(5)
ロキたちは残った食事を平らげた。久しぶりに満腹になったロキは満足そうな顔をして、「ご馳走様でした」と手を合わせた。
イロハも苦しそうになりながらも全ての肉を平らげていた。ガーリックライスも米粒ひとつ残っていない。イロハは意外と大食らいなのかもしれない。それともビーナスは全員こういう性質なのだろうか。
「マスターお会計をお願いします」
と、言って、マスターに料金を払う。マスターは「お釣りの50ポイントね。有難うございました。また来てね」
釣りをそっとロキの手のひらに置いた。マスターはまた「ご武運を」と祈るように言うと、ロキは「有難うございます」と笑みを返した。
ロキたちは店の外に出ると、外はもう夕方近くになっていた。昼過ぎに店に入ってもうこんな時間になったのかと、空を見上げた。黄金色になった空は、どことなく寂しさを覚えた。
「ロキ、ご馳走様な。あと、なんかいるもんあるか?」
アディーが言うと、ロキは空から目線をアディーへ移し、頷いた。
「武器屋に行きたいんだけど。俺、もう何も持ってなくてさ」
「おーけー。着いてきな。すぐそばにあるから」
言って、三人はアディーに着いて行った。イロハは時折、ぷはあぷはあ、とお腹を抱えながら言っている。足取りもどこか重い。男でも多い量を平らげたのだから、満腹になるのも仕方ないだろう。のっしのっしと女の子とは思えない蟹股になって歩いている。
そういうしていると、四辻の角に、「amror」と書かれた看板が出てきた。アディーはそこを指さすと「着いたぜ」と言って、ガラス張りの自動ドアの前に立った。店構えは他の店舗と同じく、木造のものだった。自動ドアの透けたガラスから様々な武器が飾ってあるのが見えた。
ロキたちは中に入ると、いかにも斧を担いでそうな大男の店員が、掃除をしていた。店員はロキたちを見ると低い声で「いらっしゃい」と言って、床を掃いていた箒を持って、レジの方に入って行って、椅子に座ったようだ。
店内は、剣、斧、銃器、弾薬。様々な種類が揃っていた。ロキはそれをひとつずつ確認していくと、後ろから相変わらず重い足取りのイロハもそれに続いた。アディーは壁にかかっていたショットガンを手に取ると、あちこち廻っているロキに訊ねた。
「ロキ、何探してんの?」
言われると、ロキは「ああ」と言って、
「なんか、殺傷能力の低いものと、弾薬があればいいなって思って」
「殺傷能力の低い武器なんて存在するのかあ? なあ、店長。そんなもん置いてあるの?」
言われて、店主はよっこいしょ、と折角椅子に座った重い腰を上げると、どすどすと音が聞こえそうな足音を立てながら、剣の置いてあるコーナーに向かった。
「こいつなら、人を殺すまでにはいかないな」
言って、取り出したのは、グリップと柄がビニールのような素材で出来ていて、ブレードの部分は鉄でできている剣を取り出した。ロキはそれを受け取ると、かなり軽かった。店主は続ける。
「こいつは、スタンブレードって云ってな。グリップのところにボタンがあると思う。ブレードの部分には刃が付いていない。ただの鉄でできた塊だ。そのボタンを押してみな」
言われて、ロキはそれを押した。ちょうど親指が当たる場所に設置されている。すると、ブレードの部分がバチバチ、と大きな火花を散らした。店主が、うむ、と頷くと、
「名前のまま、これはリーチの長いスタンガンだと思ってくれたらいい。ただの護身用でしかない。だからビーナスを一時的に行動不可にはできるが、逃げるには最適だがこれだけじゃ金は稼げないな」
店主は腕を組むと、ロキは何度も角度を変えて翳すと、どうやら気に入ったようで、
「これを下さい。あと軽量のダイナマイトを2ダース分。それからこの子にベレッタを一丁下さい。あと弾丸も同じく2ケース分」
言うと、アディーが剣のコーナーでうろうろしていたときに、隅にそっと埃をかぶるように置かれていた木刀を見つけた。グリップに花の文様が刻まれていて、ブレードにもその蔦のような模様が刻まれている美しい品だった。
「なあ、店長。この木刀売り物か?」
訊ねると、店主は「それか」と言って、その木刀を手に取ると、
「これは飾りで置いていただけのものだ。こんなものではビーナスを殺すのも何度も殴打しないといけないしなリーチもそんなあるわけじゃないし、ただの装飾品だ」
ふっ、と息を一吹きかけて埃を飛ばす。それから数回素振りをすると、ロキにそれも渡した。
「全部で、千ポイントにしておいてやるよ。どうだ?」
ロキは木刀も抱え込むと、しばらく考え込んだが、アディーが「買っちまえよ!」とせっついてくるので、苦笑すると、
「わかりました。それでお願いします」
言うと、「あいよ。まいど」と店主が応えた。ロキはレジまで行って会計を済ますと、ベレッタをイロハに渡した。イロハはそれを見て、それが銃だと理解できているようで、どこか驚いた表情を浮かべた。
「ろ、き。あ、う?」
と、手に握られたそのベレッタをどうしたらいいのか分からないイロハに、ロキは努めて優しく、
「万が一、何か身の危険があったとき、これを使うんだ。それまで絶対に使っちゃいけないからね」
「あう」
言ってる言葉が通じたのか定かではないが、イロハは何か大事なことを言われたのは分かったようで、こくりと頷いた。
「さ、ポケットにしまって」
言って、ロキはイロハのツナギのポケットにベレッタを仕舞わせた。
「じゃあ、次はどうする?」
アディーが訊ねると、ロキは「そうだな」と呟くと、
「とりあえず隣の地区を目指しながらアマテラスプロジェクト本拠地や、施設の情報を得たいな。B地区とG地区。あとA地区も行ったことがあるけど、それだけでは今の情報のままだから」
「分かった。じゃあ、今日はどこか宿に泊まってゆっくりして明日から向かうとするか!」
言って、アディーはにかっと笑うと、「どこかいい宿ないかな~」とどこか浮かれた様子で歩いていた。その時だった。びゅん、と強い風が吹いた。すると、イロハの被っていた帽子が風とともに飛ばされてしまったのだ。
「あう!」
言って、帽子を拾いに走るイロハ。瞬間、目の前をちょうど通りかかった、この辺でよく見かける泥酔した男とイロハはぶつかってしまった。
「いてえな! なんだてめえ! ん? お前の顔どこかで……」
ひっく、としゃっくりをしながら、男は首を傾げた。イロハは帽子を拾って、咄嗟に深く被ったが、男に顔を近づかれ、覗かれた。酒の臭いがプンと鼻につく。
「イロハ!」
ロキは、走って、イロハのそばに駆け寄る。アディーもそれに続こうとすると、その男のあとから続々と男たちが着いてきていたらしく、男に声を掛けた。
「何してんだよ。もうすぐ賭場が開くってのによ」
「いや、こいつ。どこかで見た顔なんだ。髪は短いけど、これって」
そこまで言うと、別の男が、大きな声で、大仰に驚くと、
「こいつぁ、ビーナスだよ! なんでこいつがこんなところにいるんだ!」
叫んで、イロハを捕まえた。ロキは後ろから「放せ!」と言って、イロハの腰を掴んだ。
「この子はビーナスなんかじゃない! ただそっくりな少年だ!」
ロキはそう叫ぶも、男たちが群れを成してイロハを羽交い絞めにする。イロハは、「ろ、き。うー! うー!」と、泣き叫んでいた。
アディーが背後で、
「ロキ、やべえって! このままじゃ管理者が来ちまう! そのスタンブレードで男たちを気絶させろよ!」
言うと、ロキは涙目になって助けを呼ぶイロハの声が脳まで響いてくると、頭の中の何かがプチンと弾けたような気がした。
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