第10話

 翌朝、ボクはまた大学へと向かった。いつものメンバーとなりつつある例の三人とともに授業を受け終え、いつものようにラウンジで駄弁っていた。


「そうだ、この後カラオケ行かない?」


 一人が唐突にそんなことを言い出した。ボクは首を横に振る。


「すまない、この後ちょっと用事が……」


「ああ、そうか。×××先生はこの後出版社にお出ましか」


 もう一人が、からかうようにそう言った。そこには勿論、悪意は感じ取れない。


「そうそう、それに誕生日プレゼントも渡さないと……」


 そこまで言ったところでふと自分の過ちに気が付く。この後出版社で打ち合わせてから変えれば、プレゼントを渡すにしても夜遅くなる。あの女の子にプレゼントを渡すことは出来ないじゃないか……しょうがない、一日ずれるがプレゼントは明日渡すことにしよう。申し訳ないが出版社との先約の方が大切だ。


「おお、お前にもとうとう彼女か?」


「いいな、俺も誕生日一緒に過ごしてくれる恋人ほしいな~」


「いや、違うって。大体誕生日なんて家族に祝ってもらえば……」


 いや、そもそもこの世界ではみんな家族なんていないか。死ぬときは大概みんな独りだ。



 ――――『しーなちゃんは今日、ろくさいのたんじょーびなの』



 待て、じゃあ昨日あの子の友達はどうして公園に現れなかった? 家には家族もいない。それなら公園で友達と過ごした方がいいんじゃないか? いや、そもそも家族がいないって、幼児はこの世界ではどうやって暮らしているんだ……? 六歳ならともかく、それよりも下になると一人じゃ暮らしていけないんじゃ……。



 ――――『向こうの世界とこの世界を行き来するのにも六年の年月がかかる』



 そうだ、あの男のセリフ、それってもしかして……。


「ごめん、もうボク行かなくちゃ」


「もう出版社に行くのか? まだ少し早くないか?」


「いや……出版社には行かない。あの話は、断る」


「なんでだよ! お前もあんなに嬉しそうにしてただろ! こんな簡単に小説家になれるんだ、これほどおいしい話はないって……」


 そうだ、こんなおいしい話はない。こんなおいしい話が生前にもあれば、ボクは今『ここに来ていない』んだから。でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。



 ――――『努力のない結果なんて虚しいだけだから』



「なあ、一つ聞かせてくれ」


 必死にボクを出版社に向かうように説得していた彼らは、ボクの質問に不意を突かれたようだった。


「……なんだよ?」



「もしかして、この世界では――――」

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