第298話 双子の嫁と賭けの行方

トールに新しく二人、嫁が増えた。


「リーゼリットと申します」

「マーガレットです。トール様がお世話になってます」


色々と男女間の攻防があったようだが、双子がそう挨拶に来た時に完全に決着が着いていたのはよく分かった。


うん、頑張ったんだろうけどクレア達の合格ラインを越えていたのと、本人達の思いの強さ……何よりも絶妙にトールの好みにドンピシャなのが決定打というところか。


娘が生まれて、嫁が二人身ごもった中で新しい嫁を迎えるとは本当に凄まじい男だ。


成人前のシールを含めて六人か……まだまだ増えそうだが、別館でも部屋が足りなくなりそうだな。


「いっそ、後宮でも作る?」

「勘弁して下さい」


割と真剣に聞いたら心底無理と返されてしまう。


「そもそも作るなら殿下の方でしょう。僕はあくまで殿下の騎士なんですから」

「俺だって作りたくないよ」


というか、トールと違ってナチュラルにモテるわけもないし、そんな甲斐性がある訳でもない。


いや、金銭的にはそりゃあ何人でも囲おうと思えば囲えるのかもだけど、生憎と俺は好きでもない人を囲う趣味はない。


女なら誰でも良いという訳でもないし、好きな人達とのんびりと穏やかに暮らせたらそれだけで幸せなのだ。


まあ、そこに水ライフがデフォルトで絡むんだけど、それはそれ。


好きな人に自分の好きな物を押し付ける趣味はないけど、そんな俺を受け入れてくれてる婚約者や家族には感謝しかないよね。


本当に今世は恵まれてると思う。


「俺からしたら複数人娶る二人が凄すぎるんだけどな」


そう感想を述べるレオニダス。


レオニダスはモテるモテない以前に女性が苦手気味だから、積極的に増えてくことはないだろうなぁ。


まあ、別に俺やトールも積極的に増やしてるわけではないけど。


いや、トールの場合はイケメンムーブを無意識にかまして、自分の好みの相手を無意識に落としていくスタイルなので自業自得といえばそうなるか。


「それ、人のこと言えませんよね?」

「心をナチュラルに読むんでない」

「読まなくても分かりますよ。何年の付き合いだと思ってるんですか」


こいつとの場合は年数はあまり関係ない気もするけど、確かに長い付き合いにはなるのか。


「熟年夫婦みたいな会話だよな」

「「勘弁して(下さい)」」


思わずハモってしまう。


どうせならアイリスやレイナたちの時にそれを言われてみた……うーん、でもまだまだ結婚前だからそれはそれで悩ましいような……でも、いいよね、以心伝心な熟年夫婦みたいなのも。


死ぬまで夫婦円満を保ちたいものだ。


「そういえば、式の方はどうする?」

「出来れば一緒にやりたいですけど……その辺はケイトやピッケと相談して決めます」

「4人一遍の結婚式ってのも凄そうだな。エルダート様の時もそうなるのか?」

「まあ、その予定だね」


あと数年あるけど、婚約者達としてはその方向で行きたいという考えでまとまってるようだ。


とはいえ、爵位の都合上シンフォニアとダルメシアの二国で分ける方にもなりそうだけど、具体的な内容については考える時間もあるしもう少し練っていく予定だ。


「しっかし、仲良いよな。エルダート様の婚約者達って。なんか聞いた話だと人数多いとギスギスしてるって聞くんだが」

「殿下を慕ってるだけではなく、互いを尊敬しあえてるので良好なんでしょうね」

「トールの所も仲良いだろ?」

「うちはまあ、それ以上にマイペースというかなんというか……」


まあ、トールの嫁という立場は中々特殊だしなぁ。


俺の立場も相当特殊だけど、イケメンうさ耳騎士様は騎士様で負けず劣らずというところか。


「トリアが成人するまでに何人増えるか賭ける?」

「お、いいなそれ。じゃあ、俺は8人前後に賭けるぜ」

「俺は12人前後に賭けるよ」

「人で変な賭けしないでくださいよ」


いやぁ、だってねぇ。


「なら、トールとはエルダート様が成人するまでに婚約者が何人になるか賭けるか。俺はトールと同じ数の8人前後にかける」

「では、僕は……って、いやいやそもそも賭けはやめましょう。絶対に損しかしませんから」

「まあ、それもそうだな。金を賭けるとろくな事ないだろうし」


割と堅実的な男達がうちには集まってるようで何より。


おっと。そういえば。


「それで、あの二人って得意なことあるの?」


新しく増えた双子の嫁。


リーゼットとマーガレットの二人のことは軽くしか知らないのでそう聞くと、トールは少し考えてから答えた。


「宮仕えの経験もあるようなので、大抵のことは出来ると思いますよ。家庭的なスキルはあまり向いてませんが」


中々波乱万丈な人生を送ってきたような経歴の匂わせもあったけど、なるほどねぇ。


「分かった。まあ、いつも通り侍女手伝いてしてまずは入ってもらうか」

「お願いします」

「まあ、すぐに抜けるかもだけど」

「それはどういう意味ですか?」

「いや、トールの子身篭って寿退社になるかなぁって」


それとも休職と言うべきか?


俺の言葉に何とも言えない表情のトールだけど、その未来がありありと想像出来たような顔でもあった。


何だかんだと受け入れた以上最後まで責任を取るつもりはきちんとあるようで何より。


俺はこれ以上増えないだろうし、楽しく外野として見守らせて頂くとしよう。


そう思っていたこの時の俺は大変に楽観的だったなぁと後々になるとしみじみ感じるけどそれはそれという事で。


先の事なんて分からないものだしね。

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