物・・・なかなか自分じゃ、持ちにくいのよねぇ」
「KSCのMASADAかWAのM4か・・・東京マルイの89式ってのもありますね」
郁子の言葉に合わせて、店員がガラスのショーケースからそれらの物を出してきた。
「僕はKSCのMASADAを押しますね。なかなか品薄で手に入らないですよ」
品薄という言葉に麗奈の目が輝く。
「MASADA・・・良いよねぇ。マグプルが発表した時はその外見から、凄い銃だと思ったわ。だけど、その後は鳴かず飛ばずでいつの間にやらブッシュマスターへと移って、どうなっていくのかと思ったモデルよ。まぁ、そんな銃は実際は腐る程、あるから気にも留めて無く、エアガンになるなんて、思わなかったけど、それがまさかのガスガンでモデル化されるなんてと思ったわ。KSCやるなと思ったモデルよ」
麗奈は目を輝かせながら銃を手に取る。
「ずっしりと重い。電動ガン以上の重量感・・・良いわぁ」
麗奈は今にも買ってしまいそうな雰囲気だった。
「まぁ、実際には自動小銃でありながら、公的機関に採用されない出来損ないですけどね」
「良いのよ。これの存在意義はそこじゃないわ」
郁子の嫌味に麗奈はピシャリと黙らせる。
「でも89式も良いですよ。予備マガジンは手に入り易いし、安いってのも売りですね」
店員は東京マルイの89式自動小銃のガスブローバックガンを手に取る。
「確かに・・・でも、私はそれの折り畳み銃底である空挺モデルが欲しかったのよ。なぜ、マルイさんは電動ガン同様の固定ストックモデルを出したのかしら・・・解せないわ」
麗奈は89式に冷たい目を向ける。
「最近は海外製の電動ガンとかも良いけど・・・どうする?」
郁子は別のショーケースを見て、麗奈に尋ねる。智佐と御厨もそちらに向かう。
「あっ、なんか、ピンク色のカワイイのがある」
そこには色々と変わった感じの銃が並んでいた。
「海外の電動ガンはリアル指向だけじゃなく、結構、こういったデザイン重視の方も多いのよね」
郁子の言う通り、見た目が変わった感じの銃が多かった。
「変わったというけど、モデル自体はCZとか、UMPとか実銃の世界ではそれなりに有名なモデルばかりよ。なかなか日本のメーカーでは手が出しにくいモデルばかりではあるけど」
麗奈がそう説明する。
「それで・・・先輩達。どれが一番、良いんですか?」
御厨が訳の分からない麗奈達の話に痺れを切らしたのか、最も重要な事を聞いた。
「なるほど・・・確かにそれを伝えないといけないわね」
麗奈はコホンと咳をつく。それから説明を始めた。
「初心者が初めて選ぶ電動ガンで必要なのは、使い勝手よ。基本的には大きさと重さ。あとは壊れ難いとかあるけど、その辺はメーカーを選ぶって手もあるわ。その点において、初心者が買うべき電動ガンはほぼ、一択。東京マルイの製品を買うべきよ」
「東京マルイ・・・なるほど」
智佐はしっかりと頭に東京マルイを刻む。
「そもそも、流通量からして、東京マルイならどこでも買える。その気になれば、故障しても修理の依頼が出しやすい。性能が安定している。説明書が分かり易い。どこまで言っても、専門的知識が無くても最低限、扱えるのが東京マルイのエアガンよ」
麗奈は店員が差し出す東京マルイのHK416を手に取る。
「剛性もしっかりしているから、故障も少ない。昔はそうでも無かったけど、最近のモデルは殆んど、モデルガン並のリアリティのある外観、そして、これみたいに次世代だと反動もしっかりあって、撃っている感覚が半端じゃなく気持ちが良い。はっきり言えば、これ一丁あったら、概ね、良しね」
「それじゃ、それをお買い上げですか?」
「まだ、考える!」
店員の言葉に麗奈はあっさりと断る。まだ、決まらないようだ。
「サバゲはある意味ではこの長物と呼ばれる電動ガンがあったら、それで全てが揃ったに等しいの。でも、それだけじゃつまらないから、出来れば、サイドアームと呼ばれる拳銃は自分の物を手に入れると良いと思うの」
麗奈の目は一層、輝いていた。
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