二話 予想外の展開
僕には明美という異性の親友がいる。
何度も言うが、明美はとても明るい性格で、陰キャな僕とは違い、誰とでも気さくに話をする優しい子だ。
そんな性格だからなのだろうか? それとも彼女がとても優しくて、凄く可愛い女の子だからからかもしれないけれど、クラスの男子からモテまくっているのである。
モテまくっていることに、当の本人は全然気づいていない様であるが、クラスの男子から狙われていると言うことを、昨日、僕はクラスのリーダー的存在である
そのせいで、僕はクラスの男子から睨まれていたことを知ることになる。原因が分かったからと言って、何ら対応策などある訳もなく、今後どうするべきかも分からないでいるのだけれど、嫉妬されているなら其れはそれでいいんじゃないかと思えてしまっていた……。
そんなことより、昨日の会話で、突然荒木くんが明日、明美に告白すると言ってきたのである。
荒木くんと僕では全てのスペックが違う! というか、全く違いすぎるのだ。
彼は、僕なんかより数倍も明るい性格だし、友達だって普通に沢山いるのが見て分かる。しかも、イケメンであるかどうかも、多分僕より荒木くんの方がイケメンであるのでは無いだろうか?
明美のことを取られたくないという思いが強くあるけれど、勝手ながら、既に荒木くんに負けているような気がしてしまっている自分がいた。
其れでも、実際は、告白された明美がどうなるのか心配でしか無く、昨夜は全く眠れなかった自分がいる。
どうやら、僕は親友である明美のことを、親友というくくりではなく、もっと特別な存在として見ていたのかもしれない。だから、この間、彼女のことを女の子として見てしまったのだと思う。
「おっはようー!」
明美が僕の家のチャイムを鳴らすのでドアを開けると、いつも通り凄く元気に挨拶をしてくる。
「うん、おはよう!」
僕は小さな声で答えるのでテンションが低い……というか、これが通常であるのだけれど、彼女からは、「根暗くん今日も元気だね」と言われた。
まぁ、元気である事に間違いは無いのだけど……。
「ほらほら、ボサっとしてないで早く鞄持ってきてくれる? 学校行くわよ!」
そう、最近僕達は、高校迄の道のりを、帰りだけではなく行きも一緒に通学するようになっていた。
僕の家から十五分程の道のりを一緒に自転車で通学する。
「ねえ、この前私が男子に注意してあげてからも睨まれるのって続いてたりするよね?」
自転車を漕ぎながら、僕の隣に近づいてきて明美が話をしてきた。
「うん、まぁね……でも、もう気にしてないよ」
まだ、彼女は僕のことをずっと心配してくれているのだろう……。
「本当に気にならないの!? 原因さえ分かれば解決するはずなのにね」
僕は原因を知っていた! 昨日知ったばかりではあるが、原因は明美が可愛いからである。そんな彼女が僕と一緒に過ごしてばかりいることに嫉妬しているからなのだけど、彼女にその原因を伝えることを何故か躊躇う自分がいた。
「うん、そうだよね!」
僕は原因が分からない振りをしたまま、自転車を漕いでいると、突然風が強く吹き、砂埃が舞ったかと思うと、丁度僕の目に入り込み、目から涙かでてしまい手で拭った。
「大丈夫!? ねぇ、根暗くん元気出して……やっぱり辛いよね……」
やばい、突然砂が目に入り泣いてしまったことで、勘違いをさせてしまうことになってしまったのである。
全然僕は大丈夫なのに、辛くて泣いているんだと彼女に思わせてしまったらしい。
「明美何時も気にしていてくれてありがとう。でも、今の僕は大丈夫だから」
「うん、そっか、なら根暗くんが辛くなったら話してね……私、根暗くんのこと大切だし好きだからさ!」
彼女に『好き』と言われて僕は恥ずかしながらドキッとしてしまった。えっと……これは……告……白!?
僕が、彼女の方を見ると、明美は僕を見てニコッと笑った。
その瞬間、僕の胸の鼓動が高鳴りだす。
ドクンドクンと鳴っている胸の音が自分でも分かり、次第に顔が火照ってきてしまったので、この時、僕は自分の顔が赤くなっていることに気づいた。
恥ずかしくて仕方がなかった。やっぱり僕は明美のことを意識しだしているらしい! 『好き』と言われただけなんだから、親友としての好きだと言うのに……。
少しすると、カサカサと揺れる木の葉の音や、草の音が聞こえてきた! 風が吹いてきたのである。
今度は強い風じゃなく、そよそよと吹くやさしい風だった。その風は僕の顔にあたり、僕の赤くなってしまった頬を冷やしてくれているように感じた。
「うわぁーめっちゃ気持ちいい風だねぇー」
そう言いながら、明美は幸せそうな表情をしてこっちを見ている。
その顔がとても可愛くて、顔を冷やしてるはずなのに、僕の胸の鼓動がまた高鳴り出してしまった。
「僕も明美のこと好きだよ!」
照れながら、僕は学校の門に着く直前で明美に伝える。
「えへへっ」
彼女は僕からの言葉を聞いて、照れ笑いをしていた。そんな姿が凄く可愛くて仕方が無い。でも、彼女は今僕が言った言葉の意味をどう受け取ってくれているのだろうか……。
親友同士であるから、やっぱり親友としての『好き』だと思っているかもしれない。それでも、僕は彼女に自分の気持ちを伝える事ができて良かったなと思いながら、学校に着くと彼女の隣りに自転車を止める。
自転車の鍵を掛けながら、本当なら、同じクラスの荒木くんが告白すると宣言していることを知っている僕は、明美に今日告白されるということを伝えようと思っていたのに其れが出来なかったので、少しばかり悔やんでいた。
其れは、僕は彼女に荒木くんが告白することを伝えてから、 明美の気持ちを先に知りたかったからでもある。
でも、勇気がない僕は躊躇ってしまい、そのことについて伝えることも、聞く事も出来ないまま学校に到着してしまったのである。僕は彼女がなんて答えるのか気になって仕方がなかった。
気になって仕方がない僕は、今迄の人生で、今日……今が一番ドキドキしている。
今、現時点で、僕は教室に向かうまでの間に、まだチャンスがあった……彼女に告白することも出来るし、荒木くんのことを伝えることだって出来るだろう。
……僕はありったけの勇気を振りしぼり伝えようとしていた。伝えなきゃと思っていたのに、やっぱり僕は駄目すぎる奴である。結局勇気をふりしぼることなんて出来なかったのだから。
だから、そのまま僕と明美は教室に入ると、別々に別れて自分達の席に座ったのだ、僕はこの日、気になって仕方がないせいで朝からソワソワして落ち着けない!
僕は席に座ったまま、彼女をじっと見つめていた。荒木くんがいつ告白するのか不安でいっぱいになる。
ところが休み時間が来ても、彼女の近くに荒木くんの姿は無かった。
そのままお昼を迎えたので、いつも通り明美と一緒にお昼ご飯を食べながら、アニメの話で盛り上がっていると、突然荒木くんが此方に来て、呼び出しをしてきた。しかも、呼び出されたの明美では無く僕だったのである。
呼び出されたので急いで廊下に向かうと、荒木くんが凄くへこんでいた。
「荒木くん、どうかしたの?」
荒木くんはじっと下を見つめたまま、ふぅーっと溜息をついてから僕のことを見つめる。
「あのさ、荒木じゃなくて、下の名前で呼んでくれて構わないぜ!」
そう言われたので僕は荒木くんのことを下の名前で読んでみる。
「えっと、
少しばかり悲しい表情になったかと思うと、勇がゆっくりと話し出した。
「うん、根暗聞いてくれよ。 俺……俺……振られちゃったんだ!」
振られたと言う言葉を耳にして、僕は勇がいつの間にか勇が明美に『告白』していたのを知ることになった。
「えっと……勇が告白したのって……」
僕は勇が明美に告白すると宣言していたことを知っている。其れなのに、今日僕が彼女のことばかり見ていた時には、明美の近くに勇がいた覚えが無いからである。
「何だよ、根暗は知っているだろ、俺の告白相手が明美だってことくらい」
やっぱり告白相手は明美だった。でも、勇はいつの間に告白何てしていたのだろうか? 今日は移動教室も無かったし、僕が見ている限りでは、明美はずっと教室にいたはずなのだ。
「ねぇ、勇はいつの間に告白なんかしたんだよ! 僕は気になって仕方がなくて彼女のことずっと見てたから分かるんだけど、彼女に近づいてなんかいなかっただろ……」
僕が目を見て真剣に聞く……そしたら、勇が、本当のことを教えてくれたんだ!
「実は、昨日帰る時、俺が昇降口に行ったらそこに明美がいたんだよ。少し前迄友達と一緒にいたらしいんだけど、先に帰っちゃったらしくてさ、それでたまたま一緒に帰ったんだ」
その話を聞いて僕は驚いた。明美からは何も言ってくれなかったからだ! 告白されたことくらい僕に教えてくれたっていいじゃないか!?
僕が凄く幼くて我儘だってことくらい良く分かっている! だけど、言って欲しかった。だって僕達は親友なんだから……
。
「それでその後は……?」
「うん、方向が違うから、一緒に帰ったと行っても、少しばかり道のりを自転車を転がしながら歩いただけなんだけど、その時に、急にやっぱり今告白しようって思ってさ、自分の気持ちを明美に伝えたんだ」
「うん、それで……?」
「そしたらさ、他に好きな人がいるからって断られちゃったんだよ。好きな相手とは、ずっと今のまま仲良しでいたいから、多分付き合うことは無理かも知れないけどって言ってたんだけどね」
明美に断られた話をしている勇が、僕に話しながら泣きそうになっているのを見て申し訳ない気持ちになりつつ、明美が断った事を聞いて、ホット胸を撫で下ろしている自分がいた。
「でも、其れって……其れって僕の事なのかな!? ずっと仲良しでいたいってことは……?」
断られて辛いはずなのに、僕は勇に聞いてしまった。
「もしかすると、そうなのかもしれないよな! 俺はその時、明美が好きな相手は根暗なんじゃ無いかって思ったんだけど、そこまでは聞けなかったんだ」
「あ、ごめん! 今勇は辛いよね。それなのに明美が好きな相手のこと聞いちゃって本当にごめん……」
「ううん、別にいいよ! 根暗、俺の失恋の話を聞いてくれてありがとうな。こんなこと本当は内緒にするつもりだったんだ。根暗には、やっぱり明美に告白するの辞めたって言おうかと思ってたんだけど……」
僕は勇に、告白出来る勇気があって凄いと伝えた。だって僕には思っているだけで勇気が無く出来ないでいるからだ。
それから、勇は僕なんかと違って魅力があると伝えたんだ。
そしたら、勇が僕のことを「優しい奴だな」って言ってくれたんだ。それから、「今日から俺たち友達になろう」って言って貰えた。こんなことがきっかけになってしまったけど、仲良くなれて僕は嬉しい気持ちになる。
「根暗さ、本当は明美のこと好きなんだろ!?」
突然勇に言われる……。
「うん……」
今迄は明美のことを親友として見ていたのに、つい最近意識した出来事があったことを話した。
「俺、根暗の恋の行方を見守ることにするよ! 大丈夫! お前になら必ず彼女に告白できる。俺がついてるんだから頑張れよ!」
さっきまで、泣きそうになってへこんでいた勇は、もういつも通りの元気な勇に戻ると、笑顔でそう言ってくれた。
「うん、頑張ってみるよ!」
「良し、ならこれから俺は根暗に勇気のパワー送ってやるからな」
そういうと、両手を広げて僕に向けて何やらパワー? らしきものを送り出した。
「ほら、パワー送ってやったからな!」
「う、うん、勇どうもありがとう」
こうして僕は勇から謎のパワーを受け取った。そんな目にも見えないパワーなんて存在するわけが無いのに……子供騙しのようなことをされただけなのに……それでも、なんだか本当に力がみなぎってきたような感じがした。
お昼休みの時間が終わったので、廊下に出て話をしていた僕と勇は、慌てて教室に戻ると、自分の席に座った。
☆
放課後になり、僕は明美と一緒に自転車を転がしながら帰る。その方が話がしやすいからだ。
明美は昼休み、僕が勇と話をしていたことが気になっていたらしい。そのことを聞いてきた。
「あのさ、根暗くんさっき荒木くんと何話してたの!?」
「うん、さっきは勇が失恋したって話を聞いてた」
「もしかして其れって……私とのことなんでしょ……」
僕が頷くとやっぱり……といった表情をしている。
「昨日荒木くんに告白されちゃったんだけど、根暗くんに知らせなくてごめんね!」
明美は直ぐに謝ってきた。
「別に謝ることなんてないよ! 付き合うことにするのも、断るのも明美の自由なんだからさ……まぁ、教えて欲しい気持ちはあったけど、其れは僕の我儘だからね」
「うん……」
また悲しそうな表情をしてきたので、僕は明美の頭をポンポン叩いて撫でてやる。
「えへへっ! ありがとう」
「でも、僕も謝らないといけないことがあるんだ! その……男子達から睨まれていた原因が分かったんだけど、それなのに明美にずっと話してなかったことなんだけど
……」
僕は男子達から睨まれていた理由を明美に話した。
「えへへっ! 私が原因みたいだね。 何だかごめんね」
また彼女は謝ってきた。でもそれは違う。別に明美がが悪いわけでも、僕が悪いわけでも無い。勝手に嫉妬されていただけなのだから……。
「明美は本当に、可愛いからね! だからモテまくるのも僕には分かるよ。だから、そんなに謝んなくて大丈夫だよ」
「えへへっ! モテまくるって……でも、私ずっと前から好きな人がいるの。だから誰かと付き合ったりはしないから」
「明美には好きな人がいたんだね。僕はずっと一緒にいるのに、明美に好きな人がいるなんて気づかなかったよ! でも、それって片思いってことでしょ……相手に気持ち伝えたりしないの?」
「えへへっ!」
明美からの回答は微笑んだだけだった。僕は明美の好きな相手が僕なんじゃ無いだろうかと勝手に思いながらも、相手が誰か迄は聞けずにいた。
「明美の気持ち、いつか好きな人に伝える事が出来ると良いね」
「うん……そうだね! ところで根暗くんには好きな人いるの?」
「うん……いるよ」
僕がそう答えると、明美は少しばかり驚いた表情を見せる。
「えっ……好きな人なんていたんだね」
僕の片思いの相手は明美! いつも僕に明るく声をかけてくれるところや、僕のことを心配してくれたりする優しいところ。他にも……色々……好きなところがある。
「うん、まぁね……」
「私も根暗くんに好きな人がいるなんて全然気づかなかったよ」
「うん、好きかもしれないって思ったのは、つい最近の出来事だからね」
「相手は誰なの?」
「ひ、秘密に決まってるだろ!」
好きなのは明美だって言えたら良かったんだろうけど、まだ言えなかった。
「そっかぁ。根暗くんも頑張ってね……えへへっ」
いつもなら元気良く言ってくる明美が、今は普段より元気無さげに言ってきた気がした……しかも、ちょっと寂しそうに感じる。
その後、会話も無く、自転車を転がしながら進んで行くと、家の近くにある駅迄着ていた。
朝、僕たちがいつも通学する時は、人混みの多いバスターミナルを抜け、その先にある連なったショッピングモールを抜けて帰宅する。
普段、帰宅後明美が直ぐに家に遊びに来ることが多かったので、わざわざ二人て寄り道なんかすることも無かったのに、今日は僕が明美をショッピングモールに誘った。
ショッピングモールには、本屋から、ドラッグストア、ファーストフードや、洋服屋さん等色々なお店が並んでいる。
僕は、この前母から聞いていたので、此処のショッピングモールで、美味しいタピオカドリンクが売っているという情報を知っていた。
「此処のショッピングモールで美味しいタピオカドリンク飲めるらしいけど、明美は知ってる?」
「タピオカドリンクなんて売ってるお店あったかな?」
「うん、最近新しく入ったお店らしいよ! 母さんから聞いていたから知ってるんだけど、せっかくだから寄っていかない? 奢るからさ」
「根暗くんがおごってくれるなら行ってみようかな……えへへっ!」
母さんからフードコートに売ってることを聞いていた僕は、なんの迷いもなしに明美と一緒にそこへ行くと、平日なのに行列が出来ていた。
僕は行列に並ぶことが苦手だったけど、明美は「並ぶ」と言ったので、並んで待つ事にした。二人でスマホゲームをしながら待っていたら、意外とあっという間に自分達の番が来る。
「えへへっ、美味しいのかな!?」
「あれ、もしかしてタピオカドリンクって明美は飲んだことないの?」
「そうだよ! まだ飲んだこと一度も無い。だって太めのストロー苦手なんだもん。私吸引力あんまりないし……えへへ」
僕はそれを聞いて、可愛いなと思ってしまった。そういえば、家でラーメンやうどんを食べる時、彼女は箸で掴んで口に入れる様に食べているのを思い出した。
明美はすすって食べていないもんな……ずっと何でかなって気になってはいたけど、苦手だったからなのか……成程。
「でも、大丈夫だよ! せっかくだから一緒に飲んでみよう」
「うん……根暗くんと一緒に初体験してみるよ。えへへ」
早速購入してフードコートの空いてる席に座ると、明美は苦手だと言っていたストローを口につける。
僕は彼女がちゃんと飲めるのか気になってしまい、自分のが飲めずに彼女のことを眺めていた。
「ちょっと……何で私のことガン見してるのよ」
彼女は顔を真っ赤にしながら、飲もうとしたのを辞めてしまった。
「その、だってちゃんと飲めるか気になっちゃって……」
「そっかぁ、根暗くん優しいんだね! えへへ……ありがとう」
僕の目前で笑った彼女の顔がめちゃくちゃ可愛い、僕は明美のことがどんどん好きになっていっているらしい。
其れから、彼女は口を開けてタピオカドリンクを飲みはじめた。
「これ美味しい! タピオカってモチモチしてるんだね……えへへ」
僕は、ドキドキしながら見ていたけど、美味しいと言った瞬間、明美がストローから飲むことが出来て良かったなと心の中で思った。
「良かった、明美の口に合わなくて美味しくないって言われたらどーしようかと思ってたよ」
大好きな親友との寄り道は幸せでしか無かった。毎日一緒にいたのに、そんなこと今まで感じてもいなかっただなんて損してきた感じてもあるけど……。
普段元気は百パーセントって感じの彼女だから、悲しそうになっていた時、僕もなんだか悲しくなっいた。でも、タピオカドリンクのおかげで、彼女に笑顔が戻ると、彼女の魅力も戻ったように感られた。
突然、明美が時計を見てハッとする。
「やだー、もうこんな時間じゃない! 」
慌てて帰ろうとする彼女、どうやら今日はお姉ちゃんの誕生日パーティーをする日だったらしい。
「別に、お姉ちゃんのこと何かお祝いしたくもないけどね、一応家族だから参加する
んだけどさ……」
彼女は何だか嫌そうに答える。やっぱり母さんが前に言っていたように、姉妹で差別でもされているんだろうか!?
「そっかぁ、でも、参加するなんて偉いね。ところで、母さんから聞いたけど姉妹での扱いってそんなに違うの?」
「う、うん、まぁね! 私は生まれた時から 出来が悪いのよ。頭もそんなに良くないし」
「そうか.......? 俺は明美のこと頭良いと思うけどな」
「えへへ.......そう言ってくれるのは根暗くんだけだよ!」
明美は凄く照れていた.......顔が赤くなったから照れてるって僕にはすぐ分かった。。
「あっ、やだ急がなきゃだったんだ。お母さんがわざわざレストラン予約してるのよ! 私の誕生日に予約なんかしないのに」
明美の話を聞いて、やっぱり差別されてるように思ってしまった。普段元気な明美からは想像出来ないけど、実は凄く辛いんじゃないだろうか?
「そっか、なら、来月にくる明美の誕生日は美味しいとこ一緒に食べに行こうよ」
「うん.......ありがとう.......えへへ」
食べに行こうと話しながらショッピングモールを出ると、外はパラパラと雨が降り始めていた。
何で急に雨なんか降ってるんだよ! 天気予報外れだなと思いながら、「気をつけて帰れよ」と、明美に伝えると、別れて家に帰った。
次の日、何時もなら明美が僕の家のチャイムを鳴らすであろう時間帯なのに、何時になっても家のチャイムがならなかった。
まさか、先に学校に行ってしまったのだろうか!? そう思いながら明美にメールを入れてみたけど、何時もなら直ぐに返信が来るのに既読にすらならない。
一体どうしたのかと心配になり明美に電話を掛けてみる。ところが、着信音が鳴るのに電話には出なかった。
明美は普段遅刻なんて一度もしたことが無かった。具合が悪くて休んだことも一度もなく、毎年皆勤賞を貰う程だったので、今日はたまたま連絡もせず先に行ったのかもしれない。そう思った僕は急いで学校に向かった。
ところが、学校に到着してみると下駄箱に明美の靴は無かった。一体どうしたのだろうか? 昨日は一緒にいたけど体調も悪くなかったし、元気だったよな。振り返って見たけど何も思い出せなかった。やっぱり遅刻してるだけかもしれないよな.......そう考えごとをしていると、突然声を掛けられたので僕は驚く。
「よう、根暗おはよう!」
そう言って、下駄箱の前で立ち止まっている僕の肩をぽんと叩き、声を掛けてきたのは勇だった。
「あ、うん、勇おはよう!」
何時も一緒にいる明美の存在が無いからだろうか、勇が不思議がりながら僕に聞いてくる。
「今日は、根暗一人で登校かよ.......最近は二人で一緒に登校してくるじゃん。 一緒に学校来ないなんて、さては何かあったな?」
「嫌だな.......僕達何にも無いよ! 昨日も何時も通りだったし」
何故か僕は慌てて、勇に何も無いと伝える。
「僕も心配になって明美に連絡入れたんだけど、何にも連絡が来なかったから、今日学校に来るかも分からないんだよ! 一体どうしたのかな?」
「そっか.......そりゃ、何も連絡が来ないんじゃ根暗が心配になって当然だね。其れにしてもどうしたんだろうな.......」
「うん.......」
僕は勇と一緒に教室に向かった。結局、チャイムが鳴るまで教室の入口を気にして見ていたけど彼女は現れなかった。
珍しく遅刻なのかな!? 絶対そうに違いないだろうと僕は勝手に思っていた。ところが担任の先生が来て、SHRが始まと全然違うことを知ることになった。
「はい、皆さんおはようございます。今日は皆さんに伝え無いといけないことがあります。其れは陽堂明美さんのことです」
「どうしたんですか?」
気になっていた僕は声を出していた。
普段皆の前で声を出したりしない僕が、気付けば大きな声を出していたので、周りがざわざわし始めたのだけど、その事に一番吃驚いていたのは自分だった。
「はいはい、皆さん静かにして聞いて下さい! これじゃ何も話せませんよ」
一瞬にしてざわつき、煩くなってしまったクラスを先生が鎮める。
皆、先生が何を話すのか気になるのだろう! 皆は黙り、また一瞬にして静かになった。
しんと静まり返った教室で、先生がまた話を続ける。
「明美さんですが、実は昨日の帰り道、明美さんが自転車で帰宅中に車と衝突してしまう事故が発生してしまいました。彼女の命に危険はありませんでしたが、まだ目を覚ましていないそうです。そしてこれから先どうなるかはまだ分かりません.......」
「そ、そんな.......嘘だろ!」
僕は席から立ち上がり声を荒げていた。予想だにしない明美の事実を知り、僕は凄くショックで手も足も全身震えていた。そしてクラスの誰よりも先に声を出して泣いた。
後からクラスの女子達がショックで泣き出す.......。
「皆さんの悲しい気持ちは、先生も同じ気持ちなので良く分かりますが、後一週間後に中間テストがあります。辛いですが皆さんは今しないといけないことを頑張ってくださいね! 明美さんも病院で頑張ってます」
その後、HRが終わると先生は教室から出て行った。僕はそれでも切り替えができずに泣いていると、僕のそばに勇がやってきた。
「根暗辛いよな.......まさかこんな事になっているだなんてな!」
「うん.......僕達は途中迄 一緒に帰ってたんだ。この日はたまたまショッピングモールに寄り道したんだけど、その後外に出たら雨が降り出してきて.......僕は彼女に気をつけて帰れって声を掛けたんだけど......だから、僕のせいなんだ! 寄り道なんかせず早く帰ってたら雨なんか降らなかったし.......」
「うん.......で、でもさ、帰り道に雨が降ってきたのと、今回の明美の事故とは別問題だからな! 詳しい状況は分からないけど、ちゃんと運転して無かった運転手が悪いんだよ。だから根暗は全然悪くなんか無いぞ!」
勇は僕にそう言ってくれたのだけど、僕は自分が悪いのだと.......自分をずっと責め続けていた。
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