第301話 教会からの依頼
何やら最近、兄様達が慌ただしいなぁと思っていたら、お呼びがかかった。
「教会からの依頼……ですか?」
「うん、そうなんだ。それも向こうはエルをご所望でね。ご丁寧に帝国経由でシンフォニアとダルテシア両国にきてるんだよ」
少し困ったふうにマルクス兄様から説明を受けるに、どうやら教会から俺へのご指名が国経由で来たらしい。
何とも変な話だ。
教会とはそんなに接点はないはずなんだけどな。
もしかしてラムネの件だろうか?
「どういった内容なんですか?」
「とある行事への参加ということになってるみたいだね」
どうやら、ラムネの件ではないみたいだ。
しかし、とある行事への参加って何だ?
「それはどのような行事なんですか?」
「詳しくは書かれてないね。ただ、シンフォニア、ダルテシアの両国の国益に不利になるような事ではないと念を入れてかかれてる。しかもご機嫌取りのつもりなのか、こちらの欲しかった情報を送ってきてるんだよね」
どこか忌々しげにそう言うのは同じく同席してるシュゲルト義兄様だ。
シンフォニアの王太子のマルクス兄様と、ダルテシアの王太子のシュゲルト義兄様の二人を秘密裏に連れてきて、わざわざ人払いと傍聴防止の結界まで念入りに張るように言われたので妙だとは思ったんだけど、こういう話だったか。
「詳しいことは現地でということだけど、エルの率直な気持ちを教えて欲しいんだ」
「正直、何故俺なのかが分かりません」
「うん、僕もそこは気になった。でもエルの場合は色々と目立ってるから教会が興味を持ったと考えられなくもない」
「そっちの方が有り難いんだけどね」
そんなに目立つようなことしただろうか?
それにしても、兄様達の反応があまり芳しくない。
「何か懸念とかがあるんですか?」
「手順はきちんと踏んでるし、本来は問題ないんだけど……」
「帝国経由というのが気になるんだよね」
その言葉で何となく意味を理解する。
教会はそれぞれの国にあるけど、基本的には独立した組織のようなものだ。
宗教に国境は関係ないと言わんばかりに、大陸全土に広く信徒を持つ。
その情報網は凄まじく、時には国を相手に出来るような力まで持つほど大きな組織。
この大陸で最大の規模の国である帝国にも教会はあるらしいが、先代、先々代の頃から帝国の皇族と教会の仲は最悪らしい。
それ以前から両者の間には溝があったようだが、決定的になったのは先々代の頃だと言われている。
その理由はよく分からない。
色々と噂ならあるけど、直接聞けることでもないし、伝わってくる話でしか分からないとしか言えない。
ただ、その不仲の話だけはよく聞く。
『教会?確かに仲悪いみたいだね』
前にアクセル義兄様に軽く聞いてみたけど、そんな答えしか返ってはこなかった。
興味が無いのがありありと分かる。
まあ、アクセル義兄様はレインのことしか頭にないし当たり前といえば当たり前だけど。
「わざわざ嫌いな皇族にまで話を通してきてるっていうのがどうにも気になってね」
「どんな理由があろうと、皇族相手に顔を立てるような真似を今の教皇がするとは思えないんだよね。だからこそそこまでしてエルダートくんを呼ぶって裏がアリアリってこと」
「納得です」
厄介事の匂いしかしないのはよく分かる。
「ちなみに同行者の制限とかはありましたか?」
「なるべく少人数でという記載はあったね」
「しかも保護者の付き添いはご遠慮願うとまで書かれてたよ」
つまり家族は連れてくるなと。
まあ、とりあえずトールを連れていけるのなら問題ないかな。
「分かりました。では、行ってきますね」
「こうして話しておいてなんだけど……無理はしなくて大丈夫だよ?」
マルクス兄様は少し心配そうにそう言ってくれる。
例えこの話を俺が断っても、何とかすると言ってくれてるのだろう。
本当に優しい兄様だ。
シュゲルト義兄様も同じ気持ちなのかその言葉に頷いてるし、本当に頼りになる家族を持てて俺は幸せ者だ。
でも、だからこそこんな俺でも少しは家族の役に立ちたい。
「大丈夫です、無理はしませんから。それに帝国の教会には行ったことなかったので観光ついでに寄ってきますよ。お土産も買ってきます」
実際、あまり帝国内は回れてないし、ゆっくり見て回る良い機会かもしれない。
「……うん、分かった。じゃあ、大変かもだけどお願いね」
「お土産期待してるよ」
そんな俺の答えにマルクス兄様は少し考えてから俺の気持ちを尊重するように頷く。
そんな訳で、教会から直々のご指名を受けたので、帝国の教会本部まで行くことが決定した。
何もないといいけど、いざとなったら頼れる騎士も居るし何とかなるだろう。
あとは問題を起こさずなるべく平和りにその参加する行事とやらを済ませば問題ないだろうけど……なんだか行事への参加自体が建前にしか思えないのは考えすぎだろうか?
兄様達に言わせればそこはほぼ建前なのだろうけど、家族に迷惑をかけないように上手く立ち回らないと。
そこまで器用な訳ではないけど、無理せず出来ることをする。
それと、折角なので良いデートスポットとか探すのもいいかも。
美味しいお店とかあればアイリス達を連れてっても良いしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます