第10話 Ⅰ-⑩
それは男子には、ともすれば同性の女子にもすぐには理解しがたいことかもしれないけれど、少なくとも私やお母さんには感じ取ることができる恵の素敵な個性だった。恵がこの愛らしさを前面に主張できていたら、イジメられるなんてことはなかったんじゃないだろうか、と私は昔から思っている。
「ニニニってすぐわかったよ。とっても似てるね。」
私はできるだけ優しく微笑んで答えた。恵の顔がクシュッとなる。とてもかわいらしい。
それから恵は絵を持って踊りながら、私たち姉妹の部屋に入っていった。多分飾るつもりなんだろう。
「恵。もう遅いからあんまり騒がないでよ。お母さんも寝てるんだから。お姉ちゃんもお風呂に入ったらすぐ寝るから寝る準備してなさいよ。」
私がそう言うと
「はーい」
とやっと返事らしい返事が返ってきた。おそらく通じていると思うが油断はならない。私は疲れていたこともあり、さっとお風呂に入って今日は早めに寝ることにした。
私がお風呂から出ると、予想外に恵はすでに自分で布団を引いて眠っていた。壁には先ほどのニニニの絵が丁寧に飾られている、その他沢山の作品と共に。私たちの部屋の壁は恵画伯の作品で展示ブースとなっているのだ。中には恵の作品だけでなく、恵のお気に入りのアニメ作品『チョコレータブル』のポスターも飾ってあった。チョコレータブルは幼児向けのアニメで、チョコレットとバーニラが力を合わせて、ビーターという悪者と戦うというファンタジーアニメだ。恵の作品たちの中で笑うチョコレットとバーニラは幸せそうで、いつも私を癒してくれる。
ともあれ、恵が眠っていてくれたことで私は少し安心して、今日一日の疲れがどっと出てきた。今日はすぐに寝ることにしよう。幸い今日は頑張って仕事をした分、家での持ち込み仕事は残っていない。明日も朝は早いがゆっくりと休むことが出来そうだ。
私はパジャマに着替え、台所の引き出しにある薬箱を取り出した。
寝る前の習慣。
中から、一錠ごとに袋詰めになった錠剤を一袋取り出し、封を切って薬を飲んだ。
全く味はしなかった。
ただ水道水だけがやけに冷たい。
おそらく、明日も明後日も飲むだろう。
明日は良い日になりますように。
そんな願望を抱きながら、私は布団に入り意識を遮断した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます