第3話 異世界にて①

「まずは就活してみて採用されたところで働いてみるってのはどうなの?何かしてみないと自分が何に向いてるのかなんて分かんないし、合わなきゃ辞めたっていいんだしさー。」

と夢の声。


てっきり場面転換のタイミングかと思ったらまだ女子大生警部による取調べは続いていた。


「なるほど…。啓人の誕生会にかこつけてみんなでオレを諭すって魂胆だったんだな。夢まで参加してきて…。」

僕はひねくれモード発動。


「えっ…、オレの誕生日にそれはイヤだな…。」

啓人はちょっと他人事モード。


「オレは晴が一人で悩んでんじゃねーかと思ってよ。せっかくみんなで集まったんだし相談乗れればと思っただけだよ!」

徹は…熱血先生モード?



そんなこんなで啓人のお祝い?だったはずの会は22時を回ったぐらいでお開きとなり、皆家路に着くため各方面へと散らばっていくのだった。



ようやく取調室から解放された気分…。


カツ丼じゃなくてイタリアンだったけど…。


なんて冗談は置いといて、なんだかんだみんなちゃんと現実と向き合ってんだよなー。


どこで大人のスイッチが入ったんだろうか。


ハタチになれば急にバチンと大人になるもんだと思ってたが、いまだにスイッチは見つからない。


というか探してもない。


きっと大学を卒業しても変わらないだろう。


学生の肩書がなくなったら何者になるんだろう。


みんなは会社員、公務員、大学院…僕は…。



「これ…。」


「あっ、すみません。」


ぼーっと歩いているうちに定期を落としてしまっていたらしい。

改札を出る直前にまだ若めの親切なサラリーマンが渡してくれた。


そのまま去っていったサラリーマンのスーツを着た後ろ姿を見ると、なぜか遠い世界の、自分の味方ではない何かに感じてしまった。


ごく身近にいる、ごく一般的な存在なのに…。



現実逃避みたいで嫌だったが、このまま眠れる気もしなかったので、僕は冒険に出ることにした。


家に着いた頃にはもうすぐ日が変わろうとしていたが、こんな真夜中でも世界平和のために戦い続ける頼もしい同志はいるものだ。


〈みんな明日は早くないの?〉


チャット機能でみんなに話しかけてみた。

いつもは異世界RPGの雰囲気を壊したくないので現実的な会話はしないようにしているのだが、どうも今日は異世界に入りきれない。



〈明日は学校休み!〉


〈会社は昼からだから大丈夫。〉


〈サニー、今日は寝落ちは勘弁ですぞ。〉


サニーはゲーム内での僕のニックネームだ。


晴→晴れ→サニーといった感じ。


〈今日は朝までコースの気分だよ。〉


〈おっ、さては何かありましたな?拙者でよければ話し相手になるでござるよ。〉


このオタク口調のポニーは最近高確率で遭遇する。


〈来年大学卒業なんだけどさー、この先何も決まってなくて、世界平和の前に自分の生活どうしよーって感じ。〉


〈ほうほう…それはのこのこ冒険に出かけてる場合ではなさそうてすな。就活なんかはされているのかな?〉


〈全然。なんか社会の歯車になりたくないっつーか、傘でゴルフのスイングする大人になりたくないっつーか。〉


社会人の方達もたくさんいるだろうに。

自分の現状を肯定したいがためにすごく失礼なことを言ってるなーと少し後悔しつつも今さら取り消すこともできない。


〈ポニーは学生?実は結構年上だったり?〉


〈拙者はかれこれ20年以上会社勤めをしておりまする立派な中年リーマンですぞ。まあ傘をスイングはしておりませんが。はは…。〉



…これは大変失礼しました。


てっきり学生か、声優志望あたりのフリーターかと思っていた(偏見)。



社会経験豊富な大人ということで、色々アドバイスを聞くこともできそうだが、かなり目上の方に対するこれまでの態度にバツが悪くなり、一旦間を取ろうと、冒険に集中することにした。


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