第7話 別世界
「だから…かっちゃんゴルフボールくれたのかな…。」
僕達は顔を見合わせつつも茫然としていた。
「形見みたいだな…。」
「まあ、死んではねーけどな…。」
僕達は口々に呟きつつも誰が何を言ったかはよく覚えていない。
僕達に与えられた情報は、かっちゃんは父の仕事の都合で東京に引っ越したということぐらいだった。
何となくまだいるような気がして3人で成田自転車の前を通りかかったが、看板は残っているものの、中はがらんとしていて人が住んでる気配はなかった。
3人でとぼとぼ家路につく途中で僕の目は覚めた。
あれから10年が経つが未だにかっちゃんのその後のことは誰も知らないし、中学に上がったあたりから誰もかっちゃんのことは口にしなくなった。
大学では既に内定をもらった組が学生最後のGWをどう過ごそうかと色めき立っていた。
まだ夏も冬もあるだろうに、と思いつつも僕は僕でこの空気の中、どうやりすごそうかと頭を悩ませていた。
徹は野球部を引退してるが後輩たちの練習を観に、夢は地元の友達と旅行に、啓人はロースクールの試験勉強にと、それぞれやるべき事は明確に決まっていた。
「晴はバイトとゲームかい?」
夢が大学のカフェスペースで話しかけてきた。
「そういうあなたはマウントを取りにきたのかい?」
僕がムッとした表情で返すと、
「最近やってるゲーム…ねっ、そこから得るものもあると思うよ。」
なんだろう…僕は何か違和感を覚えた。
別に馬鹿にしてる風でもなく、何かを確信したような夢の表情…なんだろう?
まあ、夢の発言とは関係なく今日もゲームはするのだけれど。
ゲームをスタートして1時間ほどすると、またもヤツが現れた。
今日はどんな説教を聞かせてくれるのだろうと楽しみに?していると、
「東京にいるとな、就職先は無数にある一方でそうでない道で成功してる人間もたくさんいる。そういう人間を見てると自分も独自の路線で成功することを夢見るようになる。
だがな、そこには当然リスクもつきまとう。周りを不幸のドン底に突き落とす可能性だって…誰かさんのように…。」
誰かさん?そこも引っ掛かったが僕はここでも何か違和感を覚えた。
成也の発言だけじゃない。
何かが僕に迫ってきているような、何かが徐々に僕を締め付けてくるような…。
次の瞬間、ゲーム画面に吸い込まれるような感覚に襲われ、目の前が真っ暗になった。
さらに次の瞬間、目の前に景色を取り戻した。
「学校…?」
黒板があり、机があり、ロッカーにはランドセル…。
また小学生のときの夢に戻ったのかと思ったが、教室内外の風景も周りの子供たちも見覚えがない。
いや、1人だけ知ったような顔が…。
「かっちゃん!?」
僕が驚いて声を掛けようとした瞬間、後ろから肩を叩かれた。
「健ちゃん!オレ算数の教科書忘れたから次の時間見せてくれねー?」
健ちゃん…オレのこと…?
「ねー、夢ちゃんトイレ行こー。」
かっちゃん?らしき子が夢ちゃんを…ユメ!?
オレの知ってるあの夢?
いや、名前が同じなだけだよな…。
でも何となく面影があるような気もしなくもない。
とにかく僕は誰かも分からない隣の子に教科書を見せつつ、何となくみんなの会話に入ってるフリをしつつ、一緒にそうじをしつつ、今日の健ちゃん何かおかしくない?とか言われつつも何となくその場その場をやり過ごした。
廊下にある全身用の鏡の前を通ったときに映る自分の姿…これ誰だ?…健ちゃんなんだろうけど…。
ここはどこで、僕はなんで健ちゃんで、なんでかっちゃん?や夢?がいるのか…。
僕は何がなんだか分からなかった。
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