一話 二人は親友①

 僕の親友である|陽堂明美《 ようどうあけみは、陰キャな僕とは違って陽キャではあるが、僕達は、アニメとゲーム好きだという共通点があるお陰で、性格は違うけど話はとても合う。


 ── 中学時代──


 春もうららな三月下旬の春休み期間、僕の家族はこのT町に引越してきた。


 あれは僕が中学に入学する直前の事だった。大好きな父さんに、会社から転勤指令が出たのである。


「この家の長男はお前しかいないんだからな。父さんの代わりに母さんのこと頼んだぞ! 男なんだからめそめそしていたら駄目だからな」


 入学直前、転勤が急に決まってしまった事にショックを受けて泣いていた僕に父さんがそう声を掛けてくれた。


「うん、父さんわかったよ! 泣かないで頑張るよ。母さんの事も僕に任せて」


 だから、父さんの期待に応えるためそう答えたものの、僕はショックでやっぱり泣いていた……そう、父さんには内緒で、隠れて泣いていた。


 僕が父さんの事が大好きなのは、父さんと僕は友達みたくとても仲良しだったからである。


 コミュ障のせいで僕には友達がいなかったけど、父さんが僕とゲームをしたり、アニメを一緒に見たり、沢山遊んでくれた。お陰で、気付けば僕は父さんの影響でゲーム好きだし、アニメ好きになっていたのだけど……。


 だから、僕は友達みたいな存在である父さんと離れて暮らす事が心の底から悲しかった! 離れて暮らす事を想像したら精神的ダメージが大きくて、男のくせに、これからどうして行けば良いのだろうかと、僕は一人途方に暮れていた。


 父さんの転勤は三年間と決まっていたので、社会人になる迄会えなくなるとは言われていなかったけど、僕にとっては、それくらい長く会えなくなってしまうという感覚に陥っていたのだ。


 気付けば日々が過ぎ去るにつれて父さんの引越しの準備は進み、僕の中学入学式当日、父さんは転勤先に引越していってしまった。


 本当なら、僕は大好きな父さんのことを玄関先で見送りたかった。


 でも、中学の入学式と重なっていた僕は、僕の方が先に家を出なくては行けなかったせいで、大好きな父さんに「行ってらっしゃい」と言うことが出来なかったのである。


「行ってらっしゃい。入学おめでとう!」


「うん、父さんありがとう。行ってきます」


 先に家を出なくては行けなかった僕は、父さんに見送られながら学校へと向かった。本当なら、僕が見送られるんじゃなく、僕が父さんを見送りたかったのに……。


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