七話 彼女の様子に違和感を感じる

 うっかり舞い上がって買い物を済ませた女子二人だったが、まだ旅行に行けることが確定した訳では無いし、行き先が決まった訳では無い。


(帰ったら両親説得しないとだな)


 ☆


「馬鹿。そんなこと絶対許せるわけないだろ!」


 ……まぁ、そうなんだけど……。


 そう言われることくらい覚悟していた。でも、もう二人はもう水着を購入してしまっている。


(購入してるのは内緒だけど……)


 行く気満々でいる二人の為にも、何としてもここは許しを得なくてはいけない。


「そんなに簡単に許してもらえるとでも思っていたのか? この子達は預かってるんだから、全部の責任は俺なんだぞ」


 ……そんなこと僕だって分かってる。


 それでも当たり前のことを言われてるのに納得がいかない。絶対にしないといけないことなのかと言われたら、違うような気もするけど……。


 父さんはそれから黙り込んでしまった。


 今回は未だ高校一年生ということで、諦めるしかないのかもしれない。でも……。


「父さんに全責任があるのは分かってる」


 黙り込んでしまった父さんに話しかける。


「だけど、息子である僕のことを少しくらい信用してくれても良いんじゃないの? 過ちなんか起こさないって約束する」


「ううん……」


 父さんは腕組みをしながら悩む! というか、悩んでくれていた。


 明美と桃花がお風呂に入っている間に話をしているけど、許可を得られるのだろうか?


 キッチンカウンターで話し込んでいるところへ、夕飯の片付けが終わった母さんがやってきて、カウンターキッチンのテーブル用の椅子に腰掛ける。


「今の話なんだけどね、別に出掛けて来ても良いんじゃないかと思うの」


 母さんがとんでもないことをいうので、父さんは怪訝そうになる。


「大丈夫よ、心配要らないわ」


 母さんは父さんに向かってそう話した。


「親戚の義人よしとさんところに行かせて貰えば良いじゃない!」


 義兄は喫茶店を営んでおり、僕がコーヒーの入れ方を教わった人でもある。


 義兄は結婚して奥さんに子供もいて、この前教えて貰いに行った時、奥さんの両親が旅館を営んでいるので今度遊びに来たらどうかと誘ってもらっていたのだ。


 海の近くにある旅館は夏になると賑わうのだという。旅館の近くにある海岸では毎年花火大会も行われ出店も出ると聞いているから、これはもう僕達にとってラッキーでしかない。


「母さん提案してくれてありがとう。確か旅館の近くの海岸で毎年花火大会が開催されるんだよね? 父さん、可能なら是非そこに行きたいです」


 僕は頭を下げてお願いをする。


「んん……そうだなぁ!」


 また父さんは悩み出し、それからどうしたら良いのか決められず黙り込んだ。


「とりあえず今から電話してみましょうかね。大丈夫だったらそこにお泊まり、無理だったら今回は諦めなさい」


 そう言って母さんが義人さんに電話を入れれる。


『もしもし、今晩は義人さん、ちょっとお願いがあるんだけど……』


 暫く母さんの電話は続いた。


『そうなの、残念だわ!』


 残念と言う言葉が聞こえてきて、今回は泊まりに行くことが出来ないのだと分かる。


 ……仕方ないことだよな!


 そう思っていたけど、また暫くすると母さんの弾んだ声が聞こえてきた。


『あらあら、大丈夫なのね。申し訳ないわね! どうもありがとう。根暗達に伝えるわね。それじゃおやすみなさい』


 どういう状況何だろうか? 僕は理解出来なかった。


「母さん……どうだったの?」


「うん、旅館埋まってるらしいんだけど、一部屋空いてる部屋があるらしく、そこなら使っても良いそうよ。皆が旅館のお手伝いしてくれるなら支払いも要らないって言ってたわ! お手伝いどうする?」


「絶対する! 手伝うことにするよ」


 僕は明美と桃花、それに勇の意見を気かづにそう答える。


「そうか、なら行ってきても良いぞ」


 ずっと黙り込んでいた父さんが、高校生だけで行く旅行に許可をくれた。


「知ってるところだし、手伝いもするっていうからな、それなら父さんからも根暗に小遣いやろう」


「ありがとう、父さん」


 でも、心配だから御守りも渡す


 そう言って手渡されたの箱……。


「良いからそいつは大事に持っとけ、使わない、嫌々まだしないことを祈ってるけどな……」


 いきなり手渡されてドギマギしている僕。


「ん、何貰ったの?」


 母さんが聞いてきた。


「ほれ、さっさと部屋に持ってって閉まっとけ」


 僕は父さんに急かされてドタバタと階段を駆け上がりしまいに行くと、運悪くばったり階段の上で明美に遭遇する。


「あっ、今なんか隠したよね? 根暗くん何手に持ってるの?」


「ええっと、これは……」


 言えない、いくらなんでも手に持ってるものを見せることなんかできやしない。


「べ、別になんでもないから……」


 ジロジロ見てくる彼女にそう伝えたけど、視線を逸らすことなくずっと此方をみつつづけている。


 僕は絶対教えるわけにいかないと思い、駆け足で部屋に行くとバックの奥にそっと隠した。


 隠し終えた僕が安堵しているところへ、バタバタと彼女が部屋に入って来るなり封筒を手渡される。


「はい、落し物。さっき隠したのこれでしょ」


「あ、うん……そ、そうだよ」


 僕は慌てていたせいか、父さんから貰った小遣いの入った封筒をうっかり落としていたらしい。


「なんで隠したりしてたのよ! 中身お金じゃないの、私に隠す必要ないじゃん。それとも怪しいお金なの?」


「その……別に怪しくはないです。へへへ。届けてくれてありがとう」


 落としたのがこっちで助かった。もし隠した方を落としていたら何を言われていたことだろう。想像しただけで身震いしてしまった。


「そうなんだ!」


「ごめん、さっき父さんに確認したら僕達の旅行を認めてくれたんだ。それで、その封筒のお金なんだけど、そん時に小遣いだって渡されたお金なんだよ」


「わーい、旅行行けるのね! 凄い楽しみ。根暗ありがとう」


 家の中なのに彼女はピョンピョンしながら僕に抱きついてくるなり、口に軽くキスされた。


 まぁ、隠した方のことは絶対言えないけど、小遣いのことなら伝えても問題ないだろう。


 ところが、旅行に行くことを承諾を得られたのは確かだが、飛び跳ねて喜んでいる彼女を見ていたら、旅館の手伝いをする約束をしていることを伝えるのをすっかり忘れてしまった。


 明美はピョンピョンしたまま一階に降りて桃花に伝えに行くと、桃花も凄く喜び、二人してピョンピョンし始める。


 二階の部屋にいるというのに、二人の甲高い笑い声と、ジャンプする音で分かってしまった。


(楽しみができて良かったな)


 僕も楽しみになってきた。父さんから貰ったものは必要ないと思うけど、一応持って行っておこう。


 ──そう、念の為。


 その夜、二人は僕の両隣に寝ると昨日より腕に絡まりながら眠りについた。


「根暗しゅきー」


(えっ……)


 朝方、隣で寝てる桃花の声で目が覚める。


 振り向いて顔を見ると、隣に寝ている桃花は起きていないらしい、僕は目を閉じてすやすや気持ちよさそうに寝ている桃花の頬を、人差し指でツンツンしてみる。


「……」


 ──目を覚まさない。


(驚かすなよ! マジかと思ったじゃん)


 と思っていると、桃花の口がチュウの口になっているのに気づいてしまった。


(んっ……!?)


 夢の中でキスでもしてるんだろうか、目を覚ますことなく少しすると行為がし終えたのか、口元が元に戻った。


(うはぁっ、寝てるのか! 危ねー)


 僕は吃驚して口が乾いてしまった。


 驚きすぎてあんぐり口が開いたままになっていたのだろう。


 リビングに降りていき、冷蔵庫から牛乳パックを取り出して飲んでいると、後ろから声をかけられた。


「根暗くん!?」


「ひゃーっ」


「きゃっ! な、何よ、驚かさないでよ」


 振り向くと後ろにいたのは明美である。つい叫んでしまったのは、ちっとも足音せず全然気付かなかったからだ。


「あのなぁ、驚いたのはこっちもだからな!」


「えへへ、ごめんね」


 そう言って抱きついてきたから僕はデレる。


(可愛いから全然許せるな)


 その後、なんだか抱きついてきた彼女から柔らかい感触が伝わり、僕はデレたまま胸元に視線を向けると、明美のパジャマのファスナーが少し下がっていて何も付けていないことが判明し、興奮して心臓の音がバクハグし始めるのがわかった。


(ぐはぁっ! やばいなこれは……)


「ねぇ、何か根暗くんの心臓ドキドキしてない?」


 彼女にバレてしまった! やはりこんなに密接しているんだから無理もない。


「そ、そうかな……なら、さっき驚いたからだろう」


「そっかぁ」


 明美はすんなりと返事をする。まさか明美の胸に興奮したとは言えない。


 気付かなくて良かったと思いながら、この感触が気持ちよくて離れられないでいると、明美が自分の胸元に手を持ってきてファスナーを更に少し下げてきた。


「えへへ……特別大サービスです」


「わわわ、見えちゃうから……風邪引くよ!」


「私の見たくないの?」


「……そりゃ見たいけど」


 何より、明美のその突然過ぎる行動に僕の頭が追いつかないというか、襲ってしまいそうになるのを堪えるのに必至だった。


「ねぇ、さっきなんだけど、根暗くんその、えっと……」


「何だよ! 早く言えって」


 明美は僕から離れると、今度はモジモジしながら聞いてきた。


「うん、あのね、さっき布団で寝てた時桃花に何かしてたじゃん、それってもしかしてだけど……キ……スじゃないよね?」


 僕が目を覚ました時、隣で明美も目を覚ましていたと言うわけか。


 質問をしながらビクビク肩を震わせている。不安で仕方がないのだろう。


「そんなことしてないよ!」


「本当に? 本当にしてないの?」


「うん、本当にしてない。信じて!」


「分かった信じるね。ってなるわけないでしょ……根暗くんさっき手が動いてたの知ってるんだからね」


(……ふぇっ)


 まさか僕のしていたことを全部知ってるというのか。


「根暗くん、今なら怒らないから正直に話して」


「ごめん、桃花の頬っぺたツンツンしたんだ」


「知ってるよ」


「えっ」


 明美は桃花の「しゅきー」と言ったくだりから全部知っていた。


「根暗くん酷い!」


「でも、あん時は桃花が寝てるか気になったから……」


「それでも酷い! 許せない」


 ポカポカと僕のことを叩いてきた。


「辞めろよ! 痛いじゃないか、それに怒らないって言っただろ」


「そんなの忘れたー」


 まだポカポカと叩いてくる明美の頬に、僕はツンツンしてやる。


「もう……えへへ」


 明美はツンツンされた後、顔を赤らめ、赤面させながらポカポカと叩く行為を辞めてくれた。


「明美、そんなんで嫉妬しないでくれよ」


「無理よ! 根暗くんのこと大好きすぎるんだもん。だからすぐ嫉妬しちゃうの」


(全く、この程度で嫉妬するって可愛いな!)


 僕は明美の頭をポンポンして撫でてやると、また抱きついてきた。


 こんなに僕のことを好きでいてくれてありがたい限りだ。もし、元の明美に戻ったとしてもずっと好きでいてもらいたいなと思いながら、よしよしよしし続けた。


「もう少し一緒に寝るか?」


 ふぁーっと欠伸をしながら僕が明美に聞くと、うんと頷いたのでまた二階の部屋に行き、ベッドの布団の中に潜り込んだ。


「おやすみ根暗くん! しゅきー」


 腕に絡みながら桃花と同じように言うと、僕の頬にキスをしてから先に眠りにつく明美。


 またドキドキさせられせしまった僕は、心臓がドキドキし始め、自分の胸の鼓動の音で寝れそうにない。


 僕は隣で寝ている明美の可愛い寝姿を見ながら、この恋模様を楽しんでいる。


 朝の起床時間になるのはあっという間だった。僕は結局眠れなくなってしまい、ベッドで横になったままスマホでゲームをプレイしていた。学校に行ったら眠くなってしまうのかもしれない。


「おはよう! 明美、桃花もう朝だぞ」


 未だ眠そうに目を擦りながら二人は目を覚ますと、二人抱きついてきた。


「ちょっと桃花はしないでよ!」


 明美がプンプンしているのに桃花はお構い無しである。


「てへへ、別に減るもんじゃないしこれくらいいいじゃない! 明美が彼女なんだからもっと堂々としてれば」


「べー」


(子供の喧嘩かよ!)


 アカンベーしてる明美の姿が可愛くて仕方ない。


「ほら、さっさと学校行くぞ! 準備急げよ」


 女の子は準備にやらた時間がかかる。急げと言っていても遅くなるけど、言わないよりましだろう。


「母さんいってきまーす」


「根暗行ってらっしゃい! 明美と桃花も気をつけてね。」


「はい、行ってきます」


「桃花もいってきまーす」


 三人で自転車で学校に行くと、やっぱり勇は先に到着していた。


「お三人さんおはよう!」


 僕が女子二人と同時に教室に入ってきたことに違和感があるのだろうか、先に来ているクラス仲間が振り返ってこっちを見ている。


 それも、なんだかそれは可笑しいだろと言いたげな感じがしたが、特別気にしないことにしよう。


 クラスメイトには一切触れずに、勇の所へ向かうと、両親から旅行の承諾を得られたことを伝える。


「マジかよ。やったじゃん! 流石根暗だな」


「うん……良かったよ。でもさ、泊まるところは僕の親戚のところなんだよね」


「おう、そうなんだ! なら安心して泊まれるな。色々サンキュー」


 勇も喜んでくれているらしい。


 ところが肝心の手伝いをする約束になっているということをことを伝え忘れてしまった。


 放課後、俺は勇に伝えようとしていたけど、勇はバイト入れてると言ってさっさと帰宅していたので伝えられなかったけど仕方ない。


 ──次の日、学校は今日で終わり夏休みになる最後の一日、早くに終わった僕達は、またデパートに寄り道して、フードコートでハンビーがーにポテトにジュースのセットで昼食を取りながら、旅行の当日何時集合だとか、色々話しをした。


「水着忘れたら駄目だからね! それに日焼け止めも必要だよ」


 嬉しそうに話す桃花は海に行くのが久しぶりらしい。プールですら行ってなかったらしいのでそりゃ楽しみも数倍だろう。


「オッケー! 俺も水着買ったぜ!」


 いつの間にか勇も水着を購入していた。となると、僕も購入しなくては……。


「ほら、根暗にいいもんやるよ!」


 そう言って勇が渡してきたのは商品券三千円分だった。


「こんなの貰えないよ!」


「良いから使えよ! この間水着買いに行くって俺の母ちゃんに言ったら、商品券くれたんだけど、使いそびれたんだ。それに根暗の親戚に世話になるんだろ! だから感謝の気持ちとして受け取れよ」


「お、おう!」


 この場で貰えてラッキーだったというのだろうか。明美がニコニコして此方を見てくる。


「ねぇ、せっかく貰ったんだし、根暗も水着買ってきなよ」


 明美に言われて、買いに行くことになってしまった。


「よーし、みんなで選んであげましょ」


 桃花もなんだか嬉しそうだ。


 男なんだから、サイズさえ合えば何でもよいとおもっていたのに、あれやこれやと何回も試着刺せられてしまった。


 そして購入したのは三人が良いじゃんと言ってくれたブルーの花柄の入ってるやつだ!


 ちと恥ずかしいが、桃花の選んだのにすると明美が嫉妬してしまうし、明美の選んだのにしたら桃花が嬉しくなさそうになる。だからといって勇が選んだのにすると二人が嫌そうにするから、こうなった訳だ。


 おかけで、ワーッと盛り上がったてしまったせいか、また手伝いをすることは伝えられないまま解散する。


「良かったね! 水着かっこいいの買えて」


 桃花が真顔で僕にいってくる。その隣でにこやかに此方を見てくる明美。


 一緒に選んだんだもんね! 桃花にかっこいいと言われているけど、変な空気にはなっていないようだ。


 ☆


 こうしてこの夏、陰キャな僕は仲間と過ごす夏休みを迎えることになる。


 旅行の日まではゲーム三昧で過ごす予定だった僕だけど、家にはしっかり者の桃花と明美がいるせいで、午前中は強制的に宿題を差せられる羽目になってしまった。


 しかも、二人は勇のことも誘ってやろうという言い出し、我が家には勇も毎日のようにやってくる。


 母さんは毎日何処かへ行かず、我が家に勇が来て夜までいるのに、勉強もしてくれていることが嬉しいのか、何も文句を言ってはこない! 寧ろお昼ご飯やら、お菓子やジュースを出してくれたりする始末だ。


 その事で父さんからも何も言われることは無かった。父さんだって休みの日くらいのんびりしたかっただろうに、何時も騒がしかったのに、何も言ってこなかったのは、僕に勇という友達が出来たからなのだろうか……。


 それとも、明美と桃花が居てくれたお陰なのだろうか!? トランプをやり出したり、ゲームをしてるのが分かると何故か気づけば父さんも加わり、皆でワイワイ騒いでいたから、寧ろ父さんは楽しかったのかもしれないのだが……その事で誰一人嫌がる人がいなかったのも良かったのかもしれない。


 毎回父さんには勝てず、悔しがって、もっと上達して父さんのいる日に対戦しようと言う話になっていた。歳の離れた年代ともすぐにうちとけ仲良く慣れてしまう父を、僕だけは一人羨ましいという、尊敬の目で見ていたのは確かである。


 そんな感じで、日々があっという間に過ぎ去り、皆でやっているお陰で宿題もあと少しとなった頃、ようやく旅行前日となった。


「おはようございます! ただいまでーす」


 我が家かのように朝の挨拶をすると、玄関から入ってくるのは勇だ。


 ボストンバックを持ちやってきた。明日は旅行だからと、今日は我が家に泊まることを提案してくれたのは僕の両親である。


 楽しみでしかないから、朝早くに来たらしい。リビングで母さんと話してる声が二階まで聞こえてきて、僕達は目を覚ました。


 三人してだらしなくパジャマ姿のままリビングに行くと、勇が当たり前かのように朝飯を食べている。


「お先してマース!」


「おはよう勇! それにしても驚かすなよ! 何で朝飯まで食べてんだ?」


 僕は突っ込みを入れる。


「あらあら、いいじゃないの、そんなの気にしなくても……お腹すいたんでしょ。ちゃんと皆の分も用意してあるわよ」


 母さんは呑気だ! ただでさえ毎日のように来てお昼はタダ飯だったというのに……。

 まぁ、良いと言うのだから、此方からは何も言うことが無いわけだが。我が家の家計事情を知らないくせに、言いたくなってしまうのは何故なんだろうか?


「勇くんおはよう! えへへ」


 明美は何も気にしていない。


「勇くんおはようー! 今日何して遊ぶ?」


 桃花は朝からテンションが高い!


「おはようさん。でもお前らさっさと着替えてこいよ! だらしないぞ!」


 何だか勇の言い方が父さん見たいな言い方だ。今日はゆっくり昼ごはん食べてから来るように約束していたのに、早くに来て僕達を叱るとか少し腑に落ちないのだが……。


「うん、そうだね。明美も桃花も着替えにいこうか」


 僕は、椅子に座って先にご飯を食べようとしてる二人に声を掛け、リビングから連れ出した。


「根暗くんも先に食べたかったんじゃないの?」


 階段を歩きながら桃花が聞いてきたが、うんとは頷けない。


「仕方ないだろ! 今日は勇が居るからな。ちゃんと着替えてからにしよう」


「はーい、根暗くんの言うこと聞きまーす!」


 明美は右手をあげて返事をした後、僕の腕に絡みながら階段を歩く。


「桃花も根暗くんのこと好きなら、根暗くんの言うことはしっかり聞きなさいよ」


「うん、分かった」


 嫌々、宗教とかじゃないんだからそんな感じで納得させないで欲しいのだが、内心落ち着かなくなった。


 戻ってくると勇は食べ終わりテレビを見て一人寛いでいる。


「お前らもさっさと食べちゃいな!」


 勇が父さん見たく言ってくるが、スルーして三人で朝飯を食べ終えると、初夏の暑い日差しの中で散歩に行こうと言ってきた。


「まだ朝が早いから大丈夫だろ」


「勇だけ行ってきたら良いじゃんか?」


 僕がそういったが、何故か明美と桃花は行く気満々らしく、顔だけじゃなくて腕や足にまで日焼け止めを塗り、帽子まで被って準備万端になっている。


 時計を見ると未だ六時半だ。日差しが暑くなる前に三十分位なら散歩しても大丈夫そうな時間帯だ。


「分かった、皆が行くんなら僕も一緒に行くよ」


「あらあら、散歩行くのね! それならコンビニ迄行って飲み物とアイスでも買ってらっしゃい」


 話しを聞いていた母さんがお金を渡してきたので、僕がお金を受け取る。


「散歩コースがコンビニになっちゃうけど、良いかな?」


 皆がそれに賛成し、買い物という散歩に出掛ける。


 明美は当然のことながら僕の腕に絡んで歩き、どっからどう見てもカップルにしか見えない。


 そんな僕達の後ろを勇と桃花が歩く……。


(意外と仲良さげじゃん!)


 僕は後ろから聞こえてくる桃花と勇のの笑い声を聞き取り何だか安心する。


「二人が付き合ったら良いのにね。なーんてね! 其れは無理かな……えへへ 」


 明美はそんなことをサラッと言うが、勇が明美に振られた傷は未だ癒えてい無いだろう。


 僕達のことを応援してると言ってくれているけど、他の子に目もくれないのを僕だけは知っている。


「仲良さげだけど、どうだろうね!」


「そうよね、桃花が好きなのは根暗くんだもんね。勇くんには心を寄せる人がいるのか分からないわ」


 なるほど、告白されて断ったことがあるのに、そのことは明美の記憶からは忘失しているわけか。


「あっ、ほら、コンビニ見えてきたよ! 何時もこっちのコンビニには来ないから何か新鮮な感じがするね。えへへ」


 明美は家の近くでは無く、少し離れたところにあるコンビニ迄やってきただけなのに何だか嬉しそうだ。


 系列の違うお店なので置いてある商品も違う。嬉しそうに明美は陳列棚を眺めると、選んで手に取ったのはお菓子だ。


 そのお菓子を手に取り無邪気に子供見たく燥いでいる姿を見て、とても可愛らしく、眼福な光景に僕の顔がニヤけてしまう。


「こ、このお菓子買ってもいいかな?」


 しゃがんだままの明美に、握りしめたお菓子を上目遣いでねだられてしまった。


(ぐはぁっ、可愛すぎる)


 母さんから渡されたお金は多めにあるのだけど……。


「どうしようかな?」


「いいじゃん、これくらい」


 ムスッとして頬を膨らませ、上目遣いのまま見つめてきた。


「それぐらい買ってやれよ、根暗が彼氏なんだから優しくしてあげろ! くぅーお前が羨ましい」


「なら私のも買ってね。てへへ」


 そう言って桃花もお菓子を選び出す。


 こうして、ジュースやら溶けても良さげなカップのアイスの他に自分達のお菓子を買い家に帰ると、汗をかいてしまったので順番にシャワーを浴びる。


 僕が最後にシャワーを浴びて二階の部屋に行くと、珍しくトランプをやっていた。


「根暗もやろうよ! 勇くんが持ってきてくれたんだよ」


 明美が子供のように目を爛々にして嬉しそうに話をするから僕も加わり一緒に遊ぶ。


「そうか、勇が持ってきたトランプか」


「旅行先で一緒に遊ぼうと思って持ってきたんだけど、さっきバックの中を明美が嬉しそうに勝手に見始めて見つかっちゃったんだ」


 普段そんなことしないのに、勝手にバックの中を弄ってしまってることに違和感を感じる僕がいた。


「さっきから二回ばかりババ抜きしてるんだけど、明美ったら二連チャン負けてるのよ! 明美ってトランプが苦手なの?」


「えっ、そうなんだ、苦手じゃないはずだけどね」


 僕は負けたという明美をみつめる。明美が負けることなんて殆どないはずなんだ、それなのに不思議である。


 何だか良く分からないけど、また違和感を感じていた。


 勇がトランプを配りババ抜きを始める。何時ぶりだろうか久しくやってはいなかったので少し緊張する。


 最初からババを持っているのは自分だった。明美が僕のを取り、僕が桃花の、桃花は勇のを取る順番となり始まったものの、最初から明美が僕のババを貰ってしまった。


 気づけば桃花が呆気なく終わり、勇からババを貰った僕だったけどまたもや明美の手に渡る。


 そのうち僕は上がり、勇と明美が残されたが、また明美が負けてしまった。


「うわぁぁん!」


 明美が負けてしまった途端に泣き出した。


 そりゃ三回も負ければ泣きたくもなるだろうが、こんなことで明美は泣くような子では無い。


 それなのに今日は子供に戻ったかのようにわんわん泣いたのだ。


「ほら、元気出せよ。何時もの明美らしくないぞ! 買ってきたおやつ皆で食べよう」


 僕が言うと泣きながら頷く。


「俺、何だか悪いことしちゃったな!」


 勇が謝っていると、桃花まで謝り出してきた。


「明美ごめんね」


「うわぁぁん、ありがとう。負けちゃっただけなのに謝ってくれて。何でこんなになってるんだろう、自分でもよく分かんなくてごめんね」


 散々泣いたから無駄に体力を使ったんだろう、その後、明美はお菓子も食べず、眠いから少し寝ると言って隣のベッドがある部屋に行ってしまった。


「大丈夫なのか? 明美のやつなんか何時もと少し違うような気がするんだけど?」


「私もよ。何だか何時もと違う感じがしたのよね」


 其れは僕だけが感じていたことでは無かった。勇も明美も違和感を感じていたらしい。


「実は僕も明美が何時もと違う感じがしてるんだ! なんだか、子供に戻ってしまったかのような」


 僕は自分が明美を見ていて思ったことを口にする。コンビニの時も普段見たことも無いような表情をして、明美は無邪気に燥ぎ楽しそうだった。


 可愛すぎるのは良い事なんだけど、いきなり変わると 心配にもなる。


「分かる! 一緒にいるからよく分かるよ」


「!?」


 ええっ、やっぱそう感じるのは僕だけでは無いのか。


 桃花も子供のようになってると思います。と僕が言ったことに共感している。


「そう言われると、そうだな」


 勇も、明美の行動を思い出してか、納得してうん、うんと頷く。


 ──どうしたのかな、明美。


 とても気になるけど、中身が全部子供になってしまった訳では無い。


「とりあえず三人で明美の様子見ることにしましょう。明日は旅行ですしね」


 ──それしか今は方法がない。


 提案してくれた桃花の意見に賛成する。勇も、たまたまかもしれないし、未だよく分からないからこのまま病院に行くのでは無く様子を見ることに賛成した。


















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