第26話  Ⅳ-④

甘かった。

私が甘かったのがいけないのだ。 

私の行動が私だけでなく恵の生活にも直結していて、もっと慎重に行動しなければいけなかったのだ。

春川君は結果として私を裏切った。いや、そもそも裏切る程の好意なんて元々無かったのかもしれない。人の温かさを求めていた私の抱いた妄想だったのかもしれない。

私は春川君の紹介してくれた友人の言葉を信じて、為すがままに借金をさらに重ねた。思えば怪しいところも沢山あったのに。彼の友人と言うのはいわゆる闇金のブローカーと言われるような種類の人間だった。そのため、私の借金は楽になるどころか、それまで以上に加速的に膨れ上がった。そして私は昼休みも金作に走り回らなければいけない程になった。と言ってもお金を貸してくれるような友人や親せきの類はすでに愛想を尽かされており、金融屋から借りて別の金融屋に返す、いわゆる自転車操業に落ち入っていた。

よく転落人生なんて表現が使われるが、本当に暗い穴の中に落ちて行くような感覚で、私は五里霧中の中を彷徨っていた。

後から気付いたのだが、春川君もその人に借金があったようで、私を紹介することで何かしらのメリットが受けられたようだった。

しかし春川君を責めてはいけない。おそらくこれらの一連の罠は、春川君が画策したのではなく、もともと私の借金している業者が、同じく顧客であった春川君に計画を持ちかけて唆したのだろう。だから春川君を責めてはいけない。本当は優しい春川君をそうまでしてしまったお金が悪い。そしてお金に転がされる私が一番悪いのだ。

でも本当に悲しかったのは、春川君にしか話していなかった恵の病気のことを、高野さんから話題にされたことだった。

「あなた病気の妹さんがいるんでしょう?大変ねぇ?」

嫌味な薄ら笑いと共に、喜んでいるような調子で発せられたその言葉よりも、春川君が私との約束を破ったその事実の方がはるかに私を傷つけた。

…もう、いいや。

私は少しずつ、そんな風に思うようになっていった。

最初は会社を風邪でもないのに無気力で休むことに罪悪感を感じていたが、そのうちどうでもよくなっていった。

外に出ず、借金の返済がさらに滞ると、いよいよ取り立ては激しさを増し、私も恵も外に出ることはできなくなってしまった。

私にあるのは恵と薬だけ。

それだけだったが、それだけあれば十分な気がしてきていた。

今日も外は騒がしいが、薬を飲んで恵と一緒に眠ってしまおう。

夢の中でおいしい物食べられるといいな。

そんなことを考えながら、私は薬の封を切った

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