第9話 自分の銃

 麗奈の勧めで結局、エアガンを買う事になった智佐。


 御厨はまだ、加入するも何も無いので、決めかねているようだ。


 麗奈は早々にサークルの銃を次世代電動ガンのG36Cカスタム(郁子の強いプッシュに負けた)に決めて、店員が商品の箱入れをしている間にハンドガンのショーケース前で悩んでいる智佐達の元に来た。智佐はショーケースの中を覗きながら悩む。


 「凄い数がありますね」


 ショーケースの中には多くの拳銃が置かれていた。それらはメーカー別に分けられてはいるものの、素人目にはどれも同じように見える。麗奈は智佐のそんな雰囲気を感じ取った。


 「拳銃と言っても、種類が幾つかに分かれているわ」


 麗奈は別の店員に頼んで、幾つかハンドガンを出して貰った。その中の一丁を手に取り、智佐に説明を始める。


 「まずはコレ。一番古典的なタイプよ」


 それはいかにも安っぽい感じのエアガンだった。表面はテカテカでプラスチック然としている。


 「エアーコッキングと呼ばれる方式。簡単に言えば、自分の手でピストンを動かして、空気を圧縮するの」


 「空気を圧縮?」


 智佐は不思議そうに尋ねる。


 「そう。中にピストンが入っていてね。スライドを引くと、後退するの引金を引くとそのピストンが前進して、シリンダー内で圧縮された空気がBB弾に噴き付けられて、飛ばすのよ」


 「はぁ・・・それは・・・手間が要らないですね」


 智佐は単純にそう思うだけだった。


 「だけど、当然ながら、連射が出来ない。撃つ度にスライドを後退させないといけない。力が要るから手が痛くなるわ。それに最大のマイナス要因はそもそもリアルじゃない」


 麗奈が冷たく言い放つ。


 「ダメじゃないですか!」


 説明を聞いていた智佐も思わず、そうツッコんだ。


 「でもメリットはあるわ。ガスは気温が下がると性能が急激に低下するけど、こっちは気温に関係なく、一定の性能が出せるってところ・・・後は安い」


 「なるほど・・・安いんですか・・・」


 「外観とか気にしなければ2000円台からあるわ。昔は啓平社ってメーカーがあって、高級路線のエアコキもあったけど、それでも5000円から8000円ぐらいだったかしら・・・安いし、冬場のサイドアームとしては便利よ」


 智佐は安さに魅力を感じたが、どう考えてもメインに使える道具じゃないと思った。そんな智佐を他所に麗奈は別の銃を手に取る。


 「次は定番のガスね。ガスの力で弾を飛ばすの。サイドアームではこれが主流よ」


 麗奈はガスボンベを片手に告げる。


 「こっちが固定スライドって奴。20年以上前はこれがメインだったわけ。固定スライドってのはこのスライド。これが動かないの」


 麗奈は拳銃の上下分割された部品を左右に動かそうとするが動かない。


 「まぁ、とりあえず、手動で動かす事の出来るモデルもあるけど、あくまでもそれはギミックで機能じゃない。ここが動かない事で内部機構が単純化されるので、安い。故障が少ない。機能が安定している。反動が無いから命中性能が高い。とかあるわね」


 「良い事尽くめじゃないですか!」


 御厨が喜色の声を上げる。だが、麗奈はそんな彼女に冷たい視線を向ける。


 「確かに・・・敢えて、これを選ぶ人も居るぐらいけど・・・はっきり言えば、今の主流じゃないわね」


 「そうなんですか?」


 智佐もそれだけメリットがあれば、選ぶ人が多くてもと思った。


 「これが実銃の形をしていなければ・・・それでもよかったかもしれない。だが、残念ながら、これは火薬を使った実銃を模った玩具なのよ。つまり、実銃通りに動く事が最大の楽しみだとも言えるわけ。このスライドが動かないってのは、すでにブローバックが出来るモデルがあるのに選ぶってのは・・・邪道」


 麗奈のあまりに冷酷な言葉が智佐に突き刺さる。


 「だ、ダメなんですか?」


 智佐が恐る恐る麗奈に尋ねる。


 「ダメとは言わないけど・・・なんかねぇ。まぁ、固定スライドでしか無いモデルってのも多数あるから、全否定はしないわよ。それに形だけ腰に提げているって人も居るし・・・サウンドサプレッサーを装着した時に最も効果があるとも言われるし」


 麗奈はそう言うも、あまりお勧めしている雰囲気では無かった。それから彼女は徐に別の拳銃を手に取った。


 「次はガスブローバックガンよ。通称、ガスブロ。こっちもガスを使うけど、スライドがちゃんと後退するの」


 そこに出てきたのは急に高級感が高まったような銃だった。


 「へぇ・・・凄いリアルな感じですね。金属かと思った」


 御厨は触ってみて、それがプラスチックだと理解する。


 「そうよ。表面処理や塗装などで限りなくリアルに近い質感などがあるわ。最近のモデルの多くは、ほぼ、モデルガン並のルックスで所有欲をしっかりと満たしてくれる物ばかりね」


 麗奈は満足したように呟く。


 「あとは最近の流行りの電動ブローバックガン。これはそっちの長物・・・つまりライフルとかと同じ、電気で弾を飛ばすのよ。しかもちゃんとブローバックもする。利点としてはエアコキと同じ方式なので、気温に左右されない。バッテリーさえ、しっかりと充電されていれば、最も安定した性能って事ね」


 麗奈の説明に智佐は目を輝かせる。


 「サイコーじゃないですか」


 「まぁ、そう思う人も多いわね。フルオート機能があったりするしね・・・まぁ、私からすれば、ブローバックの動き、この割りばしマガジンとか・・・玩具としか言いようがないけど」


 麗奈はこれにも不満を示す。電動ハンドガンは麗奈の好みでは無いと智佐は感じ取る。


 「あとは好みの問題だけど、リボルバーね」


 「リボルバー?」


 智佐と御厨は不思議そうに麗奈が手にした拳銃を眺める。


 「変わった形をしている・・・」


 そこに置かれた銃はこれまで見せてくれた銃と違って、ほっそりとした形で真ん中に大きな円柱形が収まっている。


 「リボルバーを知らないのね・・・。簡単に言えば、警察官が使っている拳銃よ。説明としてはリボルバーとは回転式の弾倉の事を示すの。この円柱形の部分ね。ここに弾丸が収められ、回転する事で弾を次々と送るのよ」


 「へぇー」


 智佐達は驚いたように見ている。


 「リボルバーはオートよりも古くに開発された方式なんだけど、利点はオートが反動やガスなどの力を利用して、弾送りをするのに対して、機械的に弾を送っているから、確実性が高いって事ね。それと銃身が動かないから、命中精度高いとか、部品に掛かる衝撃が小さいから、大きさに対して、強力な弾薬を使える設計が可能だとかね。このようにオートに比べても細身に出来るから、コンシールドにも向いているって事から、未だに根強い人気があって、毎年のように新作が出ているわ」


 麗奈の説明に智佐達は少し難しい顔をしている。


 「代表!それじゃ、難しいみたいですよ」


 郁子が助け舟を出すように口を挟む。


 「難しい・・・困ったわね。まぁ、良いわ。簡単に言えば、こういう形の銃って事よ。構造上、弾丸は5発から6発程度しか入らないわ。リアルなモデルだと、カートリッジ方式になっていて、そのままだし。東京マルイやタナカだと24発ぐらいは入るけど、弾が切れた際の再装填が面倒な事と、リアリティが無いわね」


 「リアリティですか?」


 御厨がそう声を掛ける。


 「そうよ。確かに遊びの道具だけど、リアルな外観をしている以上、本物と同じように使いたいって人も多いのよ」


 麗奈は当然と言わんばかりに答える。


 「じゃあ・・・リボルバーを使うのは不利なんですか?」


 御厨が素直に尋ねる。


 「まぁ、正直に言えば、そうなるわね。実銃の世界なら、確実性とか強力な弾丸、コンシールド性とかって言えるけど、エアガンの世界ではどれもあまり意味が無いから。あくまでも個人の趣味の範疇でしか無いわ。だけど、コダワリはある意味じゃ、その人の強みでもあるから、リボルバー使いは強い可能性が高いって事もあるわよ」


 麗奈は感心したように言う。


 「でも握った感じはこっちの方が握り易いですね」


 智佐はリボルバーを握りながら言う。


 「そうね。オートはグリップの中に弾倉が入る物が殆どだから、どうしても大きくなってしまうのよ。リボルバーは弾倉とグリップが別だから、細身だし、グリップで手の大きさに合わせる事が出来るのは確かに特徴ね。女性は手が小さいからそもそも、中型オート以下の銃を選ぶって手もあるわね」


 麗奈はそう言うと店員に何かを頼んだ。店員はすぐに3丁の拳銃を取り出す。


 KSC シグザウエル P230JP


 ウェスタンアームズ ベレッタ M84F


 マルゼン ワルサー PPK/S


 「これはガスブロの中でも比較的小さい部類のオートね。多分、小さい手でも掴み易いよ」


 麗奈が言うようにそれらの銃は他のオート拳銃に比べて一回り以上小さい感じだった。 


 「本当ですね。片手にしっかり持てますよ」


 智佐も御厨もその小ささに驚きながら触り比べている。


 「あとは大きいサイズだけど、持ちやすいのはタナカのP220シリーズやルガーP08、マルシンのP210、モーゼルM712とかね。KSCのマカロフPMやCZ75シリーズなんかも持ちやすいわよ」


 麗奈の説明のほとんどが解らない智佐達だったが、幾つか並べられた中で智佐は一丁の銃に興味を持った。


 「これは・・・」


 それは東京マルイが出しているベレッタPX4であった。


 寸足らずみたいな短い全長に太い胴体。そのデザインは実にコミカルでもあった。


 「なんか、面白い」


 手にした智佐は驚く、太いと思ったグリップは思いの外、手に馴染む感じがする。


 「PX4ね。それはロータリーバレルロッキン方式という少し変わった方式なのよ。バレル・・・要は銃身が回転するの」


 「銃身が回転する?」


 麗奈の説明によく、理解が出来ない顔をした智佐。


 「まぁ、スライドを引かないと解らないけど、これを説明するにはブローバックの説明が必要なのよね」


 「ブローバック?」


 ますます理解不能に陥る智佐。麗奈はそれを見ながら、説明を始める。


 「ブローバックはさっき教えた通り、このスライドが後退する事なんだけど、実銃の場合、反動やガス圧でこれが後退する時に空薬莢を排出して、新しい弾丸を装填するの。それで止まるのがセミオートで引き金を引いている間、そのサイクルを繰り返す機構なのがフルオートってなるわけ」


 「はぁ・・・」


 ポカンとする智佐達を無視して、麗奈の説明が続く。


 「ブローバックが起きると、薬室内に装填された薬莢が排出されるわけだけど、そうなると密閉状態だった薬室は解放されるわけね。でも銃ってのは火薬が発火して、発生したガス圧で弾丸を押し出すわけだから、ガスが充満する薬室があまり早く解放されると、弾丸を押す力が失われて、威力が低下しちゃうわけよね。その為、発砲とブローバックのタイミングは少しズレるべきなのよ」


 「それは撃った瞬間はブローバックが起きちゃいけないって事ですよね?」


 御厨がすかさず、質問をする。


 「その通り、だけど、ブローバックの仕組みはさっき教えた通り、反動かガス圧を利用するわけ。すると利用すべき力が失われた後では、ブローバックが出来ないという事になるの。だから、基本的には相互の力を最大限、利用が出来るようにする機構が必要となる。そこで考えられたのが機構を大別すると二種類になるの」


 智佐はふんふんと聞いている。麗奈はマルゼンのワルサーPPK/Sを手に取る。


 「一つはストレートブローバック。これは弾丸の発射時に発生する反動や圧力をスプリングの力や遊底の質量で抑え込む方法よ。とても単純な方法ではあるけど、それ故に部品点数が少なく、軽量に出来るわ。ただし、この方法だと、弾丸発射時に発生する反動、圧力を相殺する程の重量を遊底に求められる。だから、大口径の弾丸だと、銃自体が相当の重量、大きさになってしまう。利点としては銃身が動かない。軽量、頑丈。欠点は小口径の小型拳銃、または機関銃程度にしか用いられない事ぐらい」


 麗奈は東京マルイのP226を手に取る。


 「もう一つはショートリコイル。これは発砲時のみ銃身と遊底が固定され、その後、ブローバック時にはそれぞれが動き、短い動作距離で全ての行程を終える。遊底に重量を必要とせずに仕組みによって、反動や圧力を利用して作動する為に強い圧力の弾丸でもそれほどの大きさを必要としないのよ。多く採用されている方式としてはティルトバレル方式だけど、これだと銃身が上下するの。無論、それは発砲後なので、弾道に影響はしないとされるけど、何とも言えないわね」


 麗奈はKSCのクーガーFを手に取る。


 「そこで今回のPX4だけど、これはロータリーバレルロッキング方式を使っているわ。ティルトバレルと同じで銃身の前後動作が必要とされるのだけど、ティルトロッキングバレルが上下の動きを必要とするのに対し、銃身を回す事で同様の作動としている。これはそれまでベレッタがプロップアップ式と呼ばれるロッキング方式を採用していたけど、これは構造上、高い圧力の弾丸は使えない事から、新たにベレッタが採用したのがこの方式だったわけね。因みにベレッタが最初に採用した拳銃はM8000クーガーよ。ガスブロならKSCとウェスタンアームズから出ているわ」


 麗奈はKSCのクーガーを手にする。


 「銃身が上下しないって事は命中精度が落ちる可能性が低くなったとも言える。まぁ、それが実証された話は聞かないけどね。ティルトバレルの欠点を補う上ではローラーロッキング方式とかあるけど、どれも一長一短があって、結局、多く採用されるのはティルトバレルロッキング方式だと言う点においても、果たして、他の方式が良いのかどうかは不明ね。因みにロータリーバレルロッキング方式の欠点はバレルを回転させるラグが上下に必要となる為に、銃自体が太くなるって事ね。それと複雑な動きをするから、故障の可能性の問題とかぐらいかな」


智佐はチンプンカンプンな感じだが、手にしたPx4はとても手に馴染んでいた。


 「はぁ・・・でも・・・雰囲気は良いですよ」


 「良い銃よ。安いし。買う?」


 麗奈は軽く言う。それは意図した発言だったのか解らないが、不意に智佐はそれを手放せなくなっていた。


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