第8話


「また、キミか」


 ボクは昨日と同じように彼女の元に歩み寄ると、手元を覗き込んだ。やはり、昨日と同じく色々な動物の絵が描かれていた。無論、昨日と同じく画力は乏しかったが、幾分見やすくはなっていた。


「そういえば、昨日のお友達は? 今日は来てないのかい?」


「……しーなちゃんは今日、ろくさいのたんじょーびなの」


 そう呟く彼女はどこか淋しそうだった。誕生日だから家族と過ごしているということだろうか。


 彼女はというと、やはりこちらには見向きもせず、ただひたすらに絵を描き続けていた。そこには最早執念じみたものすら感じる。彼女の中に、昨晩の夢で見たあの人の面影を見たような気がした。


「どうして、そんなに頑張るの?」


「わかんない! でも、えがうまくなりたいの!」


 ボクはそんな彼女の様子が微笑ましくて、少し愛しかった。彼女は絵がうまくなりたいから、その目標を叶えるために毎日こうして努力し続けているのだ。


 彼女は地べたの動物たちの真ん中に何かを付け足し始めた。バースデイケーキだ。


「それはしーなちゃんのために?」


「ううん、これはあたしのたんじょーびかい。あたしも明日、ろくさいのたんじょーびなの!」


 六歳というと、小学校を入学……いや卒業する歳か。


「そっか……じゃあ明日プレゼントをあげよっか?」


 彼女はそんなボクの声を聞くと、嬉しそうに叫んでこちらを振り返った。


「おじちゃん、ほんと!」


 ボクはおじちゃんと呼ばれたことに苦笑しつつも首肯すると、しかし、彼女は少し表情を曇らせた。


「……うーん、でもやっぱりいいや」


「知らない人からものを貰っちゃいけないから?」



 ボクはおどけた調子でそう尋ねたが、彼女は何も答えなかった。


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