第3話 メンバー紹介!
なし崩し的にサークルメンバーに加えられた智佐であった。
「小鳥遊智佐です。社会福祉学部社会福祉学科一年生です」
智佐はサークルメンバー全員の前でペコリと頭を下げる。それを見て、麗奈がおずおずと立ち上がる。
「私はさっき、説明したけど、3年生の仁科麗奈。気軽に麗ちゃんって呼んでね」
お嬢様みたいな彼女は茶目っ気たっぷりに自己紹介をする。
「誰も呼んでないけどな」
男子学生が冗談っぽくそう言う。多分、それは本当なのだろうと智佐は思った。
「俺は今井雄二。同じく3年生だ。よろしく」
今さっき、麗奈を茶化した男子学生だ。社会福祉学部に通うには似つかわしくない無い感じの筋肉質なスポーツマンっぽい人だ。まぁ、高校の時の想像と違って、福祉系大学だけど、実際にはチャラそうな人やヤンキーっぽい人が多く混じっているのは入学式の時に思った事と智佐は心の声で呟く。
「私は2年生のトールマン久美子。最初に言っておくけど、アメリカ人と日本人のハーフだからね」
金髪でギャルっぽいなと思った人は金髪が地毛の人だった。肌の褐色も焼いたわけじゃなく、地肌らしく、何もしなくてもギャルに間違われそうな人だった。
「それで、私の番ね。オッス。内田郁子です。趣味はミリタリー。特に現用ドイツ連邦軍です!それ以外だとナチスドイツもいけますっ!」
迷彩服のジャケットを羽織るようにしている眼鏡女学生が敬礼をしながら挨拶をしてくれた。
「その子は常に迷彩柄を着込んでいるような子だから・・・近くに居ると間違われるわよ」
「何をですかっ?何と間違われるって言うんですか?」
久美子に茶化されて、郁子が怒る。確かに、迷彩柄はこの大学では目立つ。いや、他の大学でも目立つのかな?と智佐は思った。
「最後に今更だけど、僕は2年生の周防美紀。何か解らない事があったら、何でも聞いてくれ」
「この大学で最も男の子らしい子・・・」
麗奈がそう続けると美紀は流し目で麗奈を睨む。
「ほほほ。その流し目・・・ますます私のMに突き刺さるわ」
「まぁ・・・少し変態が多いけど、安心して、悪い人じゃないから」
美紀は嘆息しながら、智佐にそう告げる。
「それよりも折角、新しいメンバーが思いもがけずに入ったから、お祝いしようぜ」
今井がそう声を掛けると全員のテンションが一気に上がる。
「よーし!まずは智佐ポンの装備を買いに行くぞ!」「いや、ゲームだろう!まずはゲームだよ」と口々に何かを言い出す。それを遮るように麗奈が声高に叫んだ。
「シューティングバーで歓迎会だよ!」
次々に発せられる言葉に智佐はただ、見ているしかなかった。
「ごめんー。うちのサークル、なかなか新人が入って来る事が無いから。久しぶりの新人に騒いじゃって・・・」
美紀があまり困ってなさそうな顔で智佐に両手を合わせて謝る。
「はぁ」
智佐はただ、目の前で起きている出来事を見ているしか無かった。
「はいはい。まずはちゃんと智佐ぽんに私たちの事を知ってもらう事が大切だと思うのです!」
眼鏡を鼻当てを人差し指でグイッと上げながら郁子が叫ぶ。それに賛同するような「おー」という歓声が上がった。
「あの・・・智佐ぽんって・・・」
智佐は戸惑いながら尋ねる。
「無論、あなたの事よ!」
勝手にあだ名が付けられてしまった。智佐は軽い眩暈すら感じる。
「智佐ぽん!私の趣味はミリタリーと言ったけど、これを見なさい!」
郁子が迷彩柄のジャケットを見せる。
「これは本物の西ドイツ軍のサープライス物よ」
「はぁ」
智佐のあまり理解していません雰囲気に一瞬、場が凍る。
「おいおい・・・この特徴的なスキージャケットを見ても解らないかしら。これは精強と名高いバイエルン旅団の物なのよ!」
なんだか知らないがやけにあったかそうなジャケットだなと思うしかない智佐だった。それを見越したのか麗奈が呆れ顔で智佐に言う。
「あぁ・・・まぁ、その人はそんな感じの人よ。事ある事にミリタリーグッズを見せてくるから生暖かい目で見てあげて」
「そんなぁああああ」
麗奈の言葉に郁子が崩れ落ちる。
「沼に引き摺り込もうとして自爆したか・・・最初から濃すぎるんだよ。そもそもドイツが分かれていたことさえ知らない年齢の女の子相手に何を言っているんだか」
今井が軽く笑いながら崩れ落ちた郁子の襟首を掴んで引っ張りながらソファに投げる。幾ら軽い女の子だからと言って、片手で持ち上げるとなれば、相当の筋肉だと智佐は思った。
「まぁ、サバゲと言っても所詮は遊びだから、安心してくれ。要はスポーツだから。こんな風に身体を鍛え上げれば、十分だよ」
今井はジャケットを脱ぎ、タンクトップの上半身から、二の腕の筋肉コブを見せるようなポージングを取る。
「勝手に脱ぐなといつも言っているでしょ!」
それを背後から麗奈が蹴り飛ばした。
「ごめんねー。こいつ、どこでも服を脱いでは筋肉自慢したがるの。サバゲはスポーツだけど、こんな筋肉は要らないからねー」
麗奈は倒れた今井を何度も踏みながら智佐に謝る。智佐は踏まれている今井が可哀そうに思えたが、見ると、何か・・・喜んでいるように見えた。
「はぁ・・・それで・・・サバゲって・・・銃で的を撃つだけなんですか?」
智佐は何だかよく分からないサバゲについて、麗奈に尋ねた。
「違うわ。そいう競技は別にあるけど、サバゲはこれで撃ち合いをするのよ」
「撃ち合い?」
智佐は銃を改めて見た。さっきの感じからするとかなりの勢いで弾が飛んでいたし、弾も結構堅い感じがする。
「これって・・・結構痛くありませんか?」
「まぁ・・・多少わね」
麗奈はそう答えると手にしたUSPコンパクト自動拳銃を踏んでいる今井に向ける。
バシュバシュバシュ
剥き出しの上半身にBB弾が撃ち込まれる。その様子に智佐は驚いた。
「い、いきなり何を・・・」
「ほら。赤くなるけど、別に傷にはならないでしょ。痛みも我慢が出来ない程じゃないし」
麗奈が言う通り、今井の肌には微かに赤みが残っただけだった。
「そ、そんなに痛くないんですか?」
「こいつじゃ・・・解りにくいわね」
今井は撃たれて喜んでいるように見える。
「まぁ、ちゃんとルールを守って、しっかりとした服装で挑めば、ケガはしないわ。サバゲってのはそういう遊びなのよ」
麗奈はそう言いながら笑っていた。その光景を見て、場違いな所に来てしまったのではと後悔する智佐。
「先輩達、あまり初心者をイジメないでください。まずはしっかりとサバゲに対して、良いイメージを持って貰う方が良いと思うんですけど」
美紀が目の前の惨状を目の当たりにして至極真っ当な事を言う。智佐は思った。この中で一番、まともなのはやはりこの人か、あと、ギャルっぽいハーフの人じゃないかと。
「スーの言う通りでぇす!サバゲだからって、ミリタリーゴリゴリじゃダメでぇすよ。今はこんな風にプリティーなのもあるんですから」
そんな事を言って、久美子がピンク色のP90PDWを取り出す。それは曲線が目に留まる一見すると銃には見えない形の物だった。
「なんか可愛らしい」
智佐の好意的な反応に久美子もにっこり笑う。
「でしょー。これは東京マルイの電動ガンでして、昔は別のメーカーからも出ていたそうです。それをアニメに出てきた感じに塗り直してみました」
「邪道よ。そんな目立つ銃!」
郁子が怒鳴る。
「邪道もクソも無いです。アニメに出てきたモデルはなり切るにはピッタリなんです!」
郁子の怒りを他所に久美子はピンク色のP90を振るう。
「その子はアニメ好きなのよ。だから、アニメとタイアップしたモデルとか集めたりするの。普通はコレクションアイテムになって腐るんだけど、それを使うのよねぇ。アニメのコスプレしながら・・・勿体ない」
麗奈は笑いながらはしゃぐ久美子を見ながら呟く。
智佐は本当にこのまま、ここに居て良いのか解らず、久美を見上げる。頭一個分、背の高い久美は見下ろしながらただ、ニコリと笑うだけだった。
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