彼氏さんに別れを告げられて引きこもっていたら、親友の女の子に告白されました。

夜々予肆

わたしに彼女ができました

第1話 どうして、そんなこと言うんですか?

「もう別れよう、優里ゆうりちゃん」


 五限目が終わって誰もいなくなった大学の講義室で、正也まさやさんははっきりとした声でわたしに言いました。


「どうして、そんなこと言うんですか?」


 放たれた言葉を信じられなかった私は尋ねました。今までかれこれ半年間、わたしたちは上手くやってこられたはずです。


「なんかさ……。このまま付き合い続けてもお互いの為になんないと思うんだよね。俺たちさ、お互い映画が好きで、それで話が盛り上がって仲良くなって。そんで俺が告白して、付き合い始めたよね」

「はい」

「けどさ、俺たち映画好きだとしても、好きな映画全然違うよね」

「そうでしょうか?」


 わたしはどんな映画でも好きです。それなのに違うって、一体どういうことなのでしょうか。正也さんは激しく頷いてこう言いました。

 

「そうだよ! 俺は優里ちゃんはてっきり恋愛映画とかそういうのが好きなのかなって思ってたけど、ホラー映画とかが好きなんだよね?」

「どっちも好きですよ」

「でもどっちか選べって言われると?」

「ホラー映画です」


 男女が様々な困難を乗り越えて恋人になるのも感動しますが、ホラー映画の絶望感と何とも言えない結末の方がわたしは好きだなと感じます。


「だよね……。俺はさ、ホラーとかそういうの死ぬほど嫌いなんだよね。この前のデートでゾンビ映画観に行ったときも正直吐き気が止まらなかった」

「だからあのとき顔色が優れなかったんですね」

「そうだよ……。俺は美男美女がイチャイチャするのを観る気でいたのにグロいゾンビの血しぶき観ることになって死にそうになってたんだよ……」

「それは、ごめんなさいでした」

「うん……。だからさ、もう別れよう」

「ですからどうしてそうなってしまうんですか? たとえホラーが好きか嫌いかだとしても、共通の好みもありますし、上手くやっていくことはできるはずです」


 わたしの言葉に、正也さんは額を痛そうに抑えてしばらく黙ったあと、また口を開きました。


「理屈としてはそうかもしれない。だけどもう俺、優里ちゃんとは付き合えそうにないんだ。……それじゃあね、優里ちゃん」

「ま、待ってくだ――」


 わたしの制止も意味を成さず、正也さんは足早に講義室から出て行ってしまいました。


 どうしてこうなってしまったんでしょうか。わたしは大切なパーツが失われてしまったかのような喪失感に襲われました。堪らなく、悲しいです。


 そしてわたしは講義室でひとり、ずっと泣き続けてしまいました。

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