第2(♀)話 こいつが女なんて間違っている。

「本当にあれが女なのか!?」


 俺は問いただした。なんとも信じきれなかったのだ、あの言葉を。



「……その転校生なんだけどさ……」

「ああ、なんだよ」

「”女”らしいよ……」

「⋯⋯マジか?あれがか!?」

「あぁ⋯⋯大マジだ。どうだ? ちょっとその転校生見てみないか?」



 そう言われて、俺は少し顔を見に来た。

 だが、あんなの完全に男だろ!しかも⋯⋯女に囲まれてやがる!

 黒髪で、身長は175くらいか?⋯⋯にしてもイケメンすぎだろ!まるで⋯⋯


「王子様だな」

「それ、あいつのあだ名らしいぜ」

「あいつほどこのあだ名が似合うやついねぇよ⋯⋯マジに女なんだよな? そこら辺の俳優よりイケメンってーか、ハンサムじゃねーか?」


 ガチでそう思った。鼻高いし、目がキリッてしてるし、スタイルが王子様のそれだし!

 しっかし、女群がりすぎだろ⋯⋯あいつも俺みてーに同性にしかモテねぇのか?あれ?もしそうだとしたら⋯⋯


「俺とあいつ似てね?」

「⋯⋯どしたお前」


 すると、2階の窓から突き出していた俺の体が、校舎から放り出されるようにスルッと落ちて行った。


「あ⋯⋯れ?」

「お、桜条!!!」


 この感覚は⋯⋯あれだ!椅子浮かせてたら倒れた時のやつだ!本当に死んだって思うやつ!⋯⋯って俺今の状況やばくね!?


永由えいゆうくん! 私にもあーんして!」

「ずるい! 姫野ひめの様は私のだから!」

「あれ⋯⋯? 永由くんどこに行ったのかしら?」


 グチョォッ!⋯⋯と落ちたと思ったが、実際の音はフサッ!だった。

 死んでないのか⋯⋯?と思い、周りを見渡した。


「大丈夫かい? プリンセス」

「え? あ⋯⋯王子様⋯⋯」


 俺は今、王子にお姫様抱っこをされている。俺が落ちる寸前に駆けつけてきたのだろうか。


「⋯⋯かわいい」

「あー⋯⋯え? かわいい? 俺の事?」

「俺って⋯⋯女の子なんだから――」

「俺、男なんだけど」


 王子は、へ?と王子様らしからぬマヌケな表情を見せた。


「き、君男なのかい!?」

「あー⋯⋯良く感勘違いされんだよ」

「で、でも⋯⋯とてつもない美少女じゃないか、まるで⋯⋯"お姫様"のような⋯⋯男の子に見えないよ」


 プッツーンと俺の中で何かが切れた。

 その途端、俺は感情の歯止めが効かなくなった。


「はあぁぁぁーッ!? お〜ひ〜め〜さ〜

ま〜!? 言わせてもらうけどなあっ! お前の方だって女に見えないねぇ!!」

「な、なんだと! 君、初対面に失礼すぎないか!?」

「てめぇの方が失礼だわぁー!! 俺は男だっつーの! 女じゃねぇよ!!!」

「私だって男じゃないっての! 何が王子様だ! 私は女の子だあぁぁ!!」


 ハッと我に返り、周りの俺に対しての目線が冷たすぎることに気付いた。


「やべ⋯⋯さ、さーせん」

「あ⋯⋯ぼ、僕も感情的になりすぎた!すまない」


 王子に群がっていた女達は、俺に殺意の表情を見せてきた。


「えーと⋯⋯それじゃ!」


 逃げ出そうとしたが、俺はまだお姫様抱っこをされたままだった。


「あの⋯⋯まだ抱っこされなきゃいけないんすか?」

「あ! 本当だ! すまない!」


 サッと俺は降ろされた。

 そして目ン前で見ると⋯⋯でけぇな!!背の差が!俺より15cn高い!

 恥ずかしさで顔を染めた俺は、猛ダッシュで校舎へ帰って行った⋯⋯。



「な、なんだ⋯⋯あの男の子は⋯⋯いや、まだ女の子の可能性もあるか?」


 あとから俺は思い出した。


「⋯⋯ん? なんだろうこれは?」


 俺が落し物を⋯⋯しかも王子の近くにしてしまった事を⋯⋯!!


「生徒手帳か? って⋯⋯二ノ舞桜条? さっきの子の落し物か?」


 そして、俺は知ることになる⋯⋯この出会いが、俺の人生を大きく動かしてしまうということを⋯⋯。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る