第27話 Ⅴ-①
Ⅴ
「神様なんていない。
絶対にいない。
いたらもっとマシな世界になっているはずだ。」
昔見たテレビで誰かが言ってた。
それでも私は信じたいし、縋りたかった。
だって人間は一人では生きていけない弱い生き物だから。
…
冬
どれくらいの時間が経ったのだろうか?
分からないし、もうさほど興味もなかった。
最初は疎ましく感じていた借金取りの嫌がらせも、習慣になってしまえば騒音に感じなくなっていた。カーテンを閉め切っているため、昼間から部屋は薄暗く、仕事に行くことも、外に出ることも無くなったため目的を失い、結果私たちは時間の感覚を失ってしまったようだ。時計が5時を指しても、朝の5時でも夕方の5時でもどっちでもいいのだ。
掃除をする気力もなくなり、ゴミも出せずに部屋は汚くなる一方だった。ゴミは静かな時間に窓からベランダに置くようにしてきたが、そこもいっぱいになり、部屋の中にまで進出してきていた。お気に入りにしていた、電車で拾ってきた雑誌や、昔誕生日にお母さんに買ってもらった小説にもほこりが被り始めたが、もうそれを払いのける気力すら無くなっていた。ただ、ゴミだまりの中でチョコレータブルの大きなポスターからこぼれる主人公達の笑顔が、この部屋に似つかわしくない異彩を放っていた。
恵はというと部屋の隅で黙々と絵を描き続けている。一応どこまで理解できているかは不明だが、恵には一通り現状を説明した。外に出られないストレスを絵を描き続けることで昇華しているのだろうか。
食べるものはとっくに底をついていた。私達の限界はもうすぐそこまで近づいていた。もちろん自己破産して借金から逃れるという選択肢があることも知っている。そうやって借金から逃れる人が沢山いることも知っている。健全な金融屋からお金を借りている人はそれもありだろう。しかし実際には違法なところから借金している以上、彼らは裁判所がどんな判断を下そうとも取り立てを続けるだろう。例えどんな手段を使っても。だから軽々しく自己破産すれば良い、というのは無知な人の言う無責任な言葉なのだ。そしてもう一つ私が借金から逃げない理由として、信仰上人に借りたお金を踏み倒してはいけないという事情もあった。
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