第4話 異世界にて②

真夜中の3時を回ろうかという頃、大体このぐらいの時間になるとチャットで話し合ってた仲間たちも無口になってくる。


冒険に集中しているか、動きのない者はすでに眠りについている。


そろそろこのステージのボスにたどり着こうかという頃、大分みんなの動きがなくなってきたので、今日はこれぐらいにして、また明日みんなで協力して倒そうと電源ボタンに手を掛けた。



〈ボスまでいっちまうか。他の奴らは寝たらしいが。〉


ここにきて急に話しかけられた。



成也…なるや…?

本名かは分からないが。



このステージのボスは赤い毛で覆われたゴリラのようなパワー系のモンスターだ。


お城の兵士たちを皆殺しにして自分の住処にすべく立てこもっている。


横には人質に取られた姫がおり、姫の父である王様は姫を取り戻してほしいと懇願こんがんしてきた。


わりとベタな展開。


モンスターなのに姫は殺さずに置いておく理性はあるんだ…。


モンスターがなぜ人工的な建造物に住みたいんだろう?


といった疑問は一旦置いといて、成也は巨大なソードで斬りかかり、僕は遠い距離から魔法で援護した。



5分ほど戦った後、モンスターは光を放ち、爆発し、跡形もなく消え去った。


よくある演出だが、どういう理屈で生き物が爆発するんだろう…なんてことは考えず、成也と喜びを分かち合った。



〈とりあえずゲームには勝てた…が…お前このままだと確実に負け組人生歩むことになるぞ。〉


喜んでいたのも束の間、成也が急に僕に斬り込んできた。


〈ちなみに俺はお前より年上だ。世の中のことも少しは分かってるつもりだ。〉


僕と他プレイヤーとの会話を見ていたのだろう。


〈特別な才能があるわけでもない。やりたいことがあるわけでもない。でも自分は他人とは違う特別な人生が歩める、なんてのは幻想だ。社会はそんな風にはできていない。〉


年上かどうか知らないがなぜ急に上から目線で説教してくるんだろう。

赤の他人のはずなのに…。


〈どなたか知りませんがあなたは勝ち組なんですか?こんな夜中までゲームに没頭してるあなたが…。〉


〈自分は特別な人間だなんて幻想を抱きながら何も掴めない底辺の人生を歩むのか、現実を直視して自分のできることをやり、自分なりの幸せを掴んでいくのか、あとはお前の自由だ。〉



全然こっちの話を聞いてない…。


お前の自由と言うならほっといてくれよ…。



半ば現実逃避のために異世界で戦士になったにも関わらず、結局現実に引き戻された僕は、モニターの明かりだけが自分を照らし出す暗闇の中、一切音を立てることもなく、ただ視線をモニターとも暗闇ともいえないくうへとやっていた。



それから30分ほどが経過しただろうか。


少しずつ外からの光が差し込んでくる頃、迷える子羊は天使たちに囲まれながら、いや、お菓子の袋などのゴミに囲まれながら眠りに落ちていった。



目が覚めたのは昼過ぎだったと思うが、その日の記憶はほとんどない。


適当に冷蔵庫の中にあったヨーグルトや菓子パンを食べてたとは思う。


あとは何となく部屋の掃除をしてたぐらいか…。


そういえば押し入れからゴルフボールが1個出てきたっけ。


確かこれは小学生のときに…。



その日の夜、僕は久しぶりに夢を見た。


この光景は10年ほど前、小学校5年生の頃―



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