第302話 リーク情報

『エルくん、エルくん。さっきの話なんだけどね』

『教会のこと?』

『うん、それそれ。リーファが話の間に軽く探ってくれたみたいだよ〜』


兄様達から話を聞き、屋敷に戻って準備をしていると繋がりを介して火の精霊のフレアがそんな事を言った。


『ホント?』

『ええ、分かったことで良ければお話できますよ』

『いつもありがとう』


リーファは植物の精霊で、各地の植物を介して情報を沢山仕入れることが出来るらしいが、教会のことも簡単に調べてくれたみたいだ。


本当に助かる。


『ボクも少しなら調べられるんだけど、リーファほど耳が広くないからね〜』

『植物の精霊の特権ですから。でもフレアもその気になれば私よりも調べられますよね?』

『細かいのは面倒なんだもん。まあ、エルくんが望むなら少しは頑張るけど』

『必要なら頼むよ』


教会の目的が分からないのは難しいけど、リーファやフレアに無理をしてまで調べてもらうことでもないと思う。


いつも世話にばかりなってるし、二人に迷惑がかからない話なら問題ないんだけど、はてさて。


『まず、エルさんの懸念の一つを解決しておきます。教会の目的はエルさん本人であって、ご家族や私達のことではないようですね』

『それなら良かったかな』


俺としては、リーファやフレア達精霊関係の可能性もありそうかなぁと思っていたけど、リーファから違うと言われたのならそうなのだろう。


『俺個人ってことは、何か俺に求めてるものがあるって事かな?』

『軽く調べた限りではエルさんのおもてなしの準備が表向きされてますね。本題は別で、教皇が何かエルさんに頼み事をしたいような感じですが……』

『何か気になることでも?』

『いえ、実は帝国の教会本部の中に神の力を宿しているものがあるようで、その関係から少し情報が得にくいんですよね』

『あ、ほんとだ。何かあるね。ボクの方でもノイズが酷いや』


……ちょっと不安になる単語が出てきたなぁ。


神の力か。


『神様への生贄に選ばれたなんて落ちだったら困るけど、流石にそれはないか』

『今はないんじゃないかな?』


……昔はあったの?


『大丈夫!エルくんに何かあるようならボクが必ず守るから!』

『私もです。でも、恐らくですが危険はないと思いますよ』

『そうなの?』

『知り合いの神の力みたいなんですよね。彼女の力だとしたら特に問題ないかと』

『ルプスちゃんだね。あの子めちゃめちゃ人間に甘いけど、その分認めた相手にしか力渡さないしね〜』


知り合いなのか二人からの反応は悪くない。


生贄ルートは避けられそうで助かるが、そうなるとマジでなんで呼ばれたのやら。


『それに万が一があっても、彼女本人が居ないなら何とかなりますから』

『だね〜。最悪ルプスちゃん一人なら羽交い締めにしてくすぐってやるから問題ないね!』


『足の裏が弱いんだ』と実に悪戯っぽい笑みを浮かべるフレア。


神様にも羽交い締めと擽りが有効なのか……精霊とは凄まじいなぁ。


『確か、教会は精霊も信仰してたんだよね?』

『そのようですね。私は長らく交流は持ってませんでしたけど』

『ボクもだね。ノリが鬱陶しくて好きじゃないんだ』

『どんな感じなの?』

『めっちゃ崇めてくる。チヤホヤされるのは悪くないけど、あんまり執拗いのはちょっとね〜』

『仕方がありませんよ。私達は人前に出ること自体少ないですし、彼らにとって私達は神と同じく崇拝の対象なのでしょうからね』


そう言いつつも、リーファもあまり良い思い出がないのかちょっと苦笑気味な様子。


『俺も崇めた方がいい?』

『もしそれされたら、ボクは毎晩エルくんの枕元に立って抗議のために視線を向け続けるよ』

『幽霊かな?』

『の〜ろ〜う〜ぞ〜』


相変わらずフレアはノリの良いな。


『フレアではないですが、私もそんなことされたら抗議のために屋敷の庭に林檎の木を生やします』

『それは困るかな。分かったよ』


まあ、元々二人がそういうの好きじゃないのは知ってるし、今のままの方が俺としても楽でいい。


『教会は俺が二人とこんな感じになってるのは知らないんだよね?』

『調べた限りではそうですね』

『エルくんもあんまり人前で言わないしね〜』


隠してるわけではないけど、そういえばなんとなく家族以外には言ってないな。


『何かあっても、私達が付いてますから』

『そうそう。エルくんは安心して飛び込んでおいでよ』

『……だね。頼りにしてるよ』


兄様達からの話で不穏な気配がしなくもなかったけど、リーク情報からしてそんなに悪い話がくるようにも思えないので、あまり考えすぎるのも良くないか。


リーファが教会の用事は俺の家族やリーファ、フレア達精霊に関してのことではないと断言もしてるし、その言葉に偽りも絶対ないだろう。


問題は俺に何を頼みたいのか。


関係の悪い帝国を通してまで話を持ってきたということは、何かしら俺でないとダメな案件という見方もできる。


それが何なのかは皆目見当もつかないが、リーファやフレアの話からして向こうに悪意や敵意といった害意はない様子。


悪気なく相手にとっては正義として何かされる恐れもなくはないが……そればっかりは話してみて判断するしかないか。


何にしても得られた情報は大きい。


本当に二人にはお世話になってばかりだなぁ……今度きちんとお礼をしたいところだ。


教会についてはあれこれと嫌な想像も巡るけど、考えすぎても仕方ないし、警戒を忘れずに自然に行くとしよう。


もしもの時は兄様達に迷惑がかからないように上手く断って教会から速やかに逃げる準備もしておくか。

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