第300話 新人リドイム

トールが連れてきた新人のリドイムだが、予想以上に優秀なようだ。


覚えもよく、人当たりも良いので屋敷にも直ぐに慣れた。


レオニダスとは違った方向のコミュ力を持ってるようだし、その方が俺としても話しかけやすくて助かる。


「綺麗なお姉さんのお店?」

「多分きっかけはそれだと思うんです」


リドイム曰く、付き合いで行った綺麗なお姉さんのお店で上司のお気に入りに気に入られたのを見られてから扱いが悪くなったように感じたらしい。


「あまり目立たずに居たんですけど……その……逞しい体がタイプとか言われてベタベタされて……」


そこそこ高いお店で、人気もある人だったらしいのでそれが更なるやっかみに繋がったのかもと本人は考えてるようだ。


「男の嫉妬は醜いねぇ」

「女の気まぐれも怖いですよ」

「ちなみにそのお相手は好みのタイプじゃなかったの?」

「残念なことに全く」


その一件の遥か前からそばかすの似合う可愛い女性が好みらしい。


うむ、天性のものか。


「まあ、ウチにはその手のお店にお気に入りが居るような常連は居ないと思うから遠慮なく通うといいよ」

「え?レオニダスさんとかバルバンさんは行かないんですか?」


まあ、見た感じ行きそうなようには感じるか。


「あの二人はその手のお店には興味無いからね」


レオニダスは育ての親の影響で女性が苦手だし、バルバンは亡くなった奥さんと息子さんの影響でそちら方面の欲は消えてるから今後行くこともないだろう。


「そうなんですか……なら余計ここに来れて良かったです」

「そう?」

「ええ、その手の付き合いはどうも苦手で」


まあ、分からなくもないかな。


「あ、すみません。まだ成人してない殿下にこんな事話して……」

「気にしなくていいよ。あと数年だし」

「そうなんですよね。なんだか殿下は大人びてるのでつい」


大人びてるだろうか?


まあ、前世のお陰で少し擦れてはいるかもだけど、ギリギリまだ子供と言えるレベルのはず。


「そういえば、四人も婚約者が居るの凄いですよねぇ。しかも皆さん美形ですし、お優しいですし」

「自慢の婚約者だよ」

「しかも皆さん殿下のこと凄く慕ってるのがよく分かりました」


……まあ、そうかもだけど、それストレートに言うことだろうか?


「トールさんの所も凄いですよね」

「あそこは激戦区だからね。あと、間違ってもトールの娘には手を出さないようにね。その場合誰だろうとトールは必ず相手に生まれたことを後悔させてから縊り殺すだろうから」

「き、気をつけます……」


誇張なしでトリアに手を出したらまず間違いなくそんな運命を辿ると思うので念の為に言っておくけど、まあリドイムなら問題ないだろう。


「そういえば、リドイムの出身ってどこなの?」

「出身ですか?ええっと」


リドイムによると、故郷は北の方らしい。


幼い頃に母親が亡くなり、父親だという男に引き取られたけど、なまじ優秀だったので異母兄弟に嫌がらせをされてたらしい。


「地方の村長の家らしかったらしいですけど、正直どうでもよかったので誰も知らない土地に行こうとこちらに来たんです」


とはいえ、見知らぬ土地で後ろ盾もない中で職を探すのは中々苦労したらしい。


「最も、地元に居るよりはこちらの方が雇ってもらえる可能性が高かったので後悔はしてませんが」


実家の方は権力をかさに横暴に振舞ってたようで、何かと村人から恨みをかっていたらしく、また、リドイム自身引き取ってもらった父親からの愛情は皆無で口添えなんかも期待できない。


どこに行っても門前払いされまくるのがオチだったらしい。


その判断は間違ってないと思うけど、大したものだ。


なお、トールの調べによると、その実家の方は恨みをかいまくった村人達の反乱で一人残らず首を晒されているとのこと。


端的に言えば、リドイムの家族はもう既にこの世には居ないらしいが……リドイムはそれを知っても特に気にした様子はなかった。


「自分の家族は亡くなった母だけだったので」


強いなぁ。


俺もこれくらい強いハートを持ちたいものだ。


「じゃあ、天国のお母さんに安心して貰えるように早いとこ家族作らないとね」

「ですね。頑張って働きます」


やる気もあるし、本人にも大きな問題はないし優秀。


本当にトールは良い人材を見つけてきたものだ。


俺もその頑張りに報いるとしよう。


「明日、時間取れそうだからリドイムのタイプのお相手に会いに行くよ。準備しておいてね」

「分かりました」


ちょっと緊張してる様子だけど、凄く楽しみなのはよく分かった。


俺としても早いとこリドイムには家庭を持って欲しい気持ちもあるにはあるけど、条件に当てはまる人は何人か居るからゆっくり交流して決めるといい。


なんたって人生のパートナーを決めるんだからね。


そんな風に思っていたのだが、翌日に引き合わせた一人目にリドイムが一目惚れして即交際を申し込むとは思いもしなかった。


意外と情熱的なんだなぁ。


お相手もリドイムのことを気に入ったようですぐ承諾したのにも驚いたけど、本人達が良いのなら良いかな?


交際から初める辺り、ちゃんと先も考えてそうだし心配無用か。


温かく見守らせもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る