おめでとう、新世界

空奏魚

世界の終わりと始まりについて考える24時間

世界が終わる日は、あまりにも美しい空をしている。私は赤く染まる空を見上げてそう思った。

遠くから聞こえるお祭り騒ぎ。だって世界が終わるのだから、こんなにはしゃいでも仕方ないのだろう。

私も行こうかと思ったけど、なんとなくそんな気分になれなくて家でごろごろ過ごす事にする。

世界が終わるだなんて言ったって、実感なんて湧かないものだよ。そう笑った兄に、私はそんなものかと頷いた。私だってそうだった。

テレビの向こう側では世界の終わりに合わせて特別番組をやっている。適当にリモコンを操作した後、電源を落とした。

何処へ行くの。ちょっと散歩。あんまり遅くなっちゃダメよ、今日で最後なんだから。はぁい。

そんないつもと変わらない会話をしながら履き慣れたシューズの踵を踏む。せっかくだし、新しいの買えば良かったかな、まぁいいか。

人がざわめく道を歩く。いつもと何も変わらない。ただ高揚しているような、夢心地のような、不思議な気持ちで歩いた。

こんなにもたくさん人が居て、みんな別々の道を歩いているというのに。意識は終わる世界の事ばかり。そんな哲学なかったっけ。忘れたけど。

ぼんやりとした思考に、ピコン、と軽快な音。友達からのメッセージだ。内容はやっぱり、この世界の終わりについて。ね、みんな一緒だよ。

適当に、また今度遊ぼうねなんて返してから、はぁと白い息を吐き出した。

世界が終わったら、どうなるんだろう。新しい世界は、どんな日が続いていくんだろう。

きっと、何も変わらないんだろうな。だって世界が終わるって言ったって、こんなにも普通の日常なんだから。

どこかそわそわした気持ちで、色んな人に連絡したりして、ちょっと良いもの食べて、家族と過ごす。

ただ、それだけの事だ。根本的な何かが変わる訳じゃない。

けれどやっぱり特別なのかな。だって世界中が同じ意識で過ごしているんだもんね。




世界で一番綺麗な時間は、きっと世界が終わる時。

例えいつか本当に世界が終わる日が来たとしても、きっと似たような最後を過ごすのだろう。

世界が終わって、また新しい世界が始まる。

時計の針が少し傾くだけだったし、数字が少し変わるだけ。ただそれだけのこと。

だけどその時間がたまらなく美しく、素敵なものに思えるんだ。



「あ、ほら見て。初日の出」「ねぇ。とっても綺麗な空だね」

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おめでとう、新世界 空奏魚 @soratobukuzira

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