五話 僕はモテモテ
──そういえば、明美が入院してからはクラスの男子から睨まれることが無くなった。明美が注意してくれた時は無くならなかったのに、それは、多分、僕が明美と一緒にいないという安心感からなのかもしれない。
──そんなこんなで明美は傍にいないけど平和な日々が過ぎていった。
彼女が学校に来ない間、七対三の割合で明美からメールが多く来ていたので、学校で会え無くても常に側にいるかのようだった。けれども僕がメールを送らな過ぎてしまうせいで、必ず一日に一回は僕の生存確認メールが届くようになる。
普通なら面倒くさいってなるんだろうけど、僕は明美が可愛すぎてそのやり取りですら幸せだった。
「根暗、そういえば明美に将来の約束したのか」
「それは未だ出来て無いかな」
「そうか、まぁ焦ることでも無いしな! 根暗無理すんなよ」
「うん、そうする」
僕は頷く。早く約束なんてしなくたって彼女は僕の傍からいなくなることは無いだろうと思えたから。
「そういえば明後日引越ししてくるんだろ! 何か手伝い必要だったら言えよな」
「わかった! そう言ってくれてありがとう」
☆
引越し当日の朝、今日は朝からなんのメールも来ないままだった。
常にメールが来ていたので、ちょっと心配になりながら、でも忙しいのだろうと思い、此方からは何も連絡はしないで明美が家に来るのを待つことにする。
──チャイムが鳴った!
今は丁度両親は用事があってちょいと出掛けている。
僕はインターホン越しで明美だと直ぐに分かり、急いでドアを開けると、恥ずかしくないのか、玄関先で抱きついてきた。
「おはよう……ふえええええん」
「!?」
抱きつくながら泣いてる彼女を、ここじゃ恥ずかしいので、抱きつかれたまま家の中に連れていく。
「……ふえええええん」
「どうしたんだよ!」
「だって……ふえええええん、寂しくて。それなのに準備終わるまで携帯没収されてたから、朝からずっとメール出来なかったんだもん」
こんなに泣き虫だったかなというくらい、彼女は僕の腕の中で泣きまくった。
それにしても泣いてる姿も可愛い! 僕はずっと見てられると思いながら、彼女の髪を撫でてあげる。
声が小さくなり、泣き止んできたかと思った瞬間、彼女の顔が近づいてきて唇を奪われてしまった。
(こんなの有りかよ! めっちゃ恥ずい……)
心臓が飛び出しそうになったと同時に、僕の頭の中が真っ白になり、 時間が止まったかのようになる。
そのまま彼女は舌を入れてきた。唾液と唾液が交わり合うのがわかり、そのまま身を委ねたまま身体が暑くなり感じでまった。
(このままじゃ駄目だ! 理性が保てない)
数分後、そっと彼女の肩を押して二人の唇を離すと、その口からはいやらしい糸を引いている。
少し舌を出したままとろけるような目をしている彼女が可愛らしくて、僕は「ごめん」と言って抱きついた。
「大好きだよ……明美」
「……ハァ……ふえええええん、私も大好き」
そんなことをしていると、後ろから親戚の
しかし、桃花は両親と喧嘩来て家出をしてきたらしく、一人でここまで来たのである。仕方がないので母さんが泊めてあげていたことをすっかり忘れていた。
「あの、おはよう。明美さんだよね。あれ、何で泣いてんの? さっきベロチュウしてたじゃん! まさか根暗くんが……無理やり襲ったの?」
(えっ、何……何で……! 桃花に見られたのか……)
「違うから大丈夫よ。ところで……」
明美は突然現れた女の子にとまどっている。
「えっと、貴方は誰かしら?」
「初めまして。私は根暗の親戚の桃花です。昨日から泊まらせて貰ってます。明美さんが来ることは根暗のお母さんから聞いてるんで知ってました」
桃菜は明美に自己紹介を始めた。
「成程、根暗くんの親戚だったのね。桃花さんのこと心配させちゃったわんね……えへへ」
「なーんだ! 大丈夫なのか……良かった 。根暗くん変態すぎるんで気をつけて下さいね」
(酷いな! 変態って……そんなんじゃなく良いところを伝えろよ)
「そんなに変態じゃないだろ!」
「だって昨日部屋にエロ本あるの見たよ」
知らぬ間に勝手に人の部屋に入り込んでいたらしい。プライベート空間に入るなんて可笑しいだろ!
「コラコラ、桃花、もう僕の部屋に勝手に入ってくんなよ……」
「ふふふっ、二人は仲良し何ですね」
二人のやり取りを見ていた明美が微笑んでいる。
「……そんなわけないんだから! 根暗のこと何か好きじゃないわよ」
そういうとスタスタと桃花は借りている二階の部屋に行ってしまっけど、それを見て明美がニマニマしている。
「桃花さんってとても可愛いわね」
「そ、そうか……明美の方が可愛いぞ!」
そういうと、明美は赤面し始めた。
「ふふふっ、根暗くんにそう言って貰えて嬉しいな」
明美は頬を赤らめ照れた表情のまま、また僕に抱きついてきた。
「襲いたいな!?」
僕の耳元で明美が囁いた。
「……えっ……?」
なんて言われたのか良く聞き取れなくて聞き返した。
「えへへ、襲いたいなって……」
本当はそれでも良かった。両親は家にいないからチャンスだと思ったから。
「うん、良い……よ……あっ、駄目駄目……ごめん」
咄嗟にこの家には桃花がいることを思い出す。嫌々違う、まだ高校生なんだから其れは駄目すぎるだろ! 理性が吹っ飛んでつい返事をしてる自分がいたが、直ぐに冷静になる。
「そっか、今は駄目だよね。桃花さんいるし……なら根暗くんのこと夜襲うからね」
「……ええっと……」
彼女は、寂しがり屋でめちゃくちゃ積極的になっているらしい。こんなにも僕を好きでいてくれて嬉しいのだけど……。
夜なら大丈夫とかそんなことでは無いのに、僕は優柔不断なせいで明美にはっきり断れなかった。
それから暫く両親は戻ってこなかったので、その間、僕は話題を変えよっと思い、珈琲豆を取り出すと、豆から挽いて珈琲を作ってあげることに。
「えっ、何これ、すっごく美味しい! 豆を挽いて珈琲作るなんて本格的だね。この豆を挽く道具も、珈琲抽出するのも本格的じゃん……」
明美は喜んでキッチンのカウンター席に腰掛けると、最初の作る工程からずっと眺め、猫舌なのに入れたての珈琲を出すと、直ぐに飲んでくれた。
「うん、これは自分の小遣いで買ったんだよ! 親戚の兄ちゃんが喫茶店のマスターしてるんだけど、そこの珈琲が凄い美味しいんだ。そういえば、明美が来る時作ってあげたこと無かったね」
明美が病院で入院中に色々勉強をしていたお陰で、美味しい珈琲を入れられたことに自己満足しながら、道具は自分で揃えたことを話す。
「えへへ……そういえばそうだね。根暗くんが本格的な珈琲作るなんて知らなかった」
「実は本格的に勉強していて、僕も美味しい珈琲を出せるお店のマスターになりたいんだよ! 実はこっそりお菓子作りとかも勉強中なんだ」
明美は僕の隣で、凄いって表情で僕の話を食い入るように聞いてくれている。
「根暗くん人気者だからね。やっぱり人と接する仕事が似合ってるよね。えへへ」
明美はすっかり忘失してしまっているけど、僕は人と接するのは苦手なままである。
こんなにも明るく話が出来るのは、明美だからであって、クラスでも勇としか話何かしていないのだから、学校に来てからどう思うだろうか? ちょっと心配になり始めていると、珈琲の匂いに誘われて桃花が自分の部屋からキッチンにやってきた。
「根暗くん私にも珈琲作ってくれる。飲みたくなっちゃった」
「よーし、桃花にも作ってあげよう!」
同じように桃花にも作ってやり、キッチンのカウンターテーブルで珈琲を出すと、コーヒーカップを手に取り嬉しそうに飲んでいる。
「そういえば、明美さんは将来根暗と結婚するって本当ですか?」
「ブーッ!」
思わず、コーヒーカップを持って飲んでいた僕の口から珈琲がこぼれ落ちる。
「早く拭かなきゃ!」
カウンターテーブルに置いてあるティッシュ箱を手に取り急いで明美が拭いてくれている。
「あははっ、根暗ウケる」
目の前にいる桃花が手を叩いて笑っていた。
「ウケるじゃないだろ……全く……謝れよ」
謝りたくないのか少し不機嫌そうに口を膨らます。
「何でよ! ぶつかったりしてないでしょ。根暗が勝手に吹き出したんじゃない!」
ぐはぁっ、確かに勝手に吹き出したのは僕だ。桃花が決して悪い訳でもない。
「そ、そうよね。桃花さんごめんなさいね」
何故か傍にいる明美が謝っている。
「それでね、桃花さんの質問になるけど、それは本当よ。私は根暗くんと将来の約束をしているの。桃花さんは嬉しくないの? それとも嬉しい? 正直に答えてくれて大丈夫よ。全部受け止めるから」
そう言われたのに桃花はずっと黙ったままだ。
(一体どっちなんだ?)
僕は、黙り込んだままの桃花を見つめて気になって仕方がない。
「んー、嬉しいような嬉しくないような……ごめんなさい。私、根暗のこと好きなの」
僕の身体に衝撃が走った。
頭のてっぺんからつま先まで稲妻でも浴びてしまったかのような衝撃が走る。
「何時もたまに会えば文句ばかり言うくせに……好きだなんて……全然知らなかった」
「そう何だ。でも、根暗くんは私のものよ! えへへ」
明美はそう言うと、僕を見てウインクしてきた。
「お、おう、そうだな! 桃花の気持ちは凄く嬉しかったけど、僕達は従姉妹だからな」
「本当に根暗は約束してたの?」
「……」
直ぐにうんと頷けなかった。本当は未だ約束なんかしていないからである。
答えないでいると、明美の口が開いた。
「ちゃんとしてるわよ! 私が耳にしてるんだもん。本当よ」
自信満々にそう言うと腕に絡まって来て、僕にしか聞こえないように、やっぱり人気者だねと耳元で囁かれる。
「ま、まぁな……」
桃花は明美の手をジロジロ見つめる。
「でもさ、根暗から渡された指輪とかつけてはいないんだね」
「仕方がないだろ、学生何だから……働いてないんだからまだ買えないよ」
成程とおもってくているのだろうか? 桃花は静かに黙り込んだ。何だか悲しそうな表情になったような気がしたかと思うと、やっぱり目を真っ赤にして涙していた。
「ごめん桃花。いきなり好きとか言われてびっくりしちゃったよ。でも、こればかりは桃花の気持ちに応えてあげられない! ごめん」
「そ、そうだよね……もう少しだけ早く伝えられてたら良かったのかな……まさか根暗に彼女居るなんて思っても見なかったからね」
「うん……桃花ごめん」
何度も謝った。
「良いよ! 気持ち伝えられただけでも十分……でも……ふ……ふぇ……ん……っ……」
明美が桃花に近寄りギュッと優しく抱きしめた。
「よしよし、大丈夫よ。桃花にも素敵な彼氏がきっと見つかるわ!」
「う、うん……ぐすん……」
ほら、鼻かみなさい。明美がティッシュ箱を差し出す。
「ちーん…… へへへ、ありがとう」
明美はそれからもずっと桃花を抱きしめていた。
「ところで桃花何で家出してきたんだ
よ?」
僕はその理由を全く知らなかったので聞いてみる。
「だって、いきなりお見合いさせるとか言い出してきたんだもん。未だ高校生なのに、お見合いだよぉ……有り得ないよね」
僕はお見合いと聞いて驚愕してしまった。一体桃花の両親は何がしたかったんだろうか? 高校生のまま結婚させたかったんだろうか?
その後、帰宅した両親が僕達のいるキッチンに来たので、珈琲を作ってあげる。
桃花は何故自分がよく分からない人とお見合いしなきゃいけないのか、具体的理由を知らずにいたので、どういうことになってるのか僕が入れた珈琲を飲んでいる両親に聞いてみることにした。
「んー、そのこと何だが、お前達がいない場所で桃花の両親と話をしてきたんだ! 話と言っても、電話でなんだけどな。お前達に聞かれたら困るんでちょっと外出していたってわけさ」
父さんが外出していた理由を先ず教えてくれた。
「本題だが、どうやらお見合いさせようとしていた理由は桃花には辛いだろうが、家の借金問題だったらしい」
父さんの言った借金問題と言う言葉を聞き、桃花がキョトンとしている。
桃花の両親は、何故このことを黙っていたのだろうか?
お見合いする相手はお金持ちの御曹司だったらしく、御曹司が桃花に一目惚れしてしまい、もし結婚することが出来るのであれば。借金の肩代わりをしてくれることになっていたと言うことも父さんが教えてくれた。
「でも、そんなお見合いはしなくて大丈夫よ。結婚はやっぱり好きな人とした方が幸せになれるからね」
母さんが桃花にそう伝えた。
「はい……でも、借金だなんて……そんなこと今初めて知ったので驚きました」
その話を聞いてる僕も明美も驚き、目を丸くする。
「それでなんだけど、桃花ちゃんのこと当分家で預かることにしたわ! 桃花ちゃんの両親からは了解を得られてるわ」
後三日後には学校もお休みに入るからね! だから、学校はお休みして、そのままお休み期間もずっとこの家で過ごしないさい。その間、桃花ちゃんのご両親には夜もお仕事してもらうことにしたわ。 そうすれば借金も減って大分楽になるはずよ。
「だから、少しの間なら泊まらせてあげてて良いかしら? 」
母さんは不安そうに僕と明美に聞いてきた。
「はい……私は大丈夫ですよ! 勿論根暗くんも大丈夫でしょ。ふふふっ」
「うん、母さん父さん大丈夫だよ」
「おお、そうか二人ともありがとうな。こんなことになってしまって申し訳ない。部屋は二階の二部屋を三人で上手く使ってくれ。それと、珈琲ご馳走様! 美味しかったぞ」
そう言うと、そろそろ引越し業者が来るはずなんだと、時間の確認をしに二階の夫婦部屋に行ってしまった。
「珈琲ありがとう。とっても美味しかったわ。それから桃花ちゃんのこと宜しくね」
僕と明美にそう言うと、母さんも父さんの所に行ってしまった。
「ふみゅ! あ、あの、根暗宜しくね。それから明美さんもこれから宜しくね……」
桃花は申し訳無さそうに頭を下げる。
「こちらこそ、桃花さん宜しくね。でも、悪いけど私と根暗は恋人同士だから、一つの部屋を私と根暗で使わせて貰うわよ」
「根暗と一緒の部屋なんですか?」
「当たり前じゃない。恋人同士なんだから当然の権利よ! それから、いきなり部屋に入ったら駄目よ」
「うぅっ……」
桃花は僕のことが好きらしく、諦められないのだろうか、上目使いで僕を見て泣きそうになっている姿が愛おしくなり、頭をポンポンと叩いてやる。
「ちょっと……」
隣で明美が僕の背中を指でツンツンツンツンとしてきた。どうやら嫉妬してるらしい。
咄嗟に、桃花の頭をポンポンしていた手を今度は明美の頭に乗せてポンポンと叩くと、明美はニコッと笑顔になった。
「……わ、私も根暗くんと一緒に寝たいな」
突然桃花がそう言ってきた。
「さ、寂しいから、私も一緒じゃ駄目?」
上目遣いでこっちを見てくる桃花が可愛くて、気づいたらうんと頷いてしまった。
「ちょっと根暗くん、彼女である私がいるのにそれって酷くない?」
おおっと、いけない! ここは断るべきところだった。それなのについうっかり頷いてしまった。その時、下を向いた僕は見てしまったんだ……桃花の太腿。
いつの間に桃花は美少女になってしまったんだろう。 ミニスカートから見える太腿が凄くいやらしくて目がいってしまっていた。
「ねえ、根暗くん……!?」
「……」
「根暗くん聞いてるの?」
「……」
「なら分かった。絶対何もしないって約束してよね。二人の仲を邪魔したら困るんだからね」
いやらしい太腿に目が釘付けになり、胸がドキドキしてきて固まってしまった僕が何も答えられずにいると、気づけば明美が了承してくれて、桃花も一緒に三人で寝ることになってしまっていた。
「良い、桃花も一緒に寝て良いけど、絶対根暗が真ん中なんだからね。そんで、何もしない約束だから」
「うん、僕は明美の彼氏だからね。何もしないって約束するよ」
こんな感じで話をしていると、キッチンの窓からトラックが来るのがわかり家のチャイムが鳴る。
「お届け物になります」
引越し業者かと思ったらベットの配送業者だった。
「二階にお願いします。根暗、業者さん連れてってやれ……」
先に玄関先で対応していた父さんに言われあんないする。
大きな箱が二階に運ばれると、今まで使っていたベットは撤収され、新しいベットが組み立てられる。どうやら組み立て作業も込になっていたらしい。
手際良く設置され、作業はあっという間に終わる。
(三人で寝れるのかな? 狭くないか?)
そう思っていたが、設置されたベットを見て一度寝てみようと明美が言い出し、僕が真ん中で左に桃花、右に明美が寝るとキングサイズとあって何とか寝れた。
彼女二人は細身だし、僕もデブでは無いから寝ることが出来たのだと思うけど、やっぱり狭くないだろうか?
「ねぇ、これ狭くないか?」
横になったまま二人に聞いてみると、二人共一斉に「大丈夫!」と声を揃えて両隣りから即答された。
「そ、そうか……」
なら大丈夫か、そう思っているとそのうち両隣りから腕に柔らかい感触が伝わってきた。
そっと頭を動かし左右を確認すると当たっているのは二人の豊乳である。
僕の息子が元気になりそうになるのを堪えながら、嫌々堪えられず緊張しているとまた家のチャイムが鳴る。
今度は引越し業者が到着したらしい。一階から母さんの「到着したわよ」と言う声が聞こえてくると、明美はベットから飛び降り階段を駆け下りる。それに続くように桃花も飛び降り一階に行ってしまった。
(ふぅー、危ないとこだった。しかしこれじゃ毎晩やばいな!)
危機感を感じながら、部屋に残された僕はほっと溜息をつくと、元気になったものが元通りになるのを暫く待ってからゆっくり一階に行った。
「根暗何してたんだ、荷物運ばれてきたの手伝ってやれよ」
父さんに肩をポンポンと叩かれた。
「わ、分かってるよ!」
「そういえば、三人で寝るんだってね……ふふふっ、根暗人気者じゃない」
母さんが話しかけてきたけど、駄目だとは言わないのか? 少し待ってみるも、そんなことは言われない。
「間違いだけは起こさないでよ! 母さん根暗のこと信じてますんで」
そう言うと、母さんは僕の返事も聞かずに荷物の手伝いをしに行ってしまった。
衣装ケースにダンボール箱が運ばれてきたのを、一階から二階に運ぶ。案外重いかと思っていたけど、どれもそこまで重くは無かったので腰を痛めずに済む。
大変かと思われた片付けの作業だったけど、服をハンガーに引っ掛けたり、本を本棚に入れたりと、しなくてはいけない作業がそれほど多く無かったので早く終わった。衣装ケースに入れて来た物が多く、殆どクローゼットの中に置くだけで良かったからでもある。
明日は桃花の荷物が届くことになってるからね。
「え? 母さん桃花の荷物って……」
僕は、まさかこの家に桃花まで引越してくるんんじゃ無いかと勘違いしながら問いかける。
「頼んで洋服と下着類送って貰えるようにお願いしといたのよ。引越しじゃないから、全部じゃないから量的には全然今日より少ない筈よ。だから学校から帰ったら手伝ってあげてくれる。届くのは明日の夕方みたいだから」
桃花は申し訳無さそうに、僕の母さんに頭を下げる。
「色々して頂いてありがとうございます」
「気にしないで、出来ることしてあげてるだけだから。困った時は助けるのは当たり前よ! 桃花ちゃんの学校の宿題も送って貰えるようにお願いしといたから安心して」
「……はい」
片付けは午前中におわり、その間に父さんが近所のコンビニで買ってきてくれたおにぎりやパンで昼食を済ませた。
「大変だから、お昼は手抜きしちゃったけど、夜は何が作るからね!」
母さんは、皆が食べてる時にそう言った。
「無理しないで下さいね。何か手伝いますよ」
明美がそう言うと桃花も「私も手伝う」と言い出した。
父さんはその光景をにこやかに眺めている。
女の子がいるというのは平和だ。
「あらそう、なら手伝って貰おうかしらね」
母さんはとても喜んでいた。
こうして、午後、父さんはリビングで映画を見始め、僕はのんびり二階の寝室で転がって一人ゲームをしてる間、三人は仲良く母さんの運転で買い物に出かける。
女の子が二人もいて、母さんはいつもより張り切ってるように見えたし、何時も以上に父さんも機嫌が良い。
そんなこんなで、買い物が楽しいのか、お茶でもしてるのか三人の帰宅は三時間後になる。
僕は三人が帰宅してきたのがわかり、キッチンに向かうと、笑い事がきこえてきて、本当の親子かのように仲が良さそうだ。
「根暗はあとできてね!」
キッチンのドアを開けようとしたら、ドアの前に明美がいて、口に軽くキスされ追い返された。
嬉しいのと、恥ずかしいのが入り乱れながら、僕はキスの感触を思い出しながら部屋に戻る。
(飲み物でも買ってくるかな)
不意に喉が乾き、キッチンに取りに行けない状況になってしまったので、家の目の前にある自販機まで買いに行くことにした。
また一階に行くと、料理を教えている母さんの弾んだ声と二人の楽しそうな笑い声も聞こえ、美味しそうな匂いもしてくる。
どうやらドアを開ける音には気づかないらしい。
僕はそっと抜け出しジュースを買うと、また二回の部屋に戻って夕飯を楽しみにゲームしながら待つことにした。
✩
──コンコン
──ガチャ……
部屋のドアが開き明美と桃花が中に入ってきた。
「根暗くん、私が作った手料理一緒に食べよう」
そう言うと、明美は僕の顔に近づいて来るなりそっと僕の頬にキスをしてきた。
「えへへ……」
明美は微笑見ながら今度は隙だらけの僕の手を握り引っ張る。
二人が付き合ってることを知ってる桃花だけど、少し寂しげな表情でこちらを見つめているのがわかった。
「桃花も作ってくれたんだろ?」
僕が桃花に話を振ると、桃花は僕の目を見てニコッと笑い頷く。
「私も作ったんだけど食べてくれる?」
その後、すぐ不安そうに聞いてきた。
「そりゃ食べるよ! お腹空いちゃったもん。さっきからいい匂いしてたからお腹がグーグーなってて我慢できないよ」
僕の食べるという言葉を聞いて、桃花はまた笑顔が戻る。
隣にいる明美が僕達のやり取りを聞いて少し不満そうにしているのがわかった。そのうち指で脇腹をツンツンしてきた。
(うみゅう、参ったな、これくらいで嫉妬しないでくれよ)
それにしても、こんなんで嫉妬しちゃう明美が可愛くて仕方ない。
キッチンに行くと、テーブルの上には僕が大好物の唐揚げに、ポテトサラダがあり、更に今日はお刺身の盛り合わせまで食卓に並んでいる。
(やたら豪華だな!)
ダイニングテーブルの真ん中に僕が座ると、寝る時と同じく左に桃花で右に明美が座り、僕達の目の前に両親が座って皆で食卓を囲む。
目の前には飲み物が入ったコップが置いてあり、父さんと母さんはビールが注がれたグラス。僕達はウーロン茶の入ったグラスだった。
「今日は、明美の引越が無事に終わりました。桃花がこの家に期間的に住むということも決まり、この家には二人の女の子を迎え入れることとなり、父さんは嬉しい……えっと、この家が華やかになり喜ばしい限りです。これから宜しくお願いします。では乾杯!」
父さんの音頭で乾杯する。
「美味いな今日のご飯は格別だな」
普段は無言で食べる父さんが今日は違う。やっぱり家に女の子がいるってのは良い事なんだろう。
母さんも、何時もよりお酒がすすんでしまっている。会話も弾み楽しそうだ。
そんな中、僕はマヨラーとまではいかないが、唐揚げにマヨネーズをつけて食べるのが好きなので、一人静かに目の前にある唐揚げを夢中になって食べていた。
「あっ、根暗汚れてるよ!」
そう言って箱からティッシュペーパーを取り出し、僕の口元を拭いてくれたのは桃花である。
この場に彼女である明美が座ってるのに、僕のお世話をしてくれる桃花に対して、僕は皆の前で恥ずかしくて赤面してしまった。
「なーに照れてんのよ。根暗今日はモテモテね」
母さんが直ぐに突っ込んできたけど、僕には彼女である明美がいるんだから桃花に注意をしてくれたら良いのに……意外と気が利かない。
「良いよ自分でできるんだから……」
僕が桃花に伝えるもスルーされる。
そんな時、隣にいる明美が何も話さなくなったので気になりそっと目だけ向けると、明美は嫉妬しだしているのだろう! もじもじしながらティッシュを握りしめてるのが分り、めちゃくちゃく可愛いと思ってしまった。
「あっ、汚れちゃった! 明美吹いてくれる?」
もう一度唐揚げを食べてわざわざ口元を汚してから、明美の方へ振り向くと、握りしめていたくしゃくしゃのティッシュを申し訳なさそうに取り出して優しく口元を拭いてくれた。
「えへへ……」
拭きながら幸せになってるのか頬を赤らめ照れている。
「明美ありがとうな」
ポンポンと頭を叩き撫でてやる。
「やっぱり根暗モテモテだなぁ。羨ましすぎるぞ」
酔った父さんが変なことを言い出すと、普段そんなことやりもしないのに酔ってる母さんが父さんの口元を拭いている。
「へへへ」
「ふふふっ」
(何だこれ……)
何だか普段見ることの出来ない両親の仲を見せられて、僕だけ変な空気を感じ取っていると、明美が耳元で「ちょっと御手洗……」と僕にだけ伝えて居なくなってしまった。
「ねぇ、根暗」
「ん?」
明美がトイレに行くと、隣にいる桃花が話しかけてきた。
「私にはまだ、チャンス無いのかな?」
「えっ?」
「好きなの……駄目?」
ファスナー付きパジャマのファスナーを少し下げて胸元をチラ見せさせながら上目遣いで覗き込んできた。
僕はゴクリと唾を飲み込む。
「……ご、」
僕は意を決して桃花にごめんと伝えようとしているところに、明美が戻ってきたので言えずに終わってしまった。
桃花はファスナーを持ち上げ、普通に食事を始める。
目の前でイチャついてる両親はそんなことどうでもいいのか、僕達のやり取りには気付いていないらしい。
この状況に少し安堵する僕。まだ食べおわっていなかったので食事を始めたけど、これからどうなることやら……不安で頭が一杯になっているのだった。
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